『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

文字の大きさ
上 下
28 / 46

第28話 『時間が、違う。』

しおりを挟む
 2024年6月22日(07:30) 黒崎下郷 <中村修一>

 墳墓を出たオレ達はまず車に乗り込んだんだが、さすがにそのままでは乗れない。8人乗りのプラドでも厳しいので、後部座席の両側に箱乗りして、荷台にも乗って無理やりYショップまで移動した。

「せんせー! 道交法違反だよ!」

 尊が後部座席から叫ぶが、背に腹は代えられぬ! となぜか時代劇の言葉で答えるオレ。

「壱与様!  この箱、獣の鳴き声のような音で、何もしておらぬのに動いております!」

「イサク、落ち着くのじゃ。これは……えんじん? という物で動くのだ。は何度か乗っておる」

「おお、さすがでございます」

 オレは思わず笑みを浮かべるが、イサクとイツヒメの驚きと興奮が伝わってくる。壱与は令和で数日過ごしてだいぶ慣れているのか、あまりはしゃがない。あるいはそう見せているのか。

 数分後、なんとかYショップに到着。駐車場に車を停めると、全員が降りてきた。イサクとイツヒメには、たまたま車に置いてあった上着やらコートっぽいものを羽織らせている。

「な、なんじゃこれは! これは真に宮田むらなのか?」

「壱与様、あの、あの小高い石の塔はなんでございますか! ?」

 イサク(伊弉久)とイツヒメ(伊都比売)は交互に驚きを声に出して伝える。そりゃあ未来というより異世界みたいなもんだろうからな。例えば天界とか黄泉の世界とか。

「イサク。宮田邑だよ。1678年後のね。今は下黒崎町って言うんだ」

 オレが教えると壱与が続く。

「イツヒメよ、あれはまんしょんと言うのだ。シュウ、あれで何人ぐらいが住んでおるのだったかの」

「うーん、ざっくりだけど、100から150人くらいだと思うよ」

「だそうだ」

「 「なんと」 」

 イサクとイツヒメの驚きは続く。

 まさに連続だ。初めて来た時の壱与がそうであったように、×2で驚いている。

 オレたちは慎重にYショップに入るが、イサク達の目が点になっているのが分かる。冷蔵庫、商品棚、レジ……すべてが彼らにとっては未知の光景だ。

「すごい……これほどの食べ物が1つの場所に……まるで市ではないか。それにしては人がおらぬが……」

 イサクが小さな声でつぶやいた。

『そうじゃな、イサク』と壱与が落ち着いた様子で答えた。

「ここは『コンビニ』というところじゃ。昼夜問わず開いており、必要な物を手に入れられる便利な場所なのじゃ」

 イサクとイツヒメは驚いた表情で壱与を見つめた。

「さすが壱与様!」

 イツヒメが感嘆の声を上げる。

「もうすっかりお詳しいのですね」

「そうだな。壱与はもう令和の世界にも慣れてきたみたいだ」

 オレが壱与に微笑みかけると、壱与は少し照れくさそうに首を傾げた。

「まだまだ分からぬことも多いのじゃが……シュウのおかげで少しずつ理解できてきたのじゃ」

 そう言ってオレにぴったりと体をくっつけてくる。

「お……おい壱与。オレ、オジさんになっちゃったんだぞ。そんな……」

「シュウはシュウなのじゃ。それに初めてここに来た時から……」

「あ、うん。わかった。ありがとう」

 オレは急に気恥ずかしくなって壱与の発言にストップをかける。その後オレたちは手分けして食料や飲み物を選び始めるが、壱与はイサクとイツヒメに現代の食べ物について説明している。

「これは『おにぎり』と言って握飯(にぎりいい)の中に具を入れたものじゃ。様々な味があるのじゃよ」

「なるほど……」

 イサクが感心した様子でうなずいた。




 ……おかしい。

 オレはおかしな事に気がついた。

 向こうの世界、弥生時代では3月だった。旧暦だとして誤差があっても4月末だ。そしてヒコナ(比古那)達に聞いた時間差が、弥生時間の1日が令和時間の1時間だという。

 だとすれば、比古那達が弥生に飛ばされたのが6月16日。飛ばされた先の日時は、弥生時代の日時で11月1日だった。それから4か月と23日が経過した。

 4か月と23日は約143時間。それをヒコナ達が言った令和時間で換算すれば約6日間のはずだ。6月16日の6日後の22日、今は6月22日のはずなんだ。

 だったらなんでこんなに寒いんだ? いや、正確には寒くない。弥生時間で4月末だったから、本来は今が6月なら暑く感じるはずだ。蒸し暑く、これから本格的な夏を迎える梅雨のはずなんだよ。

 それが体感で言うと4月末と変わらない。弥生時間の4月か、もしくは10~11月の秋だ。

 なぜだ?




「シュウ、まずは住むところだな」

 サンドイッチやおにぎり、弁当をお茶と一緒に食べ終わったオレ達は、次に泊まるところを探さなければならなかった。

「そうだな……タケル(尊)!」

「ああ、先生、どうしたの?」

「お前車の免許持ってたな? 今免許証持っているか?」

「あ、ああ。ちょっと待ってー。あったあった」

 タケルはポケットを探って取り出した財布の中をかき回すと、プラスチック製のカードを見つけ出した。尊はその免許証をオレに向かって見せる。

「よし、これで長崎まで行ってレンタカーを借りられる」

 オレはタケルに笑顔で答えた。

「みんな、聞いてほしい。まずは住むところを探さなきゃならないけど、福岡のオレの家まで、このままじゃ移動できない。だから長崎まで行ってレンタカーを借りようと思う。オレと壱与、そして免許持ちのタケルの3人で行ってくるから、他は遺跡に戻るかコンビニで時間を潰していてほしい。こっから長崎の市内まで1時間もかからないから3時間もあれば戻ってこれると思う」

 オレの言葉を聞いてみんなが顔を寄せ合った。現代に戻ってきた安心感からか、リラックスした様子だ。

「分かりました。オレ達は遺跡で待機します。携帯もあるし、何かあったらすぐ連絡しますね」

「ああ、そうしてくれ。みんなゆっくり休んで、すぐに戻ってくるから」

 ヒコナが前に出て話しかけてきたのでオレはうなずいて、周りを見回しながら全員に向かって話す。その時、イサクが少し緊張した表情でオレを見つめた。

「シュウ……殿、吾も同行いたしたい。壱与様をお守りするのが私の務めです」

「シュウでいいよ。こっちがもともとだけど、向こうでのオレは同い年だし、そのままで。よし、じゃあ一緒に行こう」

「かたじけない」

 イサクが返事をする前に、イツヒメも話し始める。

「吾は常に壱与様と一緒です。どこへ行かれても、お側を離れるわけにはまいりません」

 オレは二人の決意に満ちた表情を見て、うなずいた。主従関係というものだろう。

「分かった。じゃあ、オレと壱与、タケル、それにイサクとイツヒメで行くことにしよう」

 オレたち5人は車に乗り込んだ。エンジンをかけると、車内には快適な空気が流れる。バックミラーで仲間たちの姿を確認する。彼らは笑顔で手を振って見送っていた。

 車は動き出し、長崎への道を進み始めた。

 オレは前方に集中しつつも、頭の中では様々な思いが巡っていた。現代に戻ってきた安堵あんど感と、これからの不確実な未来への不安が入り混じる。




「壱与、この二人の世話を頼むよ」

 後部座席では、イサクとイツヒメが現代の車の内装に驚きの目を向けているが、彼らの反応を見ていると、オレは思わず微笑んでしまう。オレは運転しながら、隣に座る壱与に声をかける。

 壱与は穏やかな表情でうなずいた。

 2024年11月9日(07:30) 




 次回 (仮)『異世界なのか、それともタイムリープなのか』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【なろう440万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

レベルアップしたらステータスが無限になった

wow
ファンタジー
レベルが上がるのが遅すぎると追放された主人公にシステムメッセージが流れ驚愕の事実が通達される。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クロノ・コード - 成長の螺旋 -

シマセイ
SF
2045年、東京。16歳になると国から「ホワイトチップ」が支給され、一度装着すると外せないそのチップで特別な能力が目覚める。 ハルトはFランクの「成長促進」という地味な能力を持つ高校生。 幼馴染でSランクの天才、サクラとは違い、平凡な日々を送るが、チップを新たに連結すれば能力が強くなるという噂を知る。 ハルトは仲間と共に、ダンジョンや大会に挑みながら、自分の能力とチップの秘密に迫っていく。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

処理中です...