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第27話 『故郷と異世界』
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正元三年三月二十四日(256/4/24⇔2024年6月22日07:30)
「なっ、何だ! ?」
修一が大声をあげ、壱与を抱きかかえたまま周囲を見回すと、他の6人は頭を抱えてうずくまっている。
「なん、だ? またか……」
痛みで頭を抱えながらも咲耶をいたわるように抱きかかえている比古那がいた。
地鳴りと6人の頭痛はしばらく続き、そして止んだ。
「大丈夫か? みんな」
「なんとか……」
修一が周りを見回しながら声をかけると、尊が頭を押さえながら答えた。
「壱与様!」
「ご無事ですか?」
イサクとイツヒメも壱与のもとに駆け寄り、心配して声をかけてきた。
「イサク、イツヒメ、案ずるな。大事ない。然れど此処は……」
全員が辺りを見回すが、特に変わったところはない。しかし……。
「ねえ見てこれ! この壁、地面! 苔むしてところどころ雑草が生えてるわ!」
美保が突然声を上げ、尊が続く。
「確かに! どことなく古びた、風化した感じがするぞ! ……あああ! ……先生! 顔が!」
壁や地面に異変が起き、風化しているのも事実であったが、そこにいる全員を驚かせたのはそれではなかった。
「先生! 戻ってる! 前の……オジさんの先生だ!」
全員が修一の顔を見るが、イサクが剣を振り下ろしてその切っ先を修一に向けた。
「貴様は何者だ! 壱与様から離れぬか!」
「壱与様!」
次の瞬間、イサクが再び剣を振り上げたその時だった。
「待て! イサク」
壱与の一声でイサクは動きを動きを止めた。
「この者は敵ではない」
壱与が冷静に言った。修一は混乱した表情で自分の手を見つめ、それから顔に触れる。弥生時代で多少力仕事をしたとはいえ、二十歳の手の感触、顔の感触ではない。
明らかに質感が変わっているのだ。
「これはまさか……」
修一が困惑した声で呟いた。
「シュウ、落ち着くのじゃ」
壱与が優しく言った。
「どうやら、時間の流れが汝をもとの姿に戻したようじゃ」
比古那が立ち上がり、修一の方に歩み寄った。
「先生、本当に……先生だ。オレ達が知っている、あの大学の先生だ! でもなんで? 若返ったり元に戻ったり……しかも先生だけなんで変わるんだ?」
他の生徒たちも驚きの表情で修一を見つめていた。
「まさか……!」
尊がそうつぶやいて走り出した。目的地は石室の入り口だ。
尊は令和の時代から弥生時代に飛ばされた時の事を思い出し、逆になぞったのだ。入り口……最初の地震の時に開いた亀裂のようなものを抜け出して完全に外にでる。
「やっぱり……おおい! みんな来てみろ!」
尊が大声で叫び、修一達を呼ぶ。
その呼びかけに応じて、全員が急いで石室の入り口へ向かった。修一は壱与を優しく支えながら、他の生徒たちと共に外に出た。そこで彼らの目に映ったのは、驚くべき光景だった。
衛兵が、いない。
イツヒメが連れていた女官も、イサクが連れていた衛兵も、一人もいないのだ。
「なんじゃこれは……! 壱与様、お下がりください!」
明らかな異変を察知したイサクが、壱与を守るために前に進み出て剣を構え、辺りを警戒する。
イサクの警戒的な態度に、他のメンバーにも緊張が走った。
「落ち着け、イサク」
修一が冷静な声で言った。なんだお前は! お前になど指図される覚えはない! とでも言いそうな形相のイサクだが、その声に振り返ってみれば、自分の父親より年上の修一がいた。
気勢を削がれたイサクは、辺りを警戒しつつも剣を鞘に戻した。
「まずは状況を把握しよう」
壱与も静かに周囲を見回していた。
「シュウよ、これは間違いないであろうの……」
目の前に落ちている鋭利に切られたロープを発見した壱与は言った。
「うん、あの時の、あのロープだね」
壱与を連れ、時間移動の秘密を探ろうとロープを引きながら墳墓の石室の中に入ったのだ。
「先生これは……」
比古那が修一に聞いた。
「間違いない。2024年だ。ほら、見ろ」
修一が指差した後には、修一の愛車であるハイラックスサーフプラドがあった。
その光景に、比古那たち6人は息をのんだ。
「マジか……」
槍太が絞り出すように言った。
「私たちの時代に……戻ってきたの?」
咲耶が驚きの声を上げた。
「よし、よし、よ――――――っし! 戻ってきた! オレ達は戻ってきたんだ――――――!」
尊が叫んだ。雄叫びとも言えるような、魂の叫びだ。
それに触発され、タガが外れたかのように他の5人も喜びを露わにする。
その喜びの中、修一は冷静さを保とうとしていた。壱与とイサク、イツヒメの方を見るが、壱与はともかく、2人は明らかに戸惑いの表情を浮かべている。
「みんな、落ち着け」
修一が声を上げた。6人の歓声が徐々に収まっていくが、その顔には明らかに喜びと安堵があった。
「確かにオレ達は戻ってきた。でも壱与は……壱与とイサクとイツヒメは、本来、この令和の時代の人間ではない」
修一の言葉に、場の空気が一変した。歓喜に沸いていた生徒たちの表情が、一瞬にして真剣なものへと変わる。
比古那が静かに口を開く。
「そうか……オレ達は戻れたけど、壱与様たちは……」
比古那は壱与の事を『さん』と呼んだり『様』と呼ぶ。他のみんなもその都度変わるようだ。
「どうすればいいんだろう……」
咲耶が心配そうに壱与たちを見つめた。
壱与は落ち着いた様子で周囲を見回していた。
「不思議な事が二度、いや此度で三度であるな。起きてしまった。然れどこれは……吾はこの世界に来て、戻って、また来てしまった。何らかの因果が働いているとしか思えぬ」
イサクが緊張した面持ちで言う。
「壱与様、私たちはどうすれば……」
「すまぬイサク、イツヒメよ。吾にもわからぬのだ。然れど、然れど吾らは生きておる。生きておれば必ず見つかろう、戻る術も」
下を向くイサクとイツヒメであったが、しばらくすると顔を上げた。
「申し訳ありませぬ。ご不安なのは壱与様も同じ事、一度ならず三度まで。このイサク、命に代えましてもお守りいたします」
「吾も、お役に立ちとうございます」
イサクに続いてイツヒメも同意した。
「恩に着る……さて、シュウよ。如何致す?」
壱与は強い女だ。か弱く、可愛い女の子かと思えば、凜とした女王でもある。
「うん、まずは……と、難しい事を考える前に腹ごしらえしよう。腹が減っていてはイライラするし、いい考えも浮かばない。みんな、それでいいかい?」
満場一致で川下にあるヤマザキYショップへ買い出しに行くことになった。
「な、なんじゃこれは! これは真に宮田邑なのか?」
「壱与様、あの、あの小高い石の塔はなんでございますか! ?」
次回 第28話 (仮)『銃刀法違反』
「なっ、何だ! ?」
修一が大声をあげ、壱与を抱きかかえたまま周囲を見回すと、他の6人は頭を抱えてうずくまっている。
「なん、だ? またか……」
痛みで頭を抱えながらも咲耶をいたわるように抱きかかえている比古那がいた。
地鳴りと6人の頭痛はしばらく続き、そして止んだ。
「大丈夫か? みんな」
「なんとか……」
修一が周りを見回しながら声をかけると、尊が頭を押さえながら答えた。
「壱与様!」
「ご無事ですか?」
イサクとイツヒメも壱与のもとに駆け寄り、心配して声をかけてきた。
「イサク、イツヒメ、案ずるな。大事ない。然れど此処は……」
全員が辺りを見回すが、特に変わったところはない。しかし……。
「ねえ見てこれ! この壁、地面! 苔むしてところどころ雑草が生えてるわ!」
美保が突然声を上げ、尊が続く。
「確かに! どことなく古びた、風化した感じがするぞ! ……あああ! ……先生! 顔が!」
壁や地面に異変が起き、風化しているのも事実であったが、そこにいる全員を驚かせたのはそれではなかった。
「先生! 戻ってる! 前の……オジさんの先生だ!」
全員が修一の顔を見るが、イサクが剣を振り下ろしてその切っ先を修一に向けた。
「貴様は何者だ! 壱与様から離れぬか!」
「壱与様!」
次の瞬間、イサクが再び剣を振り上げたその時だった。
「待て! イサク」
壱与の一声でイサクは動きを動きを止めた。
「この者は敵ではない」
壱与が冷静に言った。修一は混乱した表情で自分の手を見つめ、それから顔に触れる。弥生時代で多少力仕事をしたとはいえ、二十歳の手の感触、顔の感触ではない。
明らかに質感が変わっているのだ。
「これはまさか……」
修一が困惑した声で呟いた。
「シュウ、落ち着くのじゃ」
壱与が優しく言った。
「どうやら、時間の流れが汝をもとの姿に戻したようじゃ」
比古那が立ち上がり、修一の方に歩み寄った。
「先生、本当に……先生だ。オレ達が知っている、あの大学の先生だ! でもなんで? 若返ったり元に戻ったり……しかも先生だけなんで変わるんだ?」
他の生徒たちも驚きの表情で修一を見つめていた。
「まさか……!」
尊がそうつぶやいて走り出した。目的地は石室の入り口だ。
尊は令和の時代から弥生時代に飛ばされた時の事を思い出し、逆になぞったのだ。入り口……最初の地震の時に開いた亀裂のようなものを抜け出して完全に外にでる。
「やっぱり……おおい! みんな来てみろ!」
尊が大声で叫び、修一達を呼ぶ。
その呼びかけに応じて、全員が急いで石室の入り口へ向かった。修一は壱与を優しく支えながら、他の生徒たちと共に外に出た。そこで彼らの目に映ったのは、驚くべき光景だった。
衛兵が、いない。
イツヒメが連れていた女官も、イサクが連れていた衛兵も、一人もいないのだ。
「なんじゃこれは……! 壱与様、お下がりください!」
明らかな異変を察知したイサクが、壱与を守るために前に進み出て剣を構え、辺りを警戒する。
イサクの警戒的な態度に、他のメンバーにも緊張が走った。
「落ち着け、イサク」
修一が冷静な声で言った。なんだお前は! お前になど指図される覚えはない! とでも言いそうな形相のイサクだが、その声に振り返ってみれば、自分の父親より年上の修一がいた。
気勢を削がれたイサクは、辺りを警戒しつつも剣を鞘に戻した。
「まずは状況を把握しよう」
壱与も静かに周囲を見回していた。
「シュウよ、これは間違いないであろうの……」
目の前に落ちている鋭利に切られたロープを発見した壱与は言った。
「うん、あの時の、あのロープだね」
壱与を連れ、時間移動の秘密を探ろうとロープを引きながら墳墓の石室の中に入ったのだ。
「先生これは……」
比古那が修一に聞いた。
「間違いない。2024年だ。ほら、見ろ」
修一が指差した後には、修一の愛車であるハイラックスサーフプラドがあった。
その光景に、比古那たち6人は息をのんだ。
「マジか……」
槍太が絞り出すように言った。
「私たちの時代に……戻ってきたの?」
咲耶が驚きの声を上げた。
「よし、よし、よ――――――っし! 戻ってきた! オレ達は戻ってきたんだ――――――!」
尊が叫んだ。雄叫びとも言えるような、魂の叫びだ。
それに触発され、タガが外れたかのように他の5人も喜びを露わにする。
その喜びの中、修一は冷静さを保とうとしていた。壱与とイサク、イツヒメの方を見るが、壱与はともかく、2人は明らかに戸惑いの表情を浮かべている。
「みんな、落ち着け」
修一が声を上げた。6人の歓声が徐々に収まっていくが、その顔には明らかに喜びと安堵があった。
「確かにオレ達は戻ってきた。でも壱与は……壱与とイサクとイツヒメは、本来、この令和の時代の人間ではない」
修一の言葉に、場の空気が一変した。歓喜に沸いていた生徒たちの表情が、一瞬にして真剣なものへと変わる。
比古那が静かに口を開く。
「そうか……オレ達は戻れたけど、壱与様たちは……」
比古那は壱与の事を『さん』と呼んだり『様』と呼ぶ。他のみんなもその都度変わるようだ。
「どうすればいいんだろう……」
咲耶が心配そうに壱与たちを見つめた。
壱与は落ち着いた様子で周囲を見回していた。
「不思議な事が二度、いや此度で三度であるな。起きてしまった。然れどこれは……吾はこの世界に来て、戻って、また来てしまった。何らかの因果が働いているとしか思えぬ」
イサクが緊張した面持ちで言う。
「壱与様、私たちはどうすれば……」
「すまぬイサク、イツヒメよ。吾にもわからぬのだ。然れど、然れど吾らは生きておる。生きておれば必ず見つかろう、戻る術も」
下を向くイサクとイツヒメであったが、しばらくすると顔を上げた。
「申し訳ありませぬ。ご不安なのは壱与様も同じ事、一度ならず三度まで。このイサク、命に代えましてもお守りいたします」
「吾も、お役に立ちとうございます」
イサクに続いてイツヒメも同意した。
「恩に着る……さて、シュウよ。如何致す?」
壱与は強い女だ。か弱く、可愛い女の子かと思えば、凜とした女王でもある。
「うん、まずは……と、難しい事を考える前に腹ごしらえしよう。腹が減っていてはイライラするし、いい考えも浮かばない。みんな、それでいいかい?」
満場一致で川下にあるヤマザキYショップへ買い出しに行くことになった。
「な、なんじゃこれは! これは真に宮田邑なのか?」
「壱与様、あの、あの小高い石の塔はなんでございますか! ?」
次回 第28話 (仮)『銃刀法違反』
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