『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

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第26話 『石室の秘密』

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 正元三年三月十六日(256/4/16⇔2024年6月22日00:00) 弥馬壱国 方保田東原の宮処かとうだひがしばるのみやこ

「当然、オレ達もいくよ」

 比古那が修一に向かって言った。

 尊:「もちろん、オレも行くさ」

 槍太:「当たり前だ、オレも参加するぜ」

 咲耶:「私も一緒に行くわ」

 美保:「私も同行させてもらうわね」

 千尋:「わ、私も……一緒にいく……」

 修一が壱与と話した已百支国いはきこくの宮田むらに行く件を六人の生徒に告げると、当然のような返事が来た。調査だけのつもりだったのだが、やはり遺跡の事になると敏感だ。

 どういう原理で過去と未来を行き来(壱与は)したのか? 

 気にならない方がおかしい。

「いや、でも危険かもしれないんだぞ? 状況を調査して、もどってくるんだ。1か月も留守にはしない」

「先生、だからだよ。正直、オレ達ここに飛ばされて、死ぬ思いをして今ここにいるんだ。壱与さんのおかげでこうやって暮らせているけど、何が起こるか解らないのは、今も変わらない。そんな時に先生が壱与さんと遺跡に行くっていうじゃないか。黙っていられる訳がないだろう?」

 比古那が言うのはもっともだ。
  
 壱与はもちろんの事、イサクやミユマ、イツヒメやその他の人達も六人に対してやさしい。壱与のお客様と思っているのかもしれないが、好待遇なのは間違いない。

 しかし、ひとたびいなくなれば、何が起こるかわからないのだ。

「本当にそれでいいのか?」

「構わない」

 全員の意見は変わらない。

「分かった。準備、といっても何もないだろうけど、明日出発する。今日はしっかり休んでおくんだぞ」




 ■翌日 正元三年三月十七日(256/3/16⇔2024年6月22日01:00)

 朝食を食べ終わり、全員が出発の準備を終えた。

「よし、出発だ」

 壱与は当然輿こしに乗っている。修一と他の六人にも輿が用意された。修一は鉄と帆船の件で貢献をしたとして、弥馬壱国の大夫の役職に就いていた。

 その他の六人も輿が用意されたのだが、休憩場所や宿泊地点までは輿に乗って移動するので、会話ができない。

 修一としては壱与と二人乗りの輿が良かったのだろうが、残念ながらない。車輪付きの馬車が欲しいところだが、馬もなければ馬車もない。そして通る道も整備されていないのだ。

 道中、周囲の景色が変化していくのを観察した。弥馬壱国の豊かな土地から、徐々に山がちな地形へと移り変わっていく。


 

 ■正元三年三月十八日(256/3/17⇔2024年6月22日02:00) 都支国ときこく

 2日目、一行は都支国に到着した。

 ここで一泊し、翌日の海路に備えるのだが、宿泊地ではようやく会話を交わす機会があった。

「明日は海を渡るんだね」

「大丈夫よ。帆船だから、前よりずっと速いはずだわ」

 千尋が少し緊張した様子で言ったので、美保がそう励ました。


 

 ■正元三年三月十九日(256/3/18⇔2024年6月22日03:00) 有明海

 朝早くに一行は帆船に乗り込んだ。風を受けて船が動きだすと、全員の顔に喜びが広がる。

「すごい!  こんなに速いんだ!」

 槍太が興奮して叫んだ。
 
「来るときと全然違う! あっという間に着きそうだな」

 尊がうなずいた。

 予想通り帆船のおかげで海路はスムーズに進み、昼過ぎには対岸に到着した。




 ■正元三年三月十九日昼過ぎ(256/3/19⇔2024年6月22日03:30) 伊邪国いやこく

 陸路に戻り、一行は伊邪国へと向かった。

「行きと帰りで全くちがうね」

「そうだな。輿のおかげだ。狭いから窮屈だけど、歩くより断然いいよ」

 咲耶が言ったので比古那が返す。しかし厳密に言えば帰りではない。行く、のだ。


 

 ■正元三年三月二十日(256/3/20⇔2024年6月22日04:30) 已百支国 宮田邑

 最終日、一行は目的地である宮田邑に到着した。長老ナシメが出迎えてくれた。

「無事に着いたな」

 修一が生徒たちに言った。
 
「はい。ここからが本当の調査の始まりですね」

 比古那が答えた。全員がうなずき、これからの調査に向けて決意を新たにする。しかし壱与の本来の目的は遺跡ではない。例年行われる祭祀さいしなのだ。

 お隠れ(日没)する日の神様への祈りの儀式である。

「祭祀の準備は整っているでしょうか?」

 壱与が長老ナシメに尋ねると、ナシメは丁寧に答える。

「はい、すべて滞りなく進んでおります。明日の日没時に執り行う予定です」

 ナシメと壱与の会話を六人は聞いているが、尊の質問に修一が答える。

「この祭祀は、日の神様へ感謝と祈りを捧げる大切な儀式なんだ。壱与の目的は主にこの祭祀のためだよ」

「へえ、そうだったんですか」

 尊が驚いた様子で口を開いた。

 比古那が確認するように尋ねる。

「でも、遺跡の調査もするんでしょう?」

「ああ、もちろんだ。祭祀の前後に時間をかけて調査する」

 修一は答えた。




 ■正元三年三月二十四日(256/3/24⇔2024年6月22日07:30) 

 あれから3日間、夕方の日没の時間に祭祀は滞りなく行われた。しかし、調査はいっこうにはかどらない。まったく手がかりがないのだ。どんな条件でアレが発生するのか?

 七人は朝早くから祭祀が始まる夕方まで、1日10時間以上調査をした計算になる。

 一行は壱与とともに、祭祀が終了してもしばらく留まって調査を続ける約束だったので、4日目も同じように朝から調査をした。
  
 いい加減何を調べるんだ? と探すネタも尽きてきた頃、壱与が現れた。

「シュウ、どうじゃ? なにか見つかったか?」

 くったくのない笑顔とその女王言葉のアンバランスが可愛い壱与だが、しっかりとイサクとイツヒメも付いてきている。

 修一は壱与の問いに肩を落とし、首を横に振る。

「残念ながら、ね。何も見つかってない。手がかりさえ掴めてないんだよなあ」

「そうか…… まあ、簡単には見つからないじゃろうな」

 壱与は考え込むような表情を浮かべた。

 イサクは壱与の横に立って不安そうな表情を浮かべているが、イツヒメも同様に困惑した様子で周囲を見回している。修一が生徒たちの方を振り返ると、彼らも疲れた様子で途方に暮れているようだった。

「みんな、少し休憩しようか。頭を休ませてリフレッシュしよう」

 と修一は提案した。

「そうですね。このまま続けても、同じところをぐるぐる回っているだけかもしれません」

 そう言って比古那が同意して立ち上がった。手の泥をはたいて落としている。

「この土地の人たちにもっと話を聞いてみるのはどう?  何かわかるかもしれない。あ、そう言えば気付かなかったけど……」

「あっ!」

 美保が話している途中で、突然修一の隣にいた壱与が足を滑らせて転びそうになった。

 修一はとっさに壱与を抱きかかえ、話しかける。

「大丈夫?」

「大丈夫じゃ、それより……」


 

 ごごごごごごごご……。

 地鳴りと共に石室が震えだした。




 次回 第27話 (仮)『故郷と異世界』
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