『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

文字の大きさ
上 下
23 / 46

第23話 『狗奴国王日出流と熊襲帥』

しおりを挟む
 正元二年十二月十四日(256/1/14⇔2024年6月18日8:00) 狗奴国くなこく 蓬原ふつはら宮処

日出流ひいずる王よ」

「なんだ」

「近ごろ面白い話を耳にしました。何やら弥馬壱国に異国の民が現われたそうですぞ」

 狗奴国の都である蓬原の宮殿で、日出流王と軍事面の最高責任者熊襲帥くまそすいの会話である。

「ほう、異国の民とな。どこの国の者だ? 中土(中国)の者ではないのか?」

 日出流王は興味を示しながら問いかけるが、熊襲帥は首を横に振りながら答えた。

「それがはっきりとしないのです。噂によると、弥馬壱国の西、已百支いはき国の宮田むらに現われたそうなのですが、彼奴らの服装や言葉遣いが全く見たことも聞いたこともないものだとか。まるで天から降ってきたかのようだと」

「ふむ……已百支国であれば、やはり中土、魏もしくは呉の民が流れ着いたのではないか?」

「いいえ、そうではないようです」

 熊襲帥は慎重に言葉を選びながら続ける。

「中土の民とも全く異なるそうです。彼奴らの言葉は吾等の言葉に似ているとも聞きますが、同時に奇妙な言葉遣いもあるとか」

 日出流王は眉をひそめた。

「吾等の言葉に似ている? 然れど見たこともない服装で、奇妙な言葉遣い? 如何いかなることだ」

「子細はまだ掴めておりませんが、彼らは驚くべき智恵と技を持っているようです。病を治す術や、作物の育て方、さらには金属の扱い方など、我々の想像を超える技を持っているとの噂です」

 王の眼が鋭く光った。

「ほう。それは興味深い。で、その異国人たちは今どうしている?」

「壱与のもとに匿われているそうです。弥馬壱国の都、方保田東原かとうだひがしばるの宮処に滞在しているとのこと」

「なるほど」

 日出流王は立ち上がり、部屋の横に並べられている弓や刀剣類をさわり、振りかざしたり弓を射る素振りをみせる。

「面白い事を聞いたの。もしその噂が本当ならゆゆしき事だ。これ以上弥馬壱国の力が増してはならん」

「はい。我が国にとっては脅威となり得ます。彼奴らの知や技が弥馬壱国の力を強めれば、吾等の力が弱まる事と同じです」

 日出流王は熊襲帥を振り返った。その目には決意の色が宿っている。

「ならば、吾等もその力を手に入れねばならん。異国人たちの正体を突き止め、可能ならば彼らを我が国に招き入れる。それが難しければ……」

 日出流は言葉を濁したが、熊襲帥にはその意図が伝わった。

「……かしこまりました。早速、斥候を送り、詳しい情報を集めましょう。その後適した策を練りたいと存じます」

「よかろう。だが、慎重に行動せよ。壱与に気づかれては元も子もない。まずは物見に専念するのだ」

「はい、細心の注意を払います」

 熊襲帥は深く頭を下げた。




 ■弥馬壱国 方保田東原の宮処

「え? センセ何してんの?」

「え? 何が? ……うわあっ!」

 咲耶の声に驚く修一であったが、なんと横には壱与がいて、修一の傍らに寄り添っているではないか。後ろを見ると女官長の伊都比売(イツヒメ)が笑いをこらえて黙って立っている。

 修一は美保が悪ふざけでやっているのだと思って気づかなかったのだ。飛ばされてくる前、美保はそうやって修一おじさんをからかっていた。

「何してんの! 壱与?」

「何っていつもの通りじゃ。祭事やいろんな事で忙しいからの。いつもやっていたではないか」

「いや、壱与、みんないるんだからさあ……。誤解を生むような発言は止めようよ」

「なんじゃ、修一は吾がこうやってやるのは嫌いなのか?」

「いや、そうじゃないけど……」

 壱与は美少女である。詳細な生年月日は不明だが、伊都比売いつひめ同様20歳前後である。そんな壱与は、日出流王と熊襲帥が秘密計画を立てているとは露ほども知らない。
 
 むしろこうやって修一達と過ごす時間が楽しいようだ。6人が増えてさらにそれはエスカレートしている。女王だ日弥呼の跡継ぎだと呼ばれても、20歳の女の子に変わりはない。

 育った環境や時代が違っても、やはり楽しいのであろう。修一も今は20歳になっている。現世での修一も壱与にとっては魅力的(父親みたい?)であったが、また違う意味で好感を抱いているのは確かだ。

 修一は困惑した表情で周りを見回した。咲耶は面白そうに、他の学生たちも興味津々といった様子だ。

「あの、みんな。誤解しないでくれよ。これは……」

 修一が言い訳しようとすると、壱与が割り込んだ。

「何を恥ずかしがっておる、修一よ。お主は吾の大切な客人じゃ。そして、吾にとって特別な存在じゃ」

 壱与の率直な言葉に、部屋中が静まり返った。修一は顔を真っ赤にして、何も言えなくなってしまう。

「へぇ、センセ。女王様に気に入られちゃったんですね」

「違う! 違うんだ!」

 美保が冗談めかして言うので修一は慌てて否定するが、誰も信じていないようだ。

「皆様、そろそろ昼餉ひるげの時間でございます。食事の準備が整いましたが、いかがしましょう?」

 伊都比売がせき払いをして、場の空気を和らげようとした。

「おお、そうじゃな」

 壱与は嬉しそうに言った。

「みんなで一緒に食事をしよう。修一、お主の隣に座るぞ」

「わかったよ、壱与。みんな、行こうか」

 修一はため息をつきながらも、微笑みを浮かべた。

 6人は笑いながら、修一と壱与の後に続いた。彼らは容認できない現実の中で、なんとか生き延びようと、この異世界での新しい日常を楽しもうと考えているようだった。
 
 食事の間、話題は自然と現代の技術や知識に及んだ。

「ねえ、センセ」

 槍太が口を開いた。

「俺たちの知識を使ってこの国をもっと良くするって、できるのかな?」

「うーん、そうだな。前にも言ったが、今できることをやりつつ、弥馬壱国を強くし、そしてオレ達は帰る方法を見つけなければならない」

 全員が大学生で専攻を持っていたし、考古学以外にも趣味やサブ的な知識と現代知識を駆使して考えていた。

 ・修一は全般。考古学・古代史・古代語他。
 ・比古那は医学全般で実家が造り酒屋。
 ・尊は農学部で実家は農業と漁業の兼業。
 ・槍太は工学部で実家は小さな造船所(鉄工所)
 ・咲耶は医学部で実家は産婦人科医院
 ・美保は農学部(山林関係)で実家は田舎の大地主(山の事ならなんでも?)
 ・千尋は機械工学部で実家は紡績工場

 修一と6人の会話を壱与はニコニコしながら聞いている。

「お主たちの智恵は本当に素晴らしく、ありがたい。吾の国をより良いものにしていこう。そして、お主たちの故郷に帰る道も、きっと見つかるはずじゃ」

 一同は笑顔でうなずき、食事を再開した。

 彼らは過去と未来の狭間で、確実に変化をもたらそうとしていた。

 しかし彼らは知らなかった。遠くの森の中に潜む狗奴国の斥候たちが、この不思議な集団がもたらす可能性のある脅威と機会について、調査を行い報告をしようとしている事を。




 次回 第24話 (仮)『車輪と家畜と道路』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【なろう440万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

処理中です...