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第19話 『弥馬壱国へ』
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正元二年十一月三日(255/12/3⇔2024年6月16日14:00) 已百支国 宮田邑
翌日早く、ヒコナ達6人は起こされて弥馬壱国へ出発する事となった。竪穴式住居の中は意外と暖かく、潔癖症気味の千尋でさえも、慣れて良く眠れたようだ。
藁のようなものを敷いて布団の代わりにしていたが、掛け布団は獣の毛皮のようだった。朝食を済ませたら全員がそれっぽい衣服に着替えさせられた。長老が準備してくれたのだろうか。
もっとも長老ナシメや弟ツシゴリの様な立派な官服ではない。普通の村人より少しランクアップしたくらいの、初級役人のような出で立ちだ。咲耶や美保、千尋も同様に、最下級の巫女のような服である。
50人程度の隊列は、9時前くらいには宮田邑を出発した。9時というのは、もちろん体感である。南中が12時ならば、日の出した方角から南中を90°として半分、それを9時とした程度だ。
「長老、弥馬壱国まではどのくらいかかるのですか?」
ヒコナは出発目に長老に聞いた。道中は筆談も難しく、宿泊時に確認するしかできないからだ。何とか日常会話だけでも出来るようになればいいが、同じ日本語とは思えないほどかけ離れている。
『四日、五日』
『陸行二日、水行一日、陸行二日哉』
『然』
「ねえ、弥馬壱国行くって言ってたでしょ? どのくらいかかるの?」
美保が尊に聞いてきた。
「ん、いや、ちょっと待って計算してる……長老が言うにはざっくり六日だってさ」
えええ……という悲鳴にも似た声が女子を中心にあがる。あがるが、これはどうしようもない。一縷の望みをかけて、修一がいるであろう弥馬壱国へ向かうのだ。
尊は考えている。
今が11月もしくは12月だとすると、日は短い。おそらく10時間くらいだろう。9時に出発したから日没が夕方5時とすれば、24~25kmくらいだろう。
若干遅い気もするが、荷物や輿も含めた隊列の行進だ。徒歩で時速3kmなら妥当な速さだろう。3×8で24km。恐らくは……野宿するのは川平有料道路の終点がある(であろう)場所付近だろう。そう予測してみんなに話す。
「まじやっば!」
「ちょっとキツすぎない?」
「……」
上から咲耶、美保、千尋の順だ。不平不満を言うのが可愛い、と思われるのが女子の特権という人もいるかもしれないが、それはあくまで普通の状況で、である。
普通ではないのだ。
「みんな、いろいろあると思うけど、状況は良くなってるからな」
どこが良くなってんのよ~! という女子の不満をよそに尊は説明を始める。
「いいかい? まず俺達は、いきなり飛ばされて弥生時代の日本へきた。理由はわからないが、状況は把握できただろう? それから殺されそうだったけど、間一髪逃げる事ができた。そのうえ村の実力者どころか、邪馬台国、いや弥馬壱国でもかなりの権力者らしいおじいさんの庇護を受ける事ができたんだ。これで、まずは殺される心配はなくなったし、衣食住もなんとかなる」
その通りだ、と言いたげなヒコナと、黙って頷いている槍太がいた。ヒコナは積極的なリーダー派で、尊は知的な参謀タイプ。槍太はやんちゃ系だけど、やる時はやるタイプだ。
現に石室で兵士の一人に石を投げて撃退している。
男性三人はなんとか納得しているが、どうしても女子には耐えられないようだ。それでも耐えてもらうしかない。
1日24kmという距離は普通に考えたら、現代に生きる日本人が歩く距離ではない。都市部以外に住んでいる人ならあるかもしれないが、通勤でも通学でも正直考えられない。
考えられるとすれば、例えば登山であったりハイキングであったり、そういう趣味としての歩行ならば24kmはあり得る。しかしそれに慣れていない現代人ならば、数キロ歩いた時点で根を上げるだろう。
「良し、ここらで野営をしよう」
そういう号令がかかったのだろうか。陽も暮れかかった夕刻に、隊列の長らしき男が叫んで野営の場所を探す。尊はみんなに現在地の予想地点を告げた。
「まじか。あとどれくらいだろうな」
とヒコナが言うので尊が予測を言う。
「今日と同じ速さなら、あと二日歩いて、そっからは船だろう。そして着いたらまた歩く」
ひゃあああ、という槍太と女子以下同文。
隊列は部署毎にまとまって火を焚いている。夕食の準備が終わってみんなで食卓を囲む。といっても大層なものはない。干し肉と干し魚に、少しの穀類と野菜などだ。
食事が終わると男子で見張りをした。長老からは休んでて良いよと言われたのだが、まだ安心しきれていないのか? それとも自分達だけ休むと悪いと思ったのか。
男子は3交代だったが、あれだけ悪態をついていたのに女子は食事が終わるとすぐに眠りについた。普段運動をしない現代人がこれだけ動くとかなり疲れたのか、熟睡まで時間はかからなかった。
もちろん男子も見張り以外の時は爆睡した。
■正元二年十一月四日(255/12/4⇔2024年6月16日15:00) 高田邑
翌日、6人はこの時代にきてから2回目の野宿での朝を迎えた。経験したくなくても、慣れなくてはいけないことを、言葉には出さないが全員が感じていた。
不思議なもので、口数は少ない。弥馬壱国という目的地と、修一に会うという目的がはっきりして、それに向かって進んでいるという実感があるのだろうか。
不平不満はあるものの、みんなが一つにまとまる時というのは、言葉は必要ないのであろうか。
■正元二年十一月六日(255/12/6⇔2024年6月16日17:00) 伊邪国 多比良浜(雲仙市国見町)
「天気が悪い、船を出せない」
長老のその言葉に落胆する一行だが、一口に雨や悪天候だと馬鹿にはできない。整備されていない道を歩き、対岸の見えない有明海を渡る。天気を侮って遭難など、シャレにもならない。
土砂崩れや暴風雨で難破など、十分にあり得るのだ。
「え? じゃあここで晴れるまで待つの?」
「まあ、そうなるな。天気はどうすることも出来ないからな」
珍しく千尋が口を開いたが、それに対して優しく尊が答えた。
「ま、仕方ねえな。ここは伊邪国ってんだろ? どこかで休憩できないのか? 突っ立ってても仕方ない」
「長老が来ることを知って宿の準備をしているらしい。俺達は客だから、屋根付きの家で休憩できるそうだ」
「やったね。そうこなくちゃ」
槍太と尊のやり取りが続く。
「この海を渡ったら熊本か……。そこから歩いて、やっと弥馬壱国に着くんだな」
「そうなるな」
ヒコナは今にも雨が降りそうな天気の海上を眺め、熊本であろう方角を見ていった。尊は短く答え、一行は案内された宿舎へ向かう。
■翌日 正元二年十一月七日(255/12/7⇔2024年6月16日18:00)
昨日の土砂降りが嘘のように晴れ上がった空を見て、一行は晴れやかな気持ちになる。それでもまだ道半ばであるが、50名の一行を乗せた船は有明の海を東へ進む。
出発は朝8時くらいだろう。弥生式の準構造船は帆がなく、人力であるために2㏏程度しか速度がでない。しかも休憩を入れながらとなるので平均するとその速度となるのだ。
昼過ぎに対岸が見え、都支国の湊に着いた。
一行は荷物を降ろすとすぐに進み始めた。ヒコナ達6人にとってはやっとゆっくりできる5時間であったが、目的地の弥馬壱国までもう少しである。
「な、なんだこれ……。吉野ヶ里の何倍もあるじゃないか……」
尊が驚きの声をあげ、続いて各々が感じた事を口に出す。
邑も集落も皆同じような風景で、それ以外は山に川、代わり映えのしない道程であったが、弥馬壱国の宮処である方保田東原の宮処に着いたのは翌日である。
正元二年十一月八日(255/12/8⇔2024年6月16日19:00)の夕暮れ時であった。
次回 第20話 (仮)『お前は誰だ』
翌日早く、ヒコナ達6人は起こされて弥馬壱国へ出発する事となった。竪穴式住居の中は意外と暖かく、潔癖症気味の千尋でさえも、慣れて良く眠れたようだ。
藁のようなものを敷いて布団の代わりにしていたが、掛け布団は獣の毛皮のようだった。朝食を済ませたら全員がそれっぽい衣服に着替えさせられた。長老が準備してくれたのだろうか。
もっとも長老ナシメや弟ツシゴリの様な立派な官服ではない。普通の村人より少しランクアップしたくらいの、初級役人のような出で立ちだ。咲耶や美保、千尋も同様に、最下級の巫女のような服である。
50人程度の隊列は、9時前くらいには宮田邑を出発した。9時というのは、もちろん体感である。南中が12時ならば、日の出した方角から南中を90°として半分、それを9時とした程度だ。
「長老、弥馬壱国まではどのくらいかかるのですか?」
ヒコナは出発目に長老に聞いた。道中は筆談も難しく、宿泊時に確認するしかできないからだ。何とか日常会話だけでも出来るようになればいいが、同じ日本語とは思えないほどかけ離れている。
『四日、五日』
『陸行二日、水行一日、陸行二日哉』
『然』
「ねえ、弥馬壱国行くって言ってたでしょ? どのくらいかかるの?」
美保が尊に聞いてきた。
「ん、いや、ちょっと待って計算してる……長老が言うにはざっくり六日だってさ」
えええ……という悲鳴にも似た声が女子を中心にあがる。あがるが、これはどうしようもない。一縷の望みをかけて、修一がいるであろう弥馬壱国へ向かうのだ。
尊は考えている。
今が11月もしくは12月だとすると、日は短い。おそらく10時間くらいだろう。9時に出発したから日没が夕方5時とすれば、24~25kmくらいだろう。
若干遅い気もするが、荷物や輿も含めた隊列の行進だ。徒歩で時速3kmなら妥当な速さだろう。3×8で24km。恐らくは……野宿するのは川平有料道路の終点がある(であろう)場所付近だろう。そう予測してみんなに話す。
「まじやっば!」
「ちょっとキツすぎない?」
「……」
上から咲耶、美保、千尋の順だ。不平不満を言うのが可愛い、と思われるのが女子の特権という人もいるかもしれないが、それはあくまで普通の状況で、である。
普通ではないのだ。
「みんな、いろいろあると思うけど、状況は良くなってるからな」
どこが良くなってんのよ~! という女子の不満をよそに尊は説明を始める。
「いいかい? まず俺達は、いきなり飛ばされて弥生時代の日本へきた。理由はわからないが、状況は把握できただろう? それから殺されそうだったけど、間一髪逃げる事ができた。そのうえ村の実力者どころか、邪馬台国、いや弥馬壱国でもかなりの権力者らしいおじいさんの庇護を受ける事ができたんだ。これで、まずは殺される心配はなくなったし、衣食住もなんとかなる」
その通りだ、と言いたげなヒコナと、黙って頷いている槍太がいた。ヒコナは積極的なリーダー派で、尊は知的な参謀タイプ。槍太はやんちゃ系だけど、やる時はやるタイプだ。
現に石室で兵士の一人に石を投げて撃退している。
男性三人はなんとか納得しているが、どうしても女子には耐えられないようだ。それでも耐えてもらうしかない。
1日24kmという距離は普通に考えたら、現代に生きる日本人が歩く距離ではない。都市部以外に住んでいる人ならあるかもしれないが、通勤でも通学でも正直考えられない。
考えられるとすれば、例えば登山であったりハイキングであったり、そういう趣味としての歩行ならば24kmはあり得る。しかしそれに慣れていない現代人ならば、数キロ歩いた時点で根を上げるだろう。
「良し、ここらで野営をしよう」
そういう号令がかかったのだろうか。陽も暮れかかった夕刻に、隊列の長らしき男が叫んで野営の場所を探す。尊はみんなに現在地の予想地点を告げた。
「まじか。あとどれくらいだろうな」
とヒコナが言うので尊が予測を言う。
「今日と同じ速さなら、あと二日歩いて、そっからは船だろう。そして着いたらまた歩く」
ひゃあああ、という槍太と女子以下同文。
隊列は部署毎にまとまって火を焚いている。夕食の準備が終わってみんなで食卓を囲む。といっても大層なものはない。干し肉と干し魚に、少しの穀類と野菜などだ。
食事が終わると男子で見張りをした。長老からは休んでて良いよと言われたのだが、まだ安心しきれていないのか? それとも自分達だけ休むと悪いと思ったのか。
男子は3交代だったが、あれだけ悪態をついていたのに女子は食事が終わるとすぐに眠りについた。普段運動をしない現代人がこれだけ動くとかなり疲れたのか、熟睡まで時間はかからなかった。
もちろん男子も見張り以外の時は爆睡した。
■正元二年十一月四日(255/12/4⇔2024年6月16日15:00) 高田邑
翌日、6人はこの時代にきてから2回目の野宿での朝を迎えた。経験したくなくても、慣れなくてはいけないことを、言葉には出さないが全員が感じていた。
不思議なもので、口数は少ない。弥馬壱国という目的地と、修一に会うという目的がはっきりして、それに向かって進んでいるという実感があるのだろうか。
不平不満はあるものの、みんなが一つにまとまる時というのは、言葉は必要ないのであろうか。
■正元二年十一月六日(255/12/6⇔2024年6月16日17:00) 伊邪国 多比良浜(雲仙市国見町)
「天気が悪い、船を出せない」
長老のその言葉に落胆する一行だが、一口に雨や悪天候だと馬鹿にはできない。整備されていない道を歩き、対岸の見えない有明海を渡る。天気を侮って遭難など、シャレにもならない。
土砂崩れや暴風雨で難破など、十分にあり得るのだ。
「え? じゃあここで晴れるまで待つの?」
「まあ、そうなるな。天気はどうすることも出来ないからな」
珍しく千尋が口を開いたが、それに対して優しく尊が答えた。
「ま、仕方ねえな。ここは伊邪国ってんだろ? どこかで休憩できないのか? 突っ立ってても仕方ない」
「長老が来ることを知って宿の準備をしているらしい。俺達は客だから、屋根付きの家で休憩できるそうだ」
「やったね。そうこなくちゃ」
槍太と尊のやり取りが続く。
「この海を渡ったら熊本か……。そこから歩いて、やっと弥馬壱国に着くんだな」
「そうなるな」
ヒコナは今にも雨が降りそうな天気の海上を眺め、熊本であろう方角を見ていった。尊は短く答え、一行は案内された宿舎へ向かう。
■翌日 正元二年十一月七日(255/12/7⇔2024年6月16日18:00)
昨日の土砂降りが嘘のように晴れ上がった空を見て、一行は晴れやかな気持ちになる。それでもまだ道半ばであるが、50名の一行を乗せた船は有明の海を東へ進む。
出発は朝8時くらいだろう。弥生式の準構造船は帆がなく、人力であるために2㏏程度しか速度がでない。しかも休憩を入れながらとなるので平均するとその速度となるのだ。
昼過ぎに対岸が見え、都支国の湊に着いた。
一行は荷物を降ろすとすぐに進み始めた。ヒコナ達6人にとってはやっとゆっくりできる5時間であったが、目的地の弥馬壱国までもう少しである。
「な、なんだこれ……。吉野ヶ里の何倍もあるじゃないか……」
尊が驚きの声をあげ、続いて各々が感じた事を口に出す。
邑も集落も皆同じような風景で、それ以外は山に川、代わり映えのしない道程であったが、弥馬壱国の宮処である方保田東原の宮処に着いたのは翌日である。
正元二年十一月八日(255/12/8⇔2024年6月16日19:00)の夕暮れ時であった。
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