『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

文字の大きさ
上 下
15 / 46

第15話 『已百支国にて如何に生きる?』

しおりを挟む
 正元二年十一月一日(255/12/1⇔2024年6月16日12:00) 已百支いはき国 宮田むら 
 
 六人の目の前に広がる光景は、彼らの想像を遥かに超えていた。コンビニがあるはずの場所には、まるで教科書から飛び出してきたかのような光景が広がっていたのだ。
 
 粗末な竪穴式住居が無秩序に建ち並び、大規模な集落を形成している。宮田遺跡があった集落の面影は全くなく、その戸数は現代の町よりもはるかに多い。

 歩いてきた獣道は、まるで生き物のように蛇行しながら次第に広がり、この原始的な集落へと吸い込まれていた。

「まさか……」

 咲耶が息をのむ。

「タイムスリップ……?」

「可能性としてはありえるな。でも、どうして……」

 比古那は周囲を警戒しながら言葉を選んだ。

「そんな事はどうでもいいんだよ! どうすんだよ、これから……。だから俺言ったじゃねえか。止めとこうって……」

 槍太が震える声で言葉を絞り出す。兵士の一人を石で殴り殺したかもしれない事実と、今の自分たちの置かれた状況が飲み込めずに、茫然ぼうぜん自失になっている。

「この時代の言葉も通じないし……」

「しぃっ! 静かに! 周りはみんな敵だと思った方が良い」

 尊が槍太の口を押さえる。

 美保が突然立ち止まり、顔色を変えた。

「携帯!」

 慌ててリュックを探り、震える手で携帯を取り出すが、画面を見つめ愕然がくぜんとした表情でつぶやいた。
 
「圏外……いや、そもそも電波が……」

 尊は苦笑いにもならない顔で言う。

「当たり前だろ。この時代……もしタイムスリップしたなら、基地局なんてあるわけないんだから」

「私たち、もう誰とも連絡が取れないんだ……」

 泣きそうな千尋の声は風に消されそうなほど小さく、その言葉に全員が押し黙った。現代との繋がりが完全に絶たれたという現実が、重くのしかかる。

 比古那は胸の内で激しく波打つ不安を抑え込むように深呼吸した。

「……みんな、状況を整理しよう。俺達は先生を捜すために遺跡に入った。そこで頭痛に襲われて起きたら、言葉のわからない兵士に襲われそうになって逃げた。そして今、同じ景色のはずなのに、文明の痕跡が全くない……」

「つまり、俺たちは過去にいるってことか」

 尊が声を潜めて言った。

「なぜ? どうやって? 理屈を考えても仕方がない。現実を見れば……そうなるな」

「でも、どの時代なのかも分からない。弥生時代? 縄文?」

 咲耶が周囲を見回しながら付け加えた。

「それはあまり重要じゃないと思うけど、それでも見ろ。農地がある。おそらくは弥生時代だ。どっちにしても、俺達はどうやって生き延びるかを考えなくちゃならない」

 比古那が厳しい表情で言葉を継いだ。

 沈黙が六人を包む。

 どうやって生き延びる? 人が生きていく上で必要なのは衣・食・住だが、衣は衛生的な事を考えなければこのままでいい。問題は住居と食料だ。

「待って」

 美保が突然声を上げた。

「私たちの服装、絶対に目立つわ」

 確かに、場違いである。だがそれが、そうだな、となる訳がない。

「目立つって、じゃあどうするんだ? 今着ている服でさえ寒いんだぞ。どこかで借りるのか? 盗むのか? 粗末な衣服は今より暖かいか?」

 美保は尊の言葉に一瞬たじろいだが、すぐに決意を固めた表情で答えた。
 
「でも、このままじゃ絶対におかしいわ。少なくとも外見は合わせないと」

「いや、だから何で見つかる前提なんだよ? 村にこれからお邪魔しまーすって入るのか? さっきの兵士見ただろ? また捕まって今度こそ殺されるぞ」

 尊も退かない。

「ちょっと、落ち着いて。どちらも正しいわ。でも、今は協力しないと」

 咲耶が二人の間に入るように声を上げると、比古那が咳払いをして全員の注目を集める。
 
「今は昼過ぎだけど、時間は待っちゃくれない。日が暮れたら危険だ。だから安全な場所を見つけるのが先だろう。その後で服の事は考えよう。それから食いもんだ」

 槍太が周囲を見回しながら提案した。
 
「森の中に隠れられそうな場所はないか? 少なくとも夜を越せるような」

「でも、野生動物は……」

 千尋が小声で言った。

「それより寒さのほうが心配だ。火を起こせるか?」

 尊が腕を擦りながら言うと、比古那が全員に聞く。
 
「誰かライター持ってるか? チャ○○マンでもいいぞ」

 タバコを吸わないのでライターは誰も持っていない。チャッカマンは……美保が持っていた。なんで持っているかなんて誰も聞かない。

「よし! ひとまずは火の心配はなくなった。あとは寝る場所だ」




 六人は慎重に森の中へと足を踏み入れた。低く垂れ込める枝をかき分け、落ち葉を踏みしめながら進む。やがて、小さな丘の裾野に洞窟らしき窪みを見つけた。

「ここならいけるかも」

 美保が声を潜めて言った。入り口は狭かったものの中の空洞は広がりがあって、六人全員が雑魚寝しても十分な広さがあった。

「とりあえず、ここで一晩過ごそう。その前に薪になる木を探すぞ」

 全員で周囲に落ちている落葉や枝、薪になりそうな物を探して集める。幸い秋から冬の季節であったから枯れ木には事欠かなかった。集めた枝葉を燃やして洞窟の中で暖を取る。

 入り口には動物避けにもう一つのたき火を作った。火の温かさが身に染みる中、六人は円陣を組んで座る。一時の安堵あんど感に包まれながらも、誰もが不安を隠せない表情だ。

 さて、と比古那が口を開いた。
 
「これからどうするか、みんなの意見を聞かせてくれ」

 槍太が首をかしげる。

「まず食料だろ。このまま飢え死にするわけにはいかねえ」

「でも、どうやって? 狩りなんてしたことないし……」

 千尋が不安そうに尋ねると、咲耶が意見を出した。

「近くに川があったわ。魚を捕まえられれば……」

「良いアイデアだけど、道具がないぞ」

 と尊。

「待って」

 美保が急に立ち上がり、リュックを漁り始めた。

「……あった!」
 
 彼女は小さな釣り糸のセットを取り出した。

 なんでそんなもの持ってるんだ? と槍太が目を丸くする。

 美保は少し照れくさそうに答えた。

「趣味でね。出し入れが面倒で入れっぱなしになってたヤツ。まさかこんな時に役立つとは」

「よし! ラッキーだ。明日の朝、川に行こう」


 

 夜が更けていく。月明かりが洞窟の入り口から差し込み、内部を薄暗く照らしている。比古那が見張りの割り当てを決めた。

「俺たち男三人で交代する。女子は少しでも休んでくれ」

「私たちも手伝えるのに……」

 咲耶が言うが、すぐに『分かっている』という比古那の声にかき消される。

「明日からはお前らにも頼ることになるさ。今夜だけは休んでくれ」

 にっこりと笑った比古那が優しく言い返した。

 女子三人は毛布代わりに集めた落ち葉の上に横たわるが、誰も深い眠りにつけない。枕もなく硬い。汚れを防ぐ程度の敷物にしかなっていない。
  
 現代人の、しかも女性がすんなり寝つけるものではないのだ。

 時折、森の中の動物の鳴き声に身を固くする。

 最初の当番は比古那。彼は洞窟の入り口近くに座り、暗闇を見つめる。約2時間後、尊と交替。そして最後は槍太が見張りを引き受けた。

 不思議な事に全員の時計が壊れることなく正確に時を刻んでいる。ここが正元二年の弥生時代という事をのぞいては、その文明の利器が見張りの時間を教えてくれた。

 寝たのが深夜0時過ぎだった事もあって冬の朝は遅いが、東の空がほんのりと明るくなり始めた頃、比古那が目を覚ました。

「尊、起きろ」

 彼は隣で寝ていた尊の肩を軽くたたく。二人は静かに立ち上がり、美保のリュックから取りだしてあった釣り道具を手に取る。

「みんな、俺たちが戻るまでここを動くなよ。槍太、頼むな」

 比古那が残りの四人に小声で言い残す。朝もやの立ち込める森を抜けて、二人は慎重に川へと向かった。足音を立てないよう、枯れ葉を踏む音にも気をつける。

 川辺に到着すると、周囲を警戒しながら釣り糸を垂らす。冷たい朝の空気が肌を刺す。

「おい、来たぞ!」

 尊が小声で叫んだ。水面に小さな波紋が広がっている。比古那が素早く竿さおを引き、見事に魚を釣り上げた。

「やった!」

 二人は喜びを分かち合いながらも、声を抑えている。さらに数匹の魚を追加で釣り上げた後、急いで洞窟への帰路についた。今度は獲物を持っているだけに、より一層周囲への警戒を強めながら森を進む。

 洞窟に戻ると、みんなの顔に希望の光が戻った。

「これで少しは……」

 千尋が安堵の表情を浮かべた。

「よし、早速調理しよう」

 比古那が魚を見せながら言うと咲耶が立ち上がり、私が手伝うわと申し出る。二人で魚をさばき始めると他のメンバーも手伝い、簡素ながらも朝食の準備が整う。

「いただきます」

 調味料がないのが心配だったが、美保のリュックの中には一通りの調味料が入っていたのだ。全員で声を合わせ、焼き魚に舌鼓を打つ。チャッカマンにしろ、釣り道具にしろ、こういったちょっとした偶然が、命運を分けるのだろう。

 最悪の状況ではあったが、ひとまずは寝る場所と食事にはありつけたのだ。

 食事を終えると、比古那が全員の顔を見回した。

「さて、これからどうする?」

「よし、じゃあ今日は……」

 尊の言葉が途切れた。洞窟の外から、人の声が聞こえてきたのだ。全員が息を潜め、互いの顔を見合わせる。声は次第に近づいてくる。一人ではない。

「どうする……?」

 千尋が震える声で尋ねた。比古那は一瞬躊躇ちゅうちょしたが、すぐに決断を下した。

「俺が出て様子を見る。みんなはここに隠れていろ」

「でも」

 咲耶が心配そうに言いかけるが、比古那は既に洞窟の入り口へ向かっていた。




 次回 第16話 (仮)『村の子供と長老』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【なろう440万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

処理中です...