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第15話 『已百支国にて如何に生きる?』
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正元二年十一月一日(255/12/1⇔2024年6月16日12:00) 已百支国 宮田邑
六人の目の前に広がる光景は、彼らの想像を遥かに超えていた。コンビニがあるはずの場所には、まるで教科書から飛び出してきたかのような光景が広がっていたのだ。
粗末な竪穴式住居が無秩序に建ち並び、大規模な集落を形成している。宮田遺跡があった集落の面影は全くなく、その戸数は現代の町よりもはるかに多い。
歩いてきた獣道は、まるで生き物のように蛇行しながら次第に広がり、この原始的な集落へと吸い込まれていた。
「まさか……」
咲耶が息をのむ。
「タイムスリップ……?」
「可能性としてはありえるな。でも、どうして……」
比古那は周囲を警戒しながら言葉を選んだ。
「そんな事はどうでもいいんだよ! どうすんだよ、これから……。だから俺言ったじゃねえか。止めとこうって……」
槍太が震える声で言葉を絞り出す。兵士の一人を石で殴り殺したかもしれない事実と、今の自分たちの置かれた状況が飲み込めずに、茫然自失になっている。
「この時代の言葉も通じないし……」
「しぃっ! 静かに! 周りはみんな敵だと思った方が良い」
尊が槍太の口を押さえる。
美保が突然立ち止まり、顔色を変えた。
「携帯!」
慌ててリュックを探り、震える手で携帯を取り出すが、画面を見つめ愕然とした表情で呟いた。
「圏外……いや、そもそも電波が……」
尊は苦笑いにもならない顔で言う。
「当たり前だろ。この時代……もしタイムスリップしたなら、基地局なんてあるわけないんだから」
「私たち、もう誰とも連絡が取れないんだ……」
泣きそうな千尋の声は風に消されそうなほど小さく、その言葉に全員が押し黙った。現代との繋がりが完全に絶たれたという現実が、重くのしかかる。
比古那は胸の内で激しく波打つ不安を抑え込むように深呼吸した。
「……みんな、状況を整理しよう。俺達は先生を捜すために遺跡に入った。そこで頭痛に襲われて起きたら、言葉のわからない兵士に襲われそうになって逃げた。そして今、同じ景色のはずなのに、文明の痕跡が全くない……」
「つまり、俺たちは過去にいるってことか」
尊が声を潜めて言った。
「なぜ? どうやって? 理屈を考えても仕方がない。現実を見れば……そうなるな」
「でも、どの時代なのかも分からない。弥生時代? 縄文?」
咲耶が周囲を見回しながら付け加えた。
「それはあまり重要じゃないと思うけど、それでも見ろ。農地がある。おそらくは弥生時代だ。どっちにしても、俺達はどうやって生き延びるかを考えなくちゃならない」
比古那が厳しい表情で言葉を継いだ。
沈黙が六人を包む。
どうやって生き延びる? 人が生きていく上で必要なのは衣・食・住だが、衣は衛生的な事を考えなければこのままでいい。問題は住居と食料だ。
「待って」
美保が突然声を上げた。
「私たちの服装、絶対に目立つわ」
確かに、場違いである。だがそれが、そうだな、となる訳がない。
「目立つって、じゃあどうするんだ? 今着ている服でさえ寒いんだぞ。どこかで借りるのか? 盗むのか? 粗末な衣服は今より暖かいか?」
美保は尊の言葉に一瞬たじろいだが、すぐに決意を固めた表情で答えた。
「でも、このままじゃ絶対におかしいわ。少なくとも外見は合わせないと」
「いや、だから何で見つかる前提なんだよ? 村にこれからお邪魔しまーすって入るのか? さっきの兵士見ただろ? また捕まって今度こそ殺されるぞ」
尊も退かない。
「ちょっと、落ち着いて。どちらも正しいわ。でも、今は協力しないと」
咲耶が二人の間に入るように声を上げると、比古那が咳払いをして全員の注目を集める。
「今は昼過ぎだけど、時間は待っちゃくれない。日が暮れたら危険だ。だから安全な場所を見つけるのが先だろう。その後で服の事は考えよう。それから食いもんだ」
槍太が周囲を見回しながら提案した。
「森の中に隠れられそうな場所はないか? 少なくとも夜を越せるような」
「でも、野生動物は……」
千尋が小声で言った。
「それより寒さのほうが心配だ。火を起こせるか?」
尊が腕を擦りながら言うと、比古那が全員に聞く。
「誰かライター持ってるか? チャ○○マンでもいいぞ」
タバコを吸わないのでライターは誰も持っていない。チャッカマンは……美保が持っていた。なんで持っているかなんて誰も聞かない。
「よし! ひとまずは火の心配はなくなった。あとは寝る場所だ」
六人は慎重に森の中へと足を踏み入れた。低く垂れ込める枝をかき分け、落ち葉を踏みしめながら進む。やがて、小さな丘の裾野に洞窟らしき窪みを見つけた。
「ここならいけるかも」
美保が声を潜めて言った。入り口は狭かったものの中の空洞は広がりがあって、六人全員が雑魚寝しても十分な広さがあった。
「とりあえず、ここで一晩過ごそう。その前に薪になる木を探すぞ」
全員で周囲に落ちている落葉や枝、薪になりそうな物を探して集める。幸い秋から冬の季節であったから枯れ木には事欠かなかった。集めた枝葉を燃やして洞窟の中で暖を取る。
入り口には動物避けにもう一つのたき火を作った。火の温かさが身に染みる中、六人は円陣を組んで座る。一時の安堵感に包まれながらも、誰もが不安を隠せない表情だ。
さて、と比古那が口を開いた。
「これからどうするか、みんなの意見を聞かせてくれ」
槍太が首をかしげる。
「まず食料だろ。このまま飢え死にするわけにはいかねえ」
「でも、どうやって? 狩りなんてしたことないし……」
千尋が不安そうに尋ねると、咲耶が意見を出した。
「近くに川があったわ。魚を捕まえられれば……」
「良いアイデアだけど、道具がないぞ」
と尊。
「待って」
美保が急に立ち上がり、リュックを漁り始めた。
「……あった!」
彼女は小さな釣り糸のセットを取り出した。
なんでそんなもの持ってるんだ? と槍太が目を丸くする。
美保は少し照れくさそうに答えた。
「趣味でね。出し入れが面倒で入れっぱなしになってたヤツ。まさかこんな時に役立つとは」
「よし! ラッキーだ。明日の朝、川に行こう」
夜が更けていく。月明かりが洞窟の入り口から差し込み、内部を薄暗く照らしている。比古那が見張りの割り当てを決めた。
「俺たち男三人で交代する。女子は少しでも休んでくれ」
「私たちも手伝えるのに……」
咲耶が言うが、すぐに『分かっている』という比古那の声にかき消される。
「明日からはお前らにも頼ることになるさ。今夜だけは休んでくれ」
にっこりと笑った比古那が優しく言い返した。
女子三人は毛布代わりに集めた落ち葉の上に横たわるが、誰も深い眠りにつけない。枕もなく硬い。汚れを防ぐ程度の敷物にしかなっていない。
現代人の、しかも女性がすんなり寝つけるものではないのだ。
時折、森の中の動物の鳴き声に身を固くする。
最初の当番は比古那。彼は洞窟の入り口近くに座り、暗闇を見つめる。約2時間後、尊と交替。そして最後は槍太が見張りを引き受けた。
不思議な事に全員の時計が壊れることなく正確に時を刻んでいる。ここが正元二年の弥生時代という事をのぞいては、その文明の利器が見張りの時間を教えてくれた。
寝たのが深夜0時過ぎだった事もあって冬の朝は遅いが、東の空がほんのりと明るくなり始めた頃、比古那が目を覚ました。
「尊、起きろ」
彼は隣で寝ていた尊の肩を軽くたたく。二人は静かに立ち上がり、美保のリュックから取りだしてあった釣り道具を手に取る。
「みんな、俺たちが戻るまでここを動くなよ。槍太、頼むな」
比古那が残りの四人に小声で言い残す。朝靄の立ち込める森を抜けて、二人は慎重に川へと向かった。足音を立てないよう、枯れ葉を踏む音にも気をつける。
川辺に到着すると、周囲を警戒しながら釣り糸を垂らす。冷たい朝の空気が肌を刺す。
「おい、来たぞ!」
尊が小声で叫んだ。水面に小さな波紋が広がっている。比古那が素早く竿を引き、見事に魚を釣り上げた。
「やった!」
二人は喜びを分かち合いながらも、声を抑えている。さらに数匹の魚を追加で釣り上げた後、急いで洞窟への帰路についた。今度は獲物を持っているだけに、より一層周囲への警戒を強めながら森を進む。
洞窟に戻ると、みんなの顔に希望の光が戻った。
「これで少しは……」
千尋が安堵の表情を浮かべた。
「よし、早速調理しよう」
比古那が魚を見せながら言うと咲耶が立ち上がり、私が手伝うわと申し出る。二人で魚をさばき始めると他のメンバーも手伝い、簡素ながらも朝食の準備が整う。
「いただきます」
調味料がないのが心配だったが、美保のリュックの中には一通りの調味料が入っていたのだ。全員で声を合わせ、焼き魚に舌鼓を打つ。チャッカマンにしろ、釣り道具にしろ、こういったちょっとした偶然が、命運を分けるのだろう。
最悪の状況ではあったが、ひとまずは寝る場所と食事にはありつけたのだ。
食事を終えると、比古那が全員の顔を見回した。
「さて、これからどうする?」
「よし、じゃあ今日は……」
尊の言葉が途切れた。洞窟の外から、人の声が聞こえてきたのだ。全員が息を潜め、互いの顔を見合わせる。声は次第に近づいてくる。一人ではない。
「どうする……?」
千尋が震える声で尋ねた。比古那は一瞬躊躇したが、すぐに決断を下した。
「俺が出て様子を見る。みんなはここに隠れていろ」
「でも」
咲耶が心配そうに言いかけるが、比古那は既に洞窟の入り口へ向かっていた。
次回 第16話 (仮)『村の子供と長老』
六人の目の前に広がる光景は、彼らの想像を遥かに超えていた。コンビニがあるはずの場所には、まるで教科書から飛び出してきたかのような光景が広がっていたのだ。
粗末な竪穴式住居が無秩序に建ち並び、大規模な集落を形成している。宮田遺跡があった集落の面影は全くなく、その戸数は現代の町よりもはるかに多い。
歩いてきた獣道は、まるで生き物のように蛇行しながら次第に広がり、この原始的な集落へと吸い込まれていた。
「まさか……」
咲耶が息をのむ。
「タイムスリップ……?」
「可能性としてはありえるな。でも、どうして……」
比古那は周囲を警戒しながら言葉を選んだ。
「そんな事はどうでもいいんだよ! どうすんだよ、これから……。だから俺言ったじゃねえか。止めとこうって……」
槍太が震える声で言葉を絞り出す。兵士の一人を石で殴り殺したかもしれない事実と、今の自分たちの置かれた状況が飲み込めずに、茫然自失になっている。
「この時代の言葉も通じないし……」
「しぃっ! 静かに! 周りはみんな敵だと思った方が良い」
尊が槍太の口を押さえる。
美保が突然立ち止まり、顔色を変えた。
「携帯!」
慌ててリュックを探り、震える手で携帯を取り出すが、画面を見つめ愕然とした表情で呟いた。
「圏外……いや、そもそも電波が……」
尊は苦笑いにもならない顔で言う。
「当たり前だろ。この時代……もしタイムスリップしたなら、基地局なんてあるわけないんだから」
「私たち、もう誰とも連絡が取れないんだ……」
泣きそうな千尋の声は風に消されそうなほど小さく、その言葉に全員が押し黙った。現代との繋がりが完全に絶たれたという現実が、重くのしかかる。
比古那は胸の内で激しく波打つ不安を抑え込むように深呼吸した。
「……みんな、状況を整理しよう。俺達は先生を捜すために遺跡に入った。そこで頭痛に襲われて起きたら、言葉のわからない兵士に襲われそうになって逃げた。そして今、同じ景色のはずなのに、文明の痕跡が全くない……」
「つまり、俺たちは過去にいるってことか」
尊が声を潜めて言った。
「なぜ? どうやって? 理屈を考えても仕方がない。現実を見れば……そうなるな」
「でも、どの時代なのかも分からない。弥生時代? 縄文?」
咲耶が周囲を見回しながら付け加えた。
「それはあまり重要じゃないと思うけど、それでも見ろ。農地がある。おそらくは弥生時代だ。どっちにしても、俺達はどうやって生き延びるかを考えなくちゃならない」
比古那が厳しい表情で言葉を継いだ。
沈黙が六人を包む。
どうやって生き延びる? 人が生きていく上で必要なのは衣・食・住だが、衣は衛生的な事を考えなければこのままでいい。問題は住居と食料だ。
「待って」
美保が突然声を上げた。
「私たちの服装、絶対に目立つわ」
確かに、場違いである。だがそれが、そうだな、となる訳がない。
「目立つって、じゃあどうするんだ? 今着ている服でさえ寒いんだぞ。どこかで借りるのか? 盗むのか? 粗末な衣服は今より暖かいか?」
美保は尊の言葉に一瞬たじろいだが、すぐに決意を固めた表情で答えた。
「でも、このままじゃ絶対におかしいわ。少なくとも外見は合わせないと」
「いや、だから何で見つかる前提なんだよ? 村にこれからお邪魔しまーすって入るのか? さっきの兵士見ただろ? また捕まって今度こそ殺されるぞ」
尊も退かない。
「ちょっと、落ち着いて。どちらも正しいわ。でも、今は協力しないと」
咲耶が二人の間に入るように声を上げると、比古那が咳払いをして全員の注目を集める。
「今は昼過ぎだけど、時間は待っちゃくれない。日が暮れたら危険だ。だから安全な場所を見つけるのが先だろう。その後で服の事は考えよう。それから食いもんだ」
槍太が周囲を見回しながら提案した。
「森の中に隠れられそうな場所はないか? 少なくとも夜を越せるような」
「でも、野生動物は……」
千尋が小声で言った。
「それより寒さのほうが心配だ。火を起こせるか?」
尊が腕を擦りながら言うと、比古那が全員に聞く。
「誰かライター持ってるか? チャ○○マンでもいいぞ」
タバコを吸わないのでライターは誰も持っていない。チャッカマンは……美保が持っていた。なんで持っているかなんて誰も聞かない。
「よし! ひとまずは火の心配はなくなった。あとは寝る場所だ」
六人は慎重に森の中へと足を踏み入れた。低く垂れ込める枝をかき分け、落ち葉を踏みしめながら進む。やがて、小さな丘の裾野に洞窟らしき窪みを見つけた。
「ここならいけるかも」
美保が声を潜めて言った。入り口は狭かったものの中の空洞は広がりがあって、六人全員が雑魚寝しても十分な広さがあった。
「とりあえず、ここで一晩過ごそう。その前に薪になる木を探すぞ」
全員で周囲に落ちている落葉や枝、薪になりそうな物を探して集める。幸い秋から冬の季節であったから枯れ木には事欠かなかった。集めた枝葉を燃やして洞窟の中で暖を取る。
入り口には動物避けにもう一つのたき火を作った。火の温かさが身に染みる中、六人は円陣を組んで座る。一時の安堵感に包まれながらも、誰もが不安を隠せない表情だ。
さて、と比古那が口を開いた。
「これからどうするか、みんなの意見を聞かせてくれ」
槍太が首をかしげる。
「まず食料だろ。このまま飢え死にするわけにはいかねえ」
「でも、どうやって? 狩りなんてしたことないし……」
千尋が不安そうに尋ねると、咲耶が意見を出した。
「近くに川があったわ。魚を捕まえられれば……」
「良いアイデアだけど、道具がないぞ」
と尊。
「待って」
美保が急に立ち上がり、リュックを漁り始めた。
「……あった!」
彼女は小さな釣り糸のセットを取り出した。
なんでそんなもの持ってるんだ? と槍太が目を丸くする。
美保は少し照れくさそうに答えた。
「趣味でね。出し入れが面倒で入れっぱなしになってたヤツ。まさかこんな時に役立つとは」
「よし! ラッキーだ。明日の朝、川に行こう」
夜が更けていく。月明かりが洞窟の入り口から差し込み、内部を薄暗く照らしている。比古那が見張りの割り当てを決めた。
「俺たち男三人で交代する。女子は少しでも休んでくれ」
「私たちも手伝えるのに……」
咲耶が言うが、すぐに『分かっている』という比古那の声にかき消される。
「明日からはお前らにも頼ることになるさ。今夜だけは休んでくれ」
にっこりと笑った比古那が優しく言い返した。
女子三人は毛布代わりに集めた落ち葉の上に横たわるが、誰も深い眠りにつけない。枕もなく硬い。汚れを防ぐ程度の敷物にしかなっていない。
現代人の、しかも女性がすんなり寝つけるものではないのだ。
時折、森の中の動物の鳴き声に身を固くする。
最初の当番は比古那。彼は洞窟の入り口近くに座り、暗闇を見つめる。約2時間後、尊と交替。そして最後は槍太が見張りを引き受けた。
不思議な事に全員の時計が壊れることなく正確に時を刻んでいる。ここが正元二年の弥生時代という事をのぞいては、その文明の利器が見張りの時間を教えてくれた。
寝たのが深夜0時過ぎだった事もあって冬の朝は遅いが、東の空がほんのりと明るくなり始めた頃、比古那が目を覚ました。
「尊、起きろ」
彼は隣で寝ていた尊の肩を軽くたたく。二人は静かに立ち上がり、美保のリュックから取りだしてあった釣り道具を手に取る。
「みんな、俺たちが戻るまでここを動くなよ。槍太、頼むな」
比古那が残りの四人に小声で言い残す。朝靄の立ち込める森を抜けて、二人は慎重に川へと向かった。足音を立てないよう、枯れ葉を踏む音にも気をつける。
川辺に到着すると、周囲を警戒しながら釣り糸を垂らす。冷たい朝の空気が肌を刺す。
「おい、来たぞ!」
尊が小声で叫んだ。水面に小さな波紋が広がっている。比古那が素早く竿を引き、見事に魚を釣り上げた。
「やった!」
二人は喜びを分かち合いながらも、声を抑えている。さらに数匹の魚を追加で釣り上げた後、急いで洞窟への帰路についた。今度は獲物を持っているだけに、より一層周囲への警戒を強めながら森を進む。
洞窟に戻ると、みんなの顔に希望の光が戻った。
「これで少しは……」
千尋が安堵の表情を浮かべた。
「よし、早速調理しよう」
比古那が魚を見せながら言うと咲耶が立ち上がり、私が手伝うわと申し出る。二人で魚をさばき始めると他のメンバーも手伝い、簡素ながらも朝食の準備が整う。
「いただきます」
調味料がないのが心配だったが、美保のリュックの中には一通りの調味料が入っていたのだ。全員で声を合わせ、焼き魚に舌鼓を打つ。チャッカマンにしろ、釣り道具にしろ、こういったちょっとした偶然が、命運を分けるのだろう。
最悪の状況ではあったが、ひとまずは寝る場所と食事にはありつけたのだ。
食事を終えると、比古那が全員の顔を見回した。
「さて、これからどうする?」
「よし、じゃあ今日は……」
尊の言葉が途切れた。洞窟の外から、人の声が聞こえてきたのだ。全員が息を潜め、互いの顔を見合わせる。声は次第に近づいてくる。一人ではない。
「どうする……?」
千尋が震える声で尋ねた。比古那は一瞬躊躇したが、すぐに決断を下した。
「俺が出て様子を見る。みんなはここに隠れていろ」
「でも」
咲耶が心配そうに言いかけるが、比古那は既に洞窟の入り口へ向かっていた。
次回 第16話 (仮)『村の子供と長老』
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