『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

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第14話 『已百支国にて虜囚となる?』

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 正元二年十一月一日(255/12/1⇔2024年6月16日12:00) 已百支いはき国 宮田むら 

「ナラワタツォ! ? コデナニヲナツェリヤ! ?(貴様らは誰だ! ? ここで何をしている! ?)」

 その声に全員が驚いて振り返ると、そこには見たこともないような人物が立っていた。

 まるで古代の兵隊のような出で立ちだが、粗末な白い布をまとい、ヒモで結んだ板を胸から腹につけて、よろいの元祖のような物にして身につけている。
  
 その表情は険しく、警戒心をむき出しである。

「あ、あの……」

 宿名比古那が一歩前に出て答えようとするが、兵士がさらに怒鳴りつけた。

「黙レ! ラワツォ! デ何ヲナツェリヤ! ?(貴様らは誰だ! ? ここで何をしている! ?)」

「え、何を言っている……? 駄目、わからない」

 美保が不安そうに尋ねるが、兵士はにらみつけるだけで答えない。

「待って。私たちは敵ではありません。ここで何か、おかしなことが起きたの。何もしないし何も取らないわ」

 咲耶が必死に説明しようとする。

 しかし兵士は仲間の兵士と聞き取れない言葉で話をしながら、一人は何かにうなずくようにして石室を出て行った。残ったのは三人だ。仁々木尊が比古那にささやく。

「おい、何かやばくないか? どう見ても日本人だけど……しゃべってる言葉が日本語じゃ無い。韓国語や中国語とも違うぞ」

「うん。俺もそれは感じている。さっき一人が出てっただろう? 何をしに行ったと思う?」

「わからん、仲間を呼びにいったとか?」

 比古那は考えられる可能性を頭の中であげていく。

「呼びに行ってどうするんだ? 今いるのが三人だろう? 仲間を呼んで俺達を連れて行くのか? 行ってどうなる? 捕虜……奴隷か?」

 尊は最悪な結論に行き着いた。

「じゃあヤバくねえか? 早く逃げないと、奴隷にされたら……俺達もそうだけど、女の子達は……まずいぞ?」

 横で聞いていた槍太が、普段と違う真面目な顔をして言った。

 男の奴隷は労働力、女の奴隷は性奴隷。

 考えたくはないが、あり得る結果である。

「逃げるしか……ないな。こいつら、俺たちを捕まえて、奴隷にするつもりだ」

 比古那は仲間たちを見回し、尊と槍太に目配せをする。

「でも、どうする? 奴らは刀を持ってるぞ。普通にやったら殺される」

 槍太がゴクリと唾を飲み込む。尊は辺りを見回して武器になるような物がないか探しているが、逃げると言ってもどこに逃げればいいのだろうか。

 遺跡へ捜索にきた六人はどこへも移動していない。

 ただ、遺跡の中で不可思議な現象にあい、不可思議な男達に見つかって刀を向けられているだけだ。

「きゃあ! 助けて!」

 兵士達がで女の子たちを見て、近づいて手を取ってをしようとした。

「止めろ! 手を出すな!」

 比古那が大声を出して兵士の腕を掴んで制そうとしたが、すぐに振りほどかれた。残りの二人も同じように咲耶達に向かっていく。比古那達を警戒はしているが、丸腰なので油断をしているのだろうか。

「この野郎!」

「ぐあ!」

 槍太が落ちていた石を抱えて兵士の一人を殴った。兵士は頭から血を流して倒れたが、比古那はその一瞬の隙をついて倒れた兵士の剣を奪い取り、二人の兵士に剣を向けて仲間に向かって叫ぶ。

「来い! 俺が相手だ! みんな、早く逃げろ!」

「比古那!」

「比古ちゃん!」

「いいから逃げろ!」

 尊と美保が叫んだが、比古那は剣を構えたまま二人の兵士と対峙たいじしている。

「こっちだ!」

 槍太が千尋の手を引き、尊は美保と咲耶を引っ張って、五人は石室の入り口まで走った。

「きえええええ!」

 奇声とともに兵士の一人が比古那に斬りかかり、一人は五人を追う。しかしその剣はハラリと比古那に避けられ、槍太は石を拾って走って近づいて来る兵士に投げつけた。

「ぐあ! ○△□$%&……!」

 石は見事に額に当たり、兵士はうめき声を上げながら倒れ込んで頭を抱えている。比古那に攻撃をかわされた兵士は、向き直って比古那を殺そうと剣を振り下ろすが、一瞬、比古那の剣の方が速かった。

「ぐあ……」

 比古那の剣が胴を切り裂き、兵士は鈍い声を上げて崩れ落ちたのだ。

 比古那はそのまま剣を捨て、と思ったのだが、とっさの判断だろう。何が起こるかわからない。剣を持ち、倒れた兵士の剣も手に取って五人を追う。

 途中で槍太に石を投げられた兵士がいたが、返り血を浴びて剣を持ち、もの凄い形相の比古那に驚いたのだろう。勝てないとわかり降参するかのように剣を投げた。




「みんな、大丈夫か?」

「きゃあ」

 合流した比古那は五人に声をかけたが、比古那の血まみれの服をみて、千尋が叫んだ。

「大丈夫だ。もう終わった」

 人を殺した。初めて、殺した。

 もちろん、初めてである。現代社会に生きる者として、人を殺すなどあってはならない。しかし、やらねばこちらが殺された、あるいはそれに等しい屈辱を味わう事になっていたのだ。

 アドレナリンがまだ出ているのだろうか、息が荒く、感情が高ぶっているのがよくわかる。比古那は尊と槍太に剣を渡すと、言った。

「お、俺も……殺したのか?」

 ブルブル震える手を見ながら、槍太が言う。最初の一人を石で後ろから殴りかかったのは槍太である。

「槍太、俺も、怖い。でも、そんな事は言ってられない。生きなきゃならない」

 比古那は無理に声に出して言っているようだった。


 

 一行は墳墓を出たが、全員が自分の目を疑った。

 一見すると現代と全く変わりが無いが、墳墓を無造作におおっていた草木は手入れがされ、生い茂ってはいたものの、現代ほどではない。道路と駐車場があったと思われる道は獣道だ。

 とても車が通れる幅ではないが、目の前には川が流れていて、辺りに人影はない。しかし同じ場所であろう面影はある。

「ここは……どこなんだ? 似てはいるけど、あるはずの先生の車はないし、道もない。獣道だ」

 尊がそうつぶやくと、全員が周りを見て違いを肌で感じる。

「と、とにかく川沿いに進んでみない? 確かコンビニがあったはずよ」

 咲耶の提案で六人は川沿いに進んでいくが、言いようのない不安に駆られる。あの兵隊は何だったのだ? 真っ昼間にあからさまに女性を襲うだろうか? この日本で。

「寒っ」

 あまりに異常な状況に感じなかったのか、感じてもそんな余裕がなかったのか、槍太が言った。修一の捜索に来たのは6月である。初夏の緑につつまれ、小川のせせらぎが心の癒やしになるような天気だった。

 しかし、寒い。

 槍太だけでなく、全員が寒さを感じている。半袖か長袖シャツ、羽織っていても明らかに薄手のトップスだ。だが現実にはアウターが必要な寒さであった。

「なんだこれ? まじでおかしいぞ。何が起こってるんだ? さむっ!」

 ……。

「見て! あれ!」 

「なんだ……これは……」




 六人の前には、絶望の景色が広がっていた……。




 次回 第15話 (仮)『已百支国いはきこくにて如何いかに生きる?』
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