『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

文字の大きさ
上 下
6 / 46

第6話 『女王壱与のいた(いる)世界』(AD255/7/4⇔2024/6/10/12:00) 

しおりを挟む
 正元二年六月四日(AD255/7/4⇔2024/6/10/12:00) 邪馬壱国 宮田むら

「はあああああああああ? !」

 修一は何も考える事なく魂の叫びを上げた。

 条件反射というか、人は理解不能な状況に陥った時に、一体どんな反応を示すのだろうか。

 今回の修一の場合『正元二年』というワードに拒否反応を起こして絶叫し、そして思考の過程で、現在のあり得ない状況が、いかにして導き出されたのかを考えた。

 そのために必要な情報を列挙する。


 

 ・今は正元二年だ、と壱与の知り合いを名乗る男が言っている。
 
 ・その男はよろい(の元祖のようなもの)を着た屈強な男で、伊弉久いさくと名乗った。
 
 ・壱与と俺は無事だが、状況が急激に変化している。
 
 ・伊弉久によると、壱与は24日前から行方不明だったという。
 
 ・石室の下で発見した金属板が、何らかの役割を果たしている可能性がある。
 
 ・周囲の風景や人々の服装を見る限り、確かに古代の雰囲気が漂っている。


 
 
 修一はこれらの情報を頭の中で整理しながら、状況を理解しようと必死だった。彼の隣では、壱与が伊弉久と熱心に会話を交わしている。
  
 その光景を見て、修一は混乱しながらも冷静さを取り戻そうとしていた。
 
「……ありえん」

 修一はつぶやいた。

「わからん。あり得ん。一体何が起こったんだ? とにかく情報が少なすぎる。状況証拠と物的証拠……俺たちは、壱与が来た道をもう一度戻って来たという事なのか?」





 修一は頭を抱えながら、周囲を見回した。

 石室の中は特に変わった所はない。こけむしたところが真新しくなっているだけだ。……! 時代が遡って建造当時になった? 馬鹿な! あり得ない。

 ふと、修一は足元に目をやった。……ない。あったはずの金属板が、ない。

「壱与! ちょっと来てくれ! さっき見つけた金属板が……」

 修一の壱与に対する呼びかけが全部終わる前に、勇ましい声が響いた。

「動くな! そ!」

 伊弉久が持っていた剣を振りかざし、修一に向けた。すごい形相でにらみつける伊弉久は、壱与に言う。

「壱与様、そ(こいつは誰ですか?)」

 壱与は驚いて、伊弉久を制す。

「止めよ伊弉久、此(この人)はシュウ……? 汝は誰そ? シュウは何処いずこじゃ?」

 修一をかばうかと思われた壱与は、予想外の言葉を突然発したのだ。

「いや、壱与……何言ってんだよ。俺だよ。シュウ、修一だよ。壱与、弁当五つも食べたろう? 海辺の自動販売機でお茶も飲んだじゃないか」

 修一は壱与に向かって、石棺から出てきたばかりの頃、そして吉野ヶ里遺跡や自宅での出来事を、事細かに説明する。伊弉久はともかく、壱与が何を言っているのかが分からない。

「シュウ……(本当)にシュウなるや」

「そう! 俺! シュウ! どうしたんだよ、壱与」

 伊弉久はまだ修一を睨みつけているが、親しげに話しかける様子に、輪をかけて苛立ちを覚えているようだ。壱与の言葉がだんだん聞き取りづらくなってくる。

「実にシュウなるや。と変わらぬ歳の者の様に見えるが……?」

 何だって?

 修一は壱与の言葉の意味が解らず、もう一度聞く。

「壱与、何だって? もう一度言って」

「吾と……歳の変わらぬ者に見える……」

 修一はとっさに自分の手を見る。足を見る。そしてグッパグッパと拳を握り、ジャンプする。妙に体が軽い。もともと体力に自信はあった方だが、それも歳相応である。

 ふと、修一は手元に置いてあった大型のバックパックを開け、中をゴソゴソと探ってスマホを取りだした。インカメラで自分を映す。

「うわあぁっ!」

 そう修一は叫び、スマホに顔が映らないようにどかす。誰だこれは? 肌に張りもあり、精悍せいかんな顔つきの男がいるではないか。そしてもう一度ゆっくりと顔を見る。

 やはり、20歳の修一である。
 
 修一は震える手でスマホを握りしめ、信じられない様子で自分の顔を凝視し続けた。頭の中は混乱で一杯だった。
 
「こ、これは……どういうことだ……?」

 そう呟く修一に、壱与が近づいて声をかける。

如何いかが……したのだ?」

 目の前の男が修一のはずなのに、見た事もない男がいる。しかし、壱与は修一だと感じていたのだ。

「……おれだ、二十歳の俺がいる。なんだ? 俺。正元二年って訳の分からん状態に、さらに二十歳に若返ったのか?」

 修一は混乱と混乱が重なっている。しかし、原因はどうあれ、自分が自分である事は間違いのない事実だし、体も記憶も問題ない。変わったのは見た目が二十歳という事だけだ。

 ……。

 もう、いい。もはや人智を超えている。

 修一の思考が、停止した。現実として、心は50歳で見た目は20歳の男がいるだけである。考えても現状は変わらないし、原因も分からない不思議な力、としか言いようがないのだ。

「壱与、いいかい? 聞いてくれ」

 修一は現段階で考えられる事、と言っても起きた事実をつなぎ合わせただけの仮説であるが、その仮説を壱与に話し始めた。

「まず、この場所が、時間を左右する神秘的な何かの力がある場所で、壱与はそこにいて、何らかの力が働いて俺のいた時代に飛んできた。そして今度は、俺のいた時代のこの場所から、また何かの力で壱与の場所へ飛んできて、その際に不思議な力が俺を若返らせた。そういう事になる」

 修一は壱与に向かって説明を続けた。
 
「つまり、壱与。俺たちは時空を超えて、お互いの時代を行き来したんだ。理由は分からないけど、この場所に何か特別な力があるんじゃないかと思う」

 時空、という意味を壱与が理解したかわからない。それでも壱与は、自分が現代で目覚めたときに修一からしてもらった事を、ここで修一に返そうと思った。




「シュウ、腹は減ってはおらぬか」

 ぐううううう、とあの時の壱与の様に腹は鳴らなかったが、なぜか空いている。時空を飛ぶとお腹がへるのだろうか。そう修一は思いながら、壱与の問いに答える。

「ああ、お腹すいた」

「そうか」

 壱与はそう言って伊弉久に先導させ、石室から出て墳墓の外に修一を連れ出す。修一は大きなバックパックを背負い、千切れたロープをたぐって石室からでた。

 ロープは鋭利な刃物で切られたように、断面はスパッと滑らかである。地滑りや何かの圧力で切れたようには見えない。

 石室の外に出ると、そこは一見現代と全く変わりが無いように見える。しかし、墳墓を覆っていた草木は無く手入れがされ、木々が生い茂ってはいたものの、現代ほどではない。

 道路と駐車場があったと思われる道は獣道のようで、とても車が通れる幅ではない。遺跡は黒崎川沿いにあったので、目の前に川が流れているのがわかる。

 伊弉久を先頭に近衛兵が壱与を守るように続き、その後に修一を囲むようにして兵がさらに続いた。

 見晴らしの良い場所に出ると、集落が見えてきた。吉野ヶ里遺跡を小さくしたような村で、環濠かんごう集落と呼ばれるものだ。宮田遺跡(宮田むら)は黒崎川があるおかげで、そこがほりの一分となっていた。

「驚いたな……」

 現代では民家はまばらだったが、255年の今(過去)では人々が集まって、数百人規模の集落を作っていたのだ。

 宮田邑(以降宮田邑で統一)は、豊かな自然に囲まれた海沿いの邑で、村人達は壱与が通ると平伏して拝んでいる。そこかしこから壱与様! 壱与様! という声が聞こえる。

 田畑で農作業をしている者もいるし、川で魚を釣っている者もいた。

 やがて村の中心につくと、そこには社のようなものがあり、定期的に祭りや儀式が行われているようだ。すぐそばに屋敷があった。壱与達一行はそこへ向かい、修一も中へ案内された。




「さあどうぞ、召し上がれ」

 壱与はそう言って修一に食事を勧めた。

 穀類は赤米・黒米・きびあわひえ、イノシシやキジといった肉類があり、デザートとして古代の乳製品醍醐だいごが並べられている。
 
 アサリやハマグリ、サザエなどの貝類に、新鮮な魚の刺身(のようなもの)が盛られ、大皿には香ばしく焼かれた魚がある。

 ……。

「如何した? 早う食べぬか」

「壱与……箸が、ない」

「……」




 次回 第7話 (仮)『邪馬壱国の都』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

月とガーネット[上]

雨音 礼韻
SF
 西暦2093年、東京──。  その70年前にオーストラリア全域を壊滅させる巨大隕石が落下、地球内部のスピネル層が化学変化を起こし、厖大な特殊鉱脈が発見された。  人類は採取した鉱石をシールド状に改良し、上空を全て覆い尽くす。  隕石衝突で乱れた気流は『ムーン・シールド』によって安定し、世界は急速に発展を遂げた。  一方何もかもが上手くいかず、クサクサとしながらふらつく繁華街で、小学生時代のクラスメイトと偶然再会したクウヤ。  「今夜は懐が温かいんだ」と誘われたナイトクラブで豪遊する中、隣の美女から贈られるブラッディ・メアリー。  飲んだ途端激しい衝撃にのたうちまわり、クウヤは彼女のウィスキーに手を出してしまう。  その透明な液体に纏われていた物とは・・・?  舞台は東京からアジア、そしてヨーロッパへ。  突如事件に巻き込まれ、不本意ながらも美女に連れ去られるクウヤと共に、ハードな空の旅をお楽しみください☆彡 ◆キャラクターのイメージ画がある各話には、サブタイトルにキャラのイニシャルが入った〈 〉がございます。 ◆サブタイトルに「*」のある回には、イメージ画像がございます。  ただ飽くまでも作者自身の生きる「現代」の画像を利用しておりますので、70年後である本作では多少変わっているかと思われますf^_^;<  何卒ご了承くださいませ <(_ _)>  第2~4話まで多少説明の多い回が続きますが、解説文は話半分くらいのご理解で十分ですのでご安心くださいm(_ _)m  関連のある展開に入りましたら、その都度説明させていただきます(=゚ω゚)ノ  クウヤと冷血顔面w美女のドタバタな空の旅に、是非ともお付き合いを☆  (^人^)どうぞ宜しくお願い申し上げます(^人^)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...