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対決
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「これは……フェリクス様……!」
メイソン家の広間にフェリクスと私が現れるとすでに到着していたアルバートの父メリック侯爵が白目をむいて叫んだ。
メリック侯爵は目にも止まらぬ速さでアルバートを引き倒すと頭を掴み無理やり土下座をさせる。
「なっ……?! 父上、何を?!」
「お前がフェリクス様に無礼を働いたのだろう?! 誠心誠意謝罪しろ!」
「あ、あいつが本物の王太子?!」
「あいつとはなんだ! フェリクス様と呼ばんか! 貴様という奴はっ! 自身がお仕えするべき次期国王の顔も知らぬとは……!」
「ち、父上……!」
アルバートはやっとフェリクスが本物の王太子であることを認識した様子だった。さすがに王家御三家のメリック侯爵はフェリクスの顔をご存知というわけね。
「まあいいメリック。貴様の息子が女性に対してああいった手荒なことを行う輩だとは知らなかったが……今回のこと、お前は全く存ぜぬことであったということであろう」
フェリクスがいかにも王太子風に話す。ふうんフェリクスって王太子として話す時はこんな感じなのね。そう言えば今まであまり見たことがなかったかも。
「ははっ。おっしゃる通りにございます。ですが今回のことは私の監督不行き届き。メイソン家の令嬢でいらっしゃるマリアベル殿にそのような不躾なことをしでかすとは、父である私としてもいかなる罰をも……」
「まあいい。ところでマリアベル・メイソンは今はエマという通名で通っている。今後私は彼女をエマと呼ぶから覚えておくように」
「はっ」
何が何やら状況がわからない様子で父上がぽかんと口を開けている。隣には義理の母であるグレース・メイソンがいた。最近はしばらく姿を見せていなかったから顔を合わせるのは久しぶりだった。
「メイソン侯爵」
フェリクスが父上に向かって言う。
「私と貴家の令嬢エマもといマリアベルはこの度婚約する運びとなった。もちろん了承してくれるな?」
「は、はっ……、そ、それは光栄なことで……」
父上は驚きを隠せない様子で言う。隣に座っている義母上はなにやらとても不機嫌そうな表情を浮かべて押し黙ったままだ。
「であれば、こちらのメリック家の嫡男アルバートとの婚約は当然なかったものとし今後一切エマにこの男を近づかせないよう取り決める。よいな?」
フェリクスが言う。
「……王太子様と言えどそれはあまりにも勝手ではございませんこと?」
義母上が口を開く。義母上の声は小鳥のさえずりのように美しい。だけどその口から紡がれる言葉はいつも不躾で無礼で下品だ。
「勝手……とは?」
「要するに元々我がメイソン家とメリック家とで取り決めていた婚約を王太子であるフェリクス様がマリアベルに横恋慕して無理やり婚約を破棄させるということですわよね? ……いくら王家の方と言えど侯爵家同士の取り決めを強引になかったことにさせるというのは民主主義に反すると思いますわ」
「これ、グレース!」
義母上にとかく甘い父上もさすがに義母上の不躾な物言いを制止する。義母上はどうしても私をアルバートの元に嫁がせたいのだろう。
「すでに結納金もいただいておりますし、婚約破棄となればそれも返還しなければならないということになるのでしょうけれど、こちらにも色々と事業の都合がありますの。急にそのようなことを言われても困りますわ」
事業の都合……ね。結納金とやらもどうせ宝石やら豪華な骨董品やらで散財したのであろうことはお義母様の華美な装いからすぐに察しがつく。
「それはまぁ……結納金のほうは返還してもらわなければこちらは困りますな」
メリック侯爵が遠慮がちに言う。
メイソン家の広間にフェリクスと私が現れるとすでに到着していたアルバートの父メリック侯爵が白目をむいて叫んだ。
メリック侯爵は目にも止まらぬ速さでアルバートを引き倒すと頭を掴み無理やり土下座をさせる。
「なっ……?! 父上、何を?!」
「お前がフェリクス様に無礼を働いたのだろう?! 誠心誠意謝罪しろ!」
「あ、あいつが本物の王太子?!」
「あいつとはなんだ! フェリクス様と呼ばんか! 貴様という奴はっ! 自身がお仕えするべき次期国王の顔も知らぬとは……!」
「ち、父上……!」
アルバートはやっとフェリクスが本物の王太子であることを認識した様子だった。さすがに王家御三家のメリック侯爵はフェリクスの顔をご存知というわけね。
「まあいいメリック。貴様の息子が女性に対してああいった手荒なことを行う輩だとは知らなかったが……今回のこと、お前は全く存ぜぬことであったということであろう」
フェリクスがいかにも王太子風に話す。ふうんフェリクスって王太子として話す時はこんな感じなのね。そう言えば今まであまり見たことがなかったかも。
「ははっ。おっしゃる通りにございます。ですが今回のことは私の監督不行き届き。メイソン家の令嬢でいらっしゃるマリアベル殿にそのような不躾なことをしでかすとは、父である私としてもいかなる罰をも……」
「まあいい。ところでマリアベル・メイソンは今はエマという通名で通っている。今後私は彼女をエマと呼ぶから覚えておくように」
「はっ」
何が何やら状況がわからない様子で父上がぽかんと口を開けている。隣には義理の母であるグレース・メイソンがいた。最近はしばらく姿を見せていなかったから顔を合わせるのは久しぶりだった。
「メイソン侯爵」
フェリクスが父上に向かって言う。
「私と貴家の令嬢エマもといマリアベルはこの度婚約する運びとなった。もちろん了承してくれるな?」
「は、はっ……、そ、それは光栄なことで……」
父上は驚きを隠せない様子で言う。隣に座っている義母上はなにやらとても不機嫌そうな表情を浮かべて押し黙ったままだ。
「であれば、こちらのメリック家の嫡男アルバートとの婚約は当然なかったものとし今後一切エマにこの男を近づかせないよう取り決める。よいな?」
フェリクスが言う。
「……王太子様と言えどそれはあまりにも勝手ではございませんこと?」
義母上が口を開く。義母上の声は小鳥のさえずりのように美しい。だけどその口から紡がれる言葉はいつも不躾で無礼で下品だ。
「勝手……とは?」
「要するに元々我がメイソン家とメリック家とで取り決めていた婚約を王太子であるフェリクス様がマリアベルに横恋慕して無理やり婚約を破棄させるということですわよね? ……いくら王家の方と言えど侯爵家同士の取り決めを強引になかったことにさせるというのは民主主義に反すると思いますわ」
「これ、グレース!」
義母上にとかく甘い父上もさすがに義母上の不躾な物言いを制止する。義母上はどうしても私をアルバートの元に嫁がせたいのだろう。
「すでに結納金もいただいておりますし、婚約破棄となればそれも返還しなければならないということになるのでしょうけれど、こちらにも色々と事業の都合がありますの。急にそのようなことを言われても困りますわ」
事業の都合……ね。結納金とやらもどうせ宝石やら豪華な骨董品やらで散財したのであろうことはお義母様の華美な装いからすぐに察しがつく。
「それはまぁ……結納金のほうは返還してもらわなければこちらは困りますな」
メリック侯爵が遠慮がちに言う。
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