変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi

文字の大きさ
上 下
37 / 56

婚約

しおりを挟む
「ふふふ、あはは……この状況でなかなか面白い冗談を言ってくれるな」

  アルバートが÷予想していたけれど案の定フェリクスが王太子だという事実を信じていない様子だ。

  フェリクスは自由に振舞いたいからできるだけ顔を人に知られたくないなんて言っていたけれどこういう時何かと不便じゃないのかしら。ユリアの時だって信じてもらえるまでしばらくかかったものね。

「まあ信じないのも無理はない、か。それはいいとして早くエマを離せ」

  フェリクスが苛立った様子で言う。だけどアルバートが言うことを聞く素振りはない。アルバートが連れきた兵が動いたことで腕がねじれる。

「痛っ!」

  その瞬間、私を捕らえていた兵士の足をフェリクスの光魔法が直撃した。

「ぐああああっ!」

  兵が手を離し足をおさえる。

「おっと少し手が滑ったようだな」

「お前……っ」

  激高した兵がフェリクスへと突進する。フェリクスが素早く呪文を詠唱すると兵は光の鎖に縛られ動けなくなった。

「ちっ……」

  アルバートが舌打ちをする。

「エマに気安く触れるなど、この程度の仕打ちで済んだだけありがたく思ってほしいものだがな」

  フェリクスの魔法の威力を見たアルバートは怖気づいている兵に目配せする。兵が私から手を離した。フェリクスが駆け寄ってくる。

「大丈夫か、エマ」

「え、ええ」

  フェリクスが私の肩を抱きかかえるようにして顔を覗き込んでいる。ち、近いわ……。そしてさっき私のことを『許嫁』なんて言っていたけど……。

「王太子様は魔力の腕はまずまずのようだな」

  アルバートが言う。

「あのねアルバート、本当にこの人は王太子なの。あなたのお父様をここに連れてきたらすぐに分かることよ。あなた土下座じゃすまないことになると思うけど。悪いことは言わないからもう何も言わず帰ったほうがいいわ」

  私の言葉にアルバートがにわかに表情を変える。まさかとは思うが本当に……? とでも考えている様子だ。

「金輪際エマには近づくな。彼女は俺の婚約者だ」

  ……や、やっぱり聞き間違いじゃなかった?!

  だ、だけどそうよね。こうなったらこうでも言わないと私、無理やりアルバートに連れて行かれてしまうもの。アリアを守るためにも、これが一番の手よね。

  私は覚悟を決めた。

「アルバート。彼の言う通り、私とフェリクスは愛し合っているの」

「なっ?!」

  言い出しっぺのフェリクスが驚きで目を見開いて私を見ている。えっ? 話を合わせるところなんじゃないの? 私が目で合図するとフェリクスは小さく咳払いをして続ける。

「え、エマの言う通りだ。我々は、あ、あ、愛……」

「はあーーー! もううんざりだ!」

  アルバートがぶちギレて叫ぶ。

「王太子殿と婚約ごっこか?! いい加減にしてくれよ?! そこまで言うのならこのまま私の父とマリアベルの父、そして僕たちの3人で話をつけようじゃないか。……お前、父上ならお前が王太子だとわかるなんて啖呵を切っておいて後悔するぞ?」

  いや、後悔するのはあなたなんだけど……と思うけれど言ったところできっと聞かないわよね。

「いいだろう。それでは今から集めてもらえるのか? その場で俺とエマの婚約についても公にすることにする」

  えっ?! ちょ、ちょっと急すぎない?!

  話の展開に全くついていけていないけれど、そのまま私たちは私の実家のメイソン侯爵家で会談を開くことになってしまった。

  まさかこんな形であの邸を再び訪れることになるなんて……。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。 遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。 王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。 「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」 話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。 話せるだけで十分幸せだった。 それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。 あれ? わたくしが王太子妃候補? 婚約者は? こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*) アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。 短編です、ハピエンです(強調) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子
恋愛
―――申し訳ありません。実は期限付きのお飾り婚約者なんです。――― とある事情で王妃より依頼され多額の借金の返済や幼い弟の爵位を守るために、王太子ギャレットの婚約者を一時的に演じることになった貧乏侯爵令嬢ローレン。 最初はどうせ金目当てだろうと険悪な対応をしていたギャレットだったが、偶然泣いているところを目撃しローレンを気になり惹かれるように。 だが、ギャレットの本来の婚約者となるはずの令嬢や、成功報酬代わりにローレンの婚約者となる大富豪など、それぞれの思惑は様々入り乱れて!? 訳あって期限付きの婚約者を演じているはずの塩対応令嬢が、彼女を溺愛したくて堪らない脳筋王子様を悪気なく胸キュン対応でオーバーキルしていく恋物語。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...