変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi

文字の大きさ
上 下
35 / 56

デート?(エマ視点)

しおりを挟む
  ……フェリクスがこんなに心配性だなんて知らなかったわ。

  今日は休日。いつものようにカフェでバイト。なんだけど……

  アルバートの話をしてからというもの、フェリクスがやたらと私を心配してくるのよね。今日もカフェまでついて行くと言って聞かないからこうして一緒に学園からカフェまでの道のりを歩いている。

  ……こっちは王太子妃になったらいいなんて言われてからどんな顔をしてフェリクスに会えばいいかよくわからないっていうのに。

  ……私ってば顔が赤くなっていないかしら? 

  ちらりとフェリクスを見るとにこりと笑みを向けられた。思わず目を逸らす。

  私が動揺すればするほどフェリクスは逆に嬉しそう。……なんだか癪だわ。

  一体どういうつもりで『俺と結婚すればいい』なんて言うのかしら。あんな綺麗な顔と甘い声で、すごく、すごくずるいわ。

「王太子が街中をこんなに堂々と女性と歩いていて問題ないのかしら?」

  私はフェリクスに向かって尋ねる。

「そういえばそうだな。だが俺の顔をちゃんと知っている王国民なんてごくわずかだったことくらい君なら知っているだろう。今でも本当の即位まではできるだけ顔を見せたくないと思っているんだ。こうして君と自由に街を歩くこともできなくなるからな」

  ……そんなことを言う割に先ほどから随分目立っているのですけれど、もしかして気がついていないのかしら?道行く女性からの視線がフェリクスに向かっていることになんだか居心地の悪い気持ちがする。

  それはそうよね。だってフェリクスって背は高いし、顔立ちはびっくりするくらい綺麗で、普通に立っているだけですごく目立つんだもの。見た目だけで言えば……こんな人、嫌いな女の子なんているわけないってくらいよね。

「エマ、あれを見ろ」

  そう言ってフェリクスが足を止めた。視線の先を見るとアクセサリーや小物を売っているこじんまりとした雑貨屋があった。

「ああいうのは好きか?」

「え?」

「カフェでの仕事の時間までにはまだ余裕はあるな?」

「それはそうですけれど……」

「ちょっと見て行かないか?」

「え?」

「ずっと君になにか贈りたいと思っていたんだ。贈り物を届けさせても君は黙って送り返してくるだけだし、こうして本人の好みを聞いて直接プレゼントしたものなら、いくら物を受け取るのが嫌いな君でも突き返したりはしないだろう?」

「べ、別になにかを受け取るのが嫌いというわけでは……」

  単に誰かからプレゼントをされるということに慣れていないだけですわ。

  フェリクスに連れられて私は雑貨屋に入った。

  押し切られたみたいになってしまったけれど、こういうお店って実は大好きなのよね。店内には指輪やネックレス・髪飾りなどのアクセサリーや写真立てやティーカップなどの小物が所狭しと並べられている。

  ふと見ると、フェリクスは壁にかけられているネックレスを真剣な表情で吟味している。

  ……こんなに真剣な表情、学園の魔術試験の時でさえ見たことがないわよ? ……べ、別にいつもフェリクスを見ているわけじゃないけど。

  フェリクスは少し考えこんだ後で青い宝石があしらわれたネックレスを選ぶと私の胸元にかかげて見せた。

「いいな、すごくいい。すごくよく似合う」

  フェリクスが満足げに微笑む。……ど、どうして私ではなくてあなたが、そんなに嬉しそうな顔をするのよ。

  だけどたしかにネックレスはすごく素敵だわ。綺麗にカットされた青い宝石がキラキラ光っている。

「そのブルーダイヤはとびきり上等だよ。フィルディア大陸で取れた超一級品さ。お兄さん、お目が高いねぇ」

  店主がフェリクスにそう声を掛ける。フェリクスが王太子だなんて全く気がついていない様子だ。

「どうだ?」

「すごく綺麗……」

「店主、このネックレスをくれ」

  そう言ってフェリクスはあっという間にそのネックレスを購入してしまった。店の外に出てベンチに腰掛ける。

「さ、つけてやる」

「そ、そんな受け取れませんわ」

「何を言ってる。君が受け取ってくれなかったらこのネックレスはどうすればいい?」

  そう言われてしまうと返す言葉がなくて私は黙った。それを了承の合図だと思ったみたいにフェリクスはネックレスの金具を外すと私の首の後ろへ手を伸ばす。

「……俺がいない時は、これを俺だと思ってつけていてほしい」

  耳元でそう言われてドキリとする。

  な、なんですって? まるで恋人に言うみたいなセリフみたい。こんなことを言って万が一私がフェリクスのことを嫌いだったとしたら一体どうするつもりなのかしら? 気持ち悪いって言われてしまうわよ?!

「そ、そんなセリフ、いつも女の子に対して言っているの?!」

  思わず問いかけると意味がわからないという表情を浮かべるフェリクスと目が合った。か、顔が近いですわ。びっくりしてうつむいてしまう。

「こんなこと、君にしか言わないに決まっているじゃないか。ほらいいから黙ってじっとしていてくれ。ネックレスをつけられない」

  フェリクスが手を首の後ろに回してネックレスをつけてくれる。彼の手が首筋に触れるとドキリとして呼吸するのも忘れてしまう。……私ってば一体どうしてしまったのかしら。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。 遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。 王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。 「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」 話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。 話せるだけで十分幸せだった。 それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。 あれ? わたくしが王太子妃候補? 婚約者は? こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*) アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。 短編です、ハピエンです(強調) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

待鳥園子
恋愛
―――申し訳ありません。実は期限付きのお飾り婚約者なんです。――― とある事情で王妃より依頼され多額の借金の返済や幼い弟の爵位を守るために、王太子ギャレットの婚約者を一時的に演じることになった貧乏侯爵令嬢ローレン。 最初はどうせ金目当てだろうと険悪な対応をしていたギャレットだったが、偶然泣いているところを目撃しローレンを気になり惹かれるように。 だが、ギャレットの本来の婚約者となるはずの令嬢や、成功報酬代わりにローレンの婚約者となる大富豪など、それぞれの思惑は様々入り乱れて!? 訳あって期限付きの婚約者を演じているはずの塩対応令嬢が、彼女を溺愛したくて堪らない脳筋王子様を悪気なく胸キュン対応でオーバーキルしていく恋物語。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

処理中です...