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デート?(エマ視点)
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……フェリクスがこんなに心配性だなんて知らなかったわ。
今日は休日。いつものようにカフェでバイト。なんだけど……
アルバートの話をしてからというもの、フェリクスがやたらと私を心配してくるのよね。今日もカフェまでついて行くと言って聞かないからこうして一緒に学園からカフェまでの道のりを歩いている。
……こっちは王太子妃になったらいいなんて言われてからどんな顔をしてフェリクスに会えばいいかよくわからないっていうのに。
……私ってば顔が赤くなっていないかしら?
ちらりとフェリクスを見るとにこりと笑みを向けられた。思わず目を逸らす。
私が動揺すればするほどフェリクスは逆に嬉しそう。……なんだか癪だわ。
一体どういうつもりで『俺と結婚すればいい』なんて言うのかしら。あんな綺麗な顔と甘い声で、すごく、すごくずるいわ。
「王太子が街中をこんなに堂々と女性と歩いていて問題ないのかしら?」
私はフェリクスに向かって尋ねる。
「そういえばそうだな。だが俺の顔をちゃんと知っている王国民なんてごくわずかだったことくらい君なら知っているだろう。今でも本当の即位まではできるだけ顔を見せたくないと思っているんだ。こうして君と自由に街を歩くこともできなくなるからな」
……そんなことを言う割に先ほどから随分目立っているのですけれど、もしかして気がついていないのかしら?道行く女性からの視線がフェリクスに向かっていることになんだか居心地の悪い気持ちがする。
それはそうよね。だってフェリクスって背は高いし、顔立ちはびっくりするくらい綺麗で、普通に立っているだけですごく目立つんだもの。見た目だけで言えば……こんな人、嫌いな女の子なんているわけないってくらいよね。
「エマ、あれを見ろ」
そう言ってフェリクスが足を止めた。視線の先を見るとアクセサリーや小物を売っているこじんまりとした雑貨屋があった。
「ああいうのは好きか?」
「え?」
「カフェでの仕事の時間までにはまだ余裕はあるな?」
「それはそうですけれど……」
「ちょっと見て行かないか?」
「え?」
「ずっと君になにか贈りたいと思っていたんだ。贈り物を届けさせても君は黙って送り返してくるだけだし、こうして本人の好みを聞いて直接プレゼントしたものなら、いくら物を受け取るのが嫌いな君でも突き返したりはしないだろう?」
「べ、別になにかを受け取るのが嫌いというわけでは……」
単に誰かからプレゼントをされるということに慣れていないだけですわ。
フェリクスに連れられて私は雑貨屋に入った。
押し切られたみたいになってしまったけれど、こういうお店って実は大好きなのよね。店内には指輪やネックレス・髪飾りなどのアクセサリーや写真立てやティーカップなどの小物が所狭しと並べられている。
ふと見ると、フェリクスは壁にかけられているネックレスを真剣な表情で吟味している。
……こんなに真剣な表情、学園の魔術試験の時でさえ見たことがないわよ? ……べ、別にいつもフェリクスを見ているわけじゃないけど。
フェリクスは少し考えこんだ後で青い宝石があしらわれたネックレスを選ぶと私の胸元にかかげて見せた。
「いいな、すごくいい。すごくよく似合う」
フェリクスが満足げに微笑む。……ど、どうして私ではなくてあなたが、そんなに嬉しそうな顔をするのよ。
だけどたしかにネックレスはすごく素敵だわ。綺麗にカットされた青い宝石がキラキラ光っている。
「そのブルーダイヤはとびきり上等だよ。フィルディア大陸で取れた超一級品さ。お兄さん、お目が高いねぇ」
店主がフェリクスにそう声を掛ける。フェリクスが王太子だなんて全く気がついていない様子だ。
「どうだ?」
「すごく綺麗……」
「店主、このネックレスをくれ」
そう言ってフェリクスはあっという間にそのネックレスを購入してしまった。店の外に出てベンチに腰掛ける。
「さ、つけてやる」
「そ、そんな受け取れませんわ」
「何を言ってる。君が受け取ってくれなかったらこのネックレスはどうすればいい?」
そう言われてしまうと返す言葉がなくて私は黙った。それを了承の合図だと思ったみたいにフェリクスはネックレスの金具を外すと私の首の後ろへ手を伸ばす。
「……俺がいない時は、これを俺だと思ってつけていてほしい」
耳元でそう言われてドキリとする。
な、なんですって? まるで恋人に言うみたいなセリフみたい。こんなことを言って万が一私がフェリクスのことを嫌いだったとしたら一体どうするつもりなのかしら? 気持ち悪いって言われてしまうわよ?!
「そ、そんなセリフ、いつも女の子に対して言っているの?!」
思わず問いかけると意味がわからないという表情を浮かべるフェリクスと目が合った。か、顔が近いですわ。びっくりしてうつむいてしまう。
「こんなこと、君にしか言わないに決まっているじゃないか。ほらいいから黙ってじっとしていてくれ。ネックレスをつけられない」
フェリクスが手を首の後ろに回してネックレスをつけてくれる。彼の手が首筋に触れるとドキリとして呼吸するのも忘れてしまう。……私ってば一体どうしてしまったのかしら。
今日は休日。いつものようにカフェでバイト。なんだけど……
アルバートの話をしてからというもの、フェリクスがやたらと私を心配してくるのよね。今日もカフェまでついて行くと言って聞かないからこうして一緒に学園からカフェまでの道のりを歩いている。
……こっちは王太子妃になったらいいなんて言われてからどんな顔をしてフェリクスに会えばいいかよくわからないっていうのに。
……私ってば顔が赤くなっていないかしら?
ちらりとフェリクスを見るとにこりと笑みを向けられた。思わず目を逸らす。
私が動揺すればするほどフェリクスは逆に嬉しそう。……なんだか癪だわ。
一体どういうつもりで『俺と結婚すればいい』なんて言うのかしら。あんな綺麗な顔と甘い声で、すごく、すごくずるいわ。
「王太子が街中をこんなに堂々と女性と歩いていて問題ないのかしら?」
私はフェリクスに向かって尋ねる。
「そういえばそうだな。だが俺の顔をちゃんと知っている王国民なんてごくわずかだったことくらい君なら知っているだろう。今でも本当の即位まではできるだけ顔を見せたくないと思っているんだ。こうして君と自由に街を歩くこともできなくなるからな」
……そんなことを言う割に先ほどから随分目立っているのですけれど、もしかして気がついていないのかしら?道行く女性からの視線がフェリクスに向かっていることになんだか居心地の悪い気持ちがする。
それはそうよね。だってフェリクスって背は高いし、顔立ちはびっくりするくらい綺麗で、普通に立っているだけですごく目立つんだもの。見た目だけで言えば……こんな人、嫌いな女の子なんているわけないってくらいよね。
「エマ、あれを見ろ」
そう言ってフェリクスが足を止めた。視線の先を見るとアクセサリーや小物を売っているこじんまりとした雑貨屋があった。
「ああいうのは好きか?」
「え?」
「カフェでの仕事の時間までにはまだ余裕はあるな?」
「それはそうですけれど……」
「ちょっと見て行かないか?」
「え?」
「ずっと君になにか贈りたいと思っていたんだ。贈り物を届けさせても君は黙って送り返してくるだけだし、こうして本人の好みを聞いて直接プレゼントしたものなら、いくら物を受け取るのが嫌いな君でも突き返したりはしないだろう?」
「べ、別になにかを受け取るのが嫌いというわけでは……」
単に誰かからプレゼントをされるということに慣れていないだけですわ。
フェリクスに連れられて私は雑貨屋に入った。
押し切られたみたいになってしまったけれど、こういうお店って実は大好きなのよね。店内には指輪やネックレス・髪飾りなどのアクセサリーや写真立てやティーカップなどの小物が所狭しと並べられている。
ふと見ると、フェリクスは壁にかけられているネックレスを真剣な表情で吟味している。
……こんなに真剣な表情、学園の魔術試験の時でさえ見たことがないわよ? ……べ、別にいつもフェリクスを見ているわけじゃないけど。
フェリクスは少し考えこんだ後で青い宝石があしらわれたネックレスを選ぶと私の胸元にかかげて見せた。
「いいな、すごくいい。すごくよく似合う」
フェリクスが満足げに微笑む。……ど、どうして私ではなくてあなたが、そんなに嬉しそうな顔をするのよ。
だけどたしかにネックレスはすごく素敵だわ。綺麗にカットされた青い宝石がキラキラ光っている。
「そのブルーダイヤはとびきり上等だよ。フィルディア大陸で取れた超一級品さ。お兄さん、お目が高いねぇ」
店主がフェリクスにそう声を掛ける。フェリクスが王太子だなんて全く気がついていない様子だ。
「どうだ?」
「すごく綺麗……」
「店主、このネックレスをくれ」
そう言ってフェリクスはあっという間にそのネックレスを購入してしまった。店の外に出てベンチに腰掛ける。
「さ、つけてやる」
「そ、そんな受け取れませんわ」
「何を言ってる。君が受け取ってくれなかったらこのネックレスはどうすればいい?」
そう言われてしまうと返す言葉がなくて私は黙った。それを了承の合図だと思ったみたいにフェリクスはネックレスの金具を外すと私の首の後ろへ手を伸ばす。
「……俺がいない時は、これを俺だと思ってつけていてほしい」
耳元でそう言われてドキリとする。
な、なんですって? まるで恋人に言うみたいなセリフみたい。こんなことを言って万が一私がフェリクスのことを嫌いだったとしたら一体どうするつもりなのかしら? 気持ち悪いって言われてしまうわよ?!
「そ、そんなセリフ、いつも女の子に対して言っているの?!」
思わず問いかけると意味がわからないという表情を浮かべるフェリクスと目が合った。か、顔が近いですわ。びっくりしてうつむいてしまう。
「こんなこと、君にしか言わないに決まっているじゃないか。ほらいいから黙ってじっとしていてくれ。ネックレスをつけられない」
フェリクスが手を首の後ろに回してネックレスをつけてくれる。彼の手が首筋に触れるとドキリとして呼吸するのも忘れてしまう。……私ってば一体どうしてしまったのかしら。
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