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怒り(エマ視点)
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「邸に帰ってきてからのユリア様、それはもう機嫌が悪くて手がつけられないんです」
休日のカフェの屋根裏部屋。相変わらずメイソン家でメイドをしているアリアがこっそりやって来ている。バイト仲間のシータと一緒にお茶を飲んでいる。
「エマって本当はマリアベルって名前だったんだね」
シータが言う。シータには今まで本当の名前や私の出自などを隠していたけれどユリアが魔法学園に来たことで学園のみんなに色んなことがバレてしまったタイミングですべてを話した。
「マリアベルってなんだかすごくお嬢様っぽい」
シータは生まれも育ちも街だから口調もくだけている。そんなシータと話すのはお互いにすごく仲良くなれている感じがしてなんだかすごく楽しい。
「そうなの。個人的には『エマ』のほうが気に入っているのよね。短くて呼びやすいでしょう? これからはずっとエマでいきたいなって思っているの」
「いいね。私もエマの方が好きかも」
シータが言う。
「エマももちろん素敵ですけれど……私としてはマリアベル様もやっぱり素敵で愛らしいお名前で……」
「あーもうアリア、『様』づけは本当にもうやめてよね?」
「はっ! そうでした! つい癖で……。も、申し訳ありません」
「『申し訳ありません』もね?!」
「す、すみません!」
縁を切られてもうメイソン家の娘ではないのだからくだけた口調で話してほしいと言っているのだけれど、アリアは昔からの話し方の癖がなかなか抜けないみたい。まあそういうものかもしれないわね。それにアリアは私に対してだけでなく誰に対しても丁寧語で話すタイプなのだ。
「それでユリア様の話ですけれど、しばらくは王国の兵が監視をしておりますでしょう? なんとか篭絡しようとしているのかその兵たちに甘い声で話しかけたりしているのですが完全に無視されて顔を真っ赤にして怒ってらっしゃいましたわ」
ユリアの様子が簡単に想像できて私は笑いをこらえた。これだけのことになってもとりあえずは元気そうでまあよかったじゃないの。……いや全然よくはないけれど。
「さすがに今回ばかりはユリア様の嫁ぎ先が本当に絶望的なことになるのではないかと侯爵様は頭を抱えておいでみたいですよ。それはユリア様もわかっているからこそ兵でもなんでも手当たり次第というのもあるのかもしれませんね。以前のユリア様ならイケメン・上位侯爵家・王族・富豪以外の男性は虫ケラを見るような目で見ていらっしゃいましたから」
丁寧な口調で大真面目にユリアをクソミソに言うアリアがなんだか面白い。
「それよりお嬢様、アルバート様ですよ! アルバート様が侯爵様にマリアベル様との再婚約を申し込みに来たんです!」
突如アリアの口からアルバートの名前が出て私は思わずびくりと体をこわばらせた。アルバート……名前を聞くだけで虫唾がはしる。婚約中に手を出されることはなかったけれど身の危険を感じることは何度もあった。あのアルバートのいやらしい視線。思い出すだけで不快だわ。
「侯爵様は2つ返事で了承されて……」
言いづらそうにアリアが言葉を詰まらせる。明らかに私が表情をこわばらせているのがわかったからだろう。
アリアの話を聞きながら心のなかにふつふつと怒りの感情がわいてくる。
お父様もアルバートも人をまるで物のように……。簡単に婚約を破棄したと思ったら今度は2人の間で簡単に再婚約を決めたですって? 妹がのしをつけて返してよこしたいかにも問題のありそうな男と?
怒りでカップを持つ手が震える。
「エマ……」
話を聞いていたシータが私を気遣うような声で言う。
お父様はきっとアルバートの異常さに気がついているはずだ。私だけでなくユリアまでもが短期間のうちに婚約破棄。その上厚かましく私と再婚約をしたいなどと申し出てくる男。なにかしら問題があると思わないほうがおかしいだろう。
けれどお父様は娘の私の幸せよりも家の存続と財政事情が大事なのだ。そんなことはわかっている。わかっているけれど。
「……そんなこと勝手に決められても私には関係ありませんわ。もう勘当されているのですから」
私はそう言った。だけどきっとあの勘当もなかったことにするとお父様はまた簡単に言うだろう。私の扱いなんてその程度のものなのだ。自分の言った通り駒のように動けばいい、そう思っているに違いない。
「どうかお気をつけください。突然アルバート様がそのようなことを言い出したということはお嬢様の居場所をもうご存知なのかもしれません」
アリアが心配そうな表情を浮かべて言う。
ユリアに居場所がバレてから遅かれ早かれアルバートにも私の居場所はバレてしまうだろうとは思っていた。だけどまさか早々にお父様のところへ行って再婚約の取り決めまでしてきてしまうなんてね。
「しばらくの間はお一人で出歩かないようにしたほうがいいかもしれません」
「……そうね」
怒りと悲しみの感情が胸の中で渦巻いていた。男たちはなぜ自分の欲や金の為に女を好き勝手に使っていいと思うのだろう。
もう金輪際そんな風には扱われたくはない。だから力をつけなくちゃ。それは魔力ということじゃない。経済力、地位、力。そのためにものんびりはしていられないわ。
休日のカフェの屋根裏部屋。相変わらずメイソン家でメイドをしているアリアがこっそりやって来ている。バイト仲間のシータと一緒にお茶を飲んでいる。
「エマって本当はマリアベルって名前だったんだね」
シータが言う。シータには今まで本当の名前や私の出自などを隠していたけれどユリアが魔法学園に来たことで学園のみんなに色んなことがバレてしまったタイミングですべてを話した。
「マリアベルってなんだかすごくお嬢様っぽい」
シータは生まれも育ちも街だから口調もくだけている。そんなシータと話すのはお互いにすごく仲良くなれている感じがしてなんだかすごく楽しい。
「そうなの。個人的には『エマ』のほうが気に入っているのよね。短くて呼びやすいでしょう? これからはずっとエマでいきたいなって思っているの」
「いいね。私もエマの方が好きかも」
シータが言う。
「エマももちろん素敵ですけれど……私としてはマリアベル様もやっぱり素敵で愛らしいお名前で……」
「あーもうアリア、『様』づけは本当にもうやめてよね?」
「はっ! そうでした! つい癖で……。も、申し訳ありません」
「『申し訳ありません』もね?!」
「す、すみません!」
縁を切られてもうメイソン家の娘ではないのだからくだけた口調で話してほしいと言っているのだけれど、アリアは昔からの話し方の癖がなかなか抜けないみたい。まあそういうものかもしれないわね。それにアリアは私に対してだけでなく誰に対しても丁寧語で話すタイプなのだ。
「それでユリア様の話ですけれど、しばらくは王国の兵が監視をしておりますでしょう? なんとか篭絡しようとしているのかその兵たちに甘い声で話しかけたりしているのですが完全に無視されて顔を真っ赤にして怒ってらっしゃいましたわ」
ユリアの様子が簡単に想像できて私は笑いをこらえた。これだけのことになってもとりあえずは元気そうでまあよかったじゃないの。……いや全然よくはないけれど。
「さすがに今回ばかりはユリア様の嫁ぎ先が本当に絶望的なことになるのではないかと侯爵様は頭を抱えておいでみたいですよ。それはユリア様もわかっているからこそ兵でもなんでも手当たり次第というのもあるのかもしれませんね。以前のユリア様ならイケメン・上位侯爵家・王族・富豪以外の男性は虫ケラを見るような目で見ていらっしゃいましたから」
丁寧な口調で大真面目にユリアをクソミソに言うアリアがなんだか面白い。
「それよりお嬢様、アルバート様ですよ! アルバート様が侯爵様にマリアベル様との再婚約を申し込みに来たんです!」
突如アリアの口からアルバートの名前が出て私は思わずびくりと体をこわばらせた。アルバート……名前を聞くだけで虫唾がはしる。婚約中に手を出されることはなかったけれど身の危険を感じることは何度もあった。あのアルバートのいやらしい視線。思い出すだけで不快だわ。
「侯爵様は2つ返事で了承されて……」
言いづらそうにアリアが言葉を詰まらせる。明らかに私が表情をこわばらせているのがわかったからだろう。
アリアの話を聞きながら心のなかにふつふつと怒りの感情がわいてくる。
お父様もアルバートも人をまるで物のように……。簡単に婚約を破棄したと思ったら今度は2人の間で簡単に再婚約を決めたですって? 妹がのしをつけて返してよこしたいかにも問題のありそうな男と?
怒りでカップを持つ手が震える。
「エマ……」
話を聞いていたシータが私を気遣うような声で言う。
お父様はきっとアルバートの異常さに気がついているはずだ。私だけでなくユリアまでもが短期間のうちに婚約破棄。その上厚かましく私と再婚約をしたいなどと申し出てくる男。なにかしら問題があると思わないほうがおかしいだろう。
けれどお父様は娘の私の幸せよりも家の存続と財政事情が大事なのだ。そんなことはわかっている。わかっているけれど。
「……そんなこと勝手に決められても私には関係ありませんわ。もう勘当されているのですから」
私はそう言った。だけどきっとあの勘当もなかったことにするとお父様はまた簡単に言うだろう。私の扱いなんてその程度のものなのだ。自分の言った通り駒のように動けばいい、そう思っているに違いない。
「どうかお気をつけください。突然アルバート様がそのようなことを言い出したということはお嬢様の居場所をもうご存知なのかもしれません」
アリアが心配そうな表情を浮かべて言う。
ユリアに居場所がバレてから遅かれ早かれアルバートにも私の居場所はバレてしまうだろうとは思っていた。だけどまさか早々にお父様のところへ行って再婚約の取り決めまでしてきてしまうなんてね。
「しばらくの間はお一人で出歩かないようにしたほうがいいかもしれません」
「……そうね」
怒りと悲しみの感情が胸の中で渦巻いていた。男たちはなぜ自分の欲や金の為に女を好き勝手に使っていいと思うのだろう。
もう金輪際そんな風には扱われたくはない。だから力をつけなくちゃ。それは魔力ということじゃない。経済力、地位、力。そのためにものんびりはしていられないわ。
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