変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

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妹ざまぁ その1

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「ん……っ」

  眠っていたルークが目を覚ます。

「ここは……一体……?」

  自分が服を着ていないことに気がついたルークは慌て取り乱す。

「なっ……?! これは一体?! ユリアにエマにフェリクス? これは一体どういう状況なんだ?!」

「私と宿屋に入った後、ルーク様は私を愛していると言ってくださったじゃありませんか。それからルーク様が私に口づけを……。まさかお忘れになったの?」

  ユリアが目を潤ませる。はーやれやれ、相変わらず白々しいわ。ユリアの言葉にルークはぎょっとした顔をした。

「えっ?! あ、いや、言われてみればそんな記憶が……。いやだけどそんなはずは……!」

  記憶と自分の意思がかけ離れていることにルークはすっかり混乱している様子だ。どうやら媚薬の効果は完全に消えしまっているようね。

  ユリアはそんなルークの態度にイライラしている様子だ。

「……そんなことより! ルーク様に確認したいことがありますの。ルーク様は本物の王太子様ですわよね?」

  ユリアが尋ねる。

「え……ああ、それはもちろん……」

「ルーク、もうその必要はない」

  ルークの言葉を遮るようにフェリクスが言った。

「えっ?」

「お前が眠っている間に2人には全てを話した。もうお前が王太子のフリをする必要はない」

「なっ……?!」

  ルークの目が驚きで大きく見開かれる。

「フェリクス、おかしなことを言ってルーク様を困らせないでちょうだい」

  ユリアがフェリクスに向かってキツい口調で言う。

「いや……。それは本当か? フェリクス」

  ルークの問いかけにフェリクスは無言で先ほどの指輪を見せる。ルークがふうと息をついた。

「ユリア、俺は本物の王太子ではない」

  ルークの口からその言葉を聞いたユリアの表情が固まった。

「は?」

「……俺は本物の王太子ではない。本物の王太子はそこにいるフェリクス様だ」

「……なっ? なっ、な? 冗談はおやめください、ルーク様」

「冗談ではない」

「な?! ほ、本当にあの陰キャメガネが王太子だとおっしゃるの?!」

「……ユリア。言葉を慎みたまえ。そして言っておくけれど本物のフェリクス様は全然陰キャじゃない。すべては王太子であることを隠すための演技だ」

  ユリアの言葉にルークが言う。

「ど、どうしてそんなことをする必要があったと言うの?」

「それはさっき俺が話しただろう」

  フェリクスがやれやれといった様子で言う。

「ルーク様の口から聞きたいのです!」

  ユリアがフェリクスに向かってきつい口調で言い放つ。ルーク本人が自ら王太子ではないと白状しているというのにユリアはまだ事実を受け入れられないようだ。ルークのことをまだルーク様と呼んでいる。

「……それはフェリクス様の命を守るためだ」

「王太子が即位を待たずに殺されるとかいう魔術士の予言ですか?」

  ユリアの言葉にルークが黙って頷く。ユリアってば一応ちゃんとさっきのフェリクスの話を聞いていたみたいね。

「俺はフェリクス様の従妹にあたる侯爵家の息子だ。身内なら秘密を守れるだろうということと魔力が高いということで王太子のフリをするのに選ばれた。魔力が高ければいざという時にフェリクス様の身を守る助けにもなれるからね。あ……もしかしたら見た目の良さも評価されたのかもしれないなぁ」

  ルークはそう言って前髪をかき上げた。自分で見た目の良さをアピールって……ルークって今まではひたすら王太子らしく振舞っていたようだけど素の彼は実は結構なお調子者なのかしら。

「……魔術師の予言なんて馬鹿らしいわ。王太子様はたしか20歳に正式な王太子として即位される決まりよね? ついこの間、王太子が20歳を迎えたからパレードをするって記事を新聞で読みましたわよ? 要するに光の魔術者に命を狙われるなんてことはなく20歳を迎えられたってことじゃない。つまり予言は外れたってことよね? 予言者の言葉なんてあてにならないもののためにわざわざ20歳まで身分を隠して暮らすなんて、王族も馬鹿げたことをされるのね」

  ユリアが嫌味ったらしく言う。すっかり意気消沈したかと思いきや、ユリアの瞳が怪しく光る。

「……まあでもつまりルーク様は本物の王太子ではないにせよ、王太子の従兄というれっきとした王族というわけですわよね?」

  どうやらユリアはまだまだ諦めてはいない様子だ。私は呆れてため息をつく。

  なんていうか……、この子のこういう切り替えが早いところとか、全然めげないところとか、良い方向に生かされれればすごい才能なのにね……。

  現国王の子には男の子が少ない。万が一のことがあれば甥であるルークに王位がまわってくる可能性はある。ユリアはそれを期待しているのだろう。これまで陰キャ扱いしてきたフェリクスを今からどうにかできるとはさすがに思っていないようだ。

  だけどこの子にまたうろちょろされるのは正直困るのよね。

「私とルーク様は先ほど言ったとおり愛し合っているの。わかるわよね? お姉さま」

「ちょ、え、ま、待ってくれ、ユリア! それは誤解で!」

  ルークが慌てている。誤解というかあなたユリアに媚薬を盛られていたのよ? 眠っていたルークは事の顛末がまるで理解できていない様子だ。

  ユリアが問答無用という風に魔道具のボイスレコーダーで先ほどの音声を再生する。

『ルーク様、それは……私のことを愛しているということですか?  も、もちろん愛しているよ、ユリア、はぁはぁ』

  色っぽいルークの吐息までしっかり録音されている。

「ひいぃぃぃぃっっ! な、何かの間違いだ!」

  そんな言葉を発した記憶が全くないルークが悲鳴を上げる。……媚薬の効果ってほんとすごいわね。ルークの声色になんだかちょっとドキドキしちゃう。

  ユリアはルークの様子に構わず続ける。

「こんな証拠があるのにまさかあれは嘘だったなんておっしゃらないわよね? ルーク様? おまけにこうして私と2人で寝台に寝ているなんてこれはもう……。ああ、何があったかなんて私の口からは恥ずかしくて言えませんわ」

「いや、だから、これは何かの間違い……!」

「これで私は国王の義理の姪ということよね? 素晴らしいわぁ」

  滝のような汗をかいているルークが気の毒になってきた。……そろそろユリアの暴走に止めを刺さないとね。

「……それはどうかしらね? ユリアちゃん」

  私はニヤリと笑って言った。
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