変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi

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王太子(主人公 エマ視点)

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  宿屋の部屋のドアを蹴破る勢いで中に入ると、そこにはベッドに2人で横たわるユリアとルーク様がいた。

「キャッ……お、お姉様とフェリクス、急になんですか? 失礼です!」

  ユリアは薄い衣服一枚で布団にくるまっている。フェリクスがユリアから目をそらしてくるりと後ろを向いた。

「ここで何をしているのかしら? ユリアちゃん?」

  私は呆れて尋ねた。

「何……ってそんなことをお聞きになるなんて野暮ですわお姉さま。見たらわかるでしょう? 私とルーク様は……」

  ユリアが頬を赤らめて言葉を詰まらせる。私は煽るように言う。

「あーらまたお約束の媚薬ですのユリアちゃん? それはもしかすると元婚約者のアルバート様から教授された方法かしら? お二人して卑猥なご趣味をお持ちなのかもしれないわね?」

  私はクスクスと笑いながら言った。

「なっ、ななななんですって? お姉さま、失礼な物言いもいい加減にしていただきたいわ? 私は先ほど王太子のルーク様からプロポーズを受けましたの。つまり私は今や王太子の婚約者ということよ? 口のきき方にはお気をつけになったほうがいいんじゃないかしら?」

  ユリアは顔を真っ赤にして怒っている。

「プロポーズねえ……」

  私の疑いの眼差しを受けたユリアが持っていた魔道具のボイルレコーダーを再生するとルーク様の声が流れてきた。

『君を愛している、ユリア。どうか俺と結婚してくれ』

  音声を再生した後でユリアがにまぁーっと笑う。

「……というわけなんですの。ごめんなさぁいお姉さま。ルーク様とあなたは学園公認のカップルでしたのにねぇ」

「そのような事実は一切ありませんけど」

  上機嫌なユリアを白けた目で見ながら私は言う。

「あーら強がってらっしゃるの? 一度ならず二度までも恋人を妹に奪われた姉というのは哀れですわねぇ。まあせいぜい虚勢くらい張らないとやってられませんわよねぇ」

  ユリアの言葉に私ははぁとため息をつく。

「ですから、アルバートもルーク様も私の恋人などであったことは一度たりともないのですが」

「……まぁそういうことにしておいてあげてもよろしくってよ、お姉さま。なにせ私は今や王太子の婚約者、しかも……あぁ、こんなことを口に出すのは正直ためらわれますけれども……大事なことですから仕方ないですわね。見ての通り、いわゆる『婚前交渉』済みですの。まぁこのご状況を見ていただいたら聡明なお姉さまならおわかりですわよね? だって私たち、心の底から愛し合ってしまったんだもの」

「あら素敵ね。ご結婚、心からお祝いいたしますわ」

  私はそう言ってドレスの裾を軽くつまみおじぎをした。私の言葉をくやしまぎれの祝福と思ったのかユリアは気持ちよさそうな勝利の笑みを浮かべている。……さーて茶番はこのくらいにしてそろそろ真実を教えてあげようかしらね。

  私は手を頬に当てて小首を傾げて言った。

「でもねユリアちゃん? 聡明なあなたがどうもいくつか思い違いをしていることがあるようね?」

「あらなんですの?」

  ユリアが余裕の表情で尋ねる。

「……残念ですけれど、あなたの傍らで眠っているその方、そもそも王太子様ではないんですのよ?」

  にっこり笑って私はそう告げた。

「そうですわよね? 王太子様?」

  そう言って私はフェリクスを見た。

「……その通りだ」

「本物の王太子はこちらにいるフェリクスなの」

  私の言葉に続いてフェリクスが王太子の証である紋章入りの指輪見せる。大きな赤いルビーが埋め込まれた見るからに高価そうな品だ。

  ユリアは私の発言を全く信じていない様子でさもおかしそうに笑みを浮かべている。

「そんなことあるわけないじゃありませんか。私を騙そうとそんな指輪まで用意して……。お姉さまってほんと面白いことばかりなさるのねぇ」

  ユリアに喋らせている間に、私は眠っているルークの腕に魔道具の注射針をぶっ刺す。

「ぐっ?!」

  朦朧としながらも痛みを感じたのかルークが声をあげる。

「なっ、なんなんですの?!」

「ルークに媚薬が盛られた可能性があるからこれから血液を調べるのよ」

「あ、あなた、王太子にそんなことをしていいと思っているの?!」

  ユリアの言葉にフェリクスがはぁとため息をつく。

「だから王太子はこの俺だと……」

   あら、フェリクスったら急に一人称が「俺」になってるわ。もう陰キャの優等生を演じなくてよくなったせいかしら?

  指輪だけではユリアを信じ込ませることができないと思ったのかフェリクスはメガネを外すと聞いたことのない呪文を唱え始めた。すると指先から光魔法が飛び出し、傍にあったチェアを軽く吹き飛ばした。

「光魔法が使えるのは王家の血を引いた者と光魔法の保持者だけ。今まではこの魔道具であるメガネで魔力を封じていたが、もうその必要はないな」

  さすがのユリアもだんだんと状況を理解し始めた様子だ。

「そして君がこの宿屋にいることをすぐに突き止められたのも俺が王太子であることの証明だ。王太子は光の魔術者の位置を王家に伝わる魔道具を使用することで知ることができるからな」

  ルークが私をフェンリルの森で助けてくれた時、そんなことを言っていた。今思うともしかしたらあの時も私の位置を突き止めたのはフェリクスだったのかもしれない。

「あ、あなたが王太子だとして、どうしてそんな入れ替わりをする必要があるんですの?」

「それは予言された俺の死を避けるためだ」

「予言?」

「ああ。俺が生まれたその年、王国専属の術師から予言が授けられた。20歳の即位を待たずに俺は光の魔術士に殺されるとな」

「なっ……?」

「その予言を恐れた俺の父ある現国王は俺の身分を隠して守ることを思いついた。それで用意されたのがここにいる影武者のルークだ」

  フェリクスはそう言って気を失ってベッドの上で眠りこんでいるルークを見る。

「どうしても信じないのなら、そこに寝ているルークを起こして聞いてみるがいい」

  ユリアがルークを揺さぶって起こす。
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