変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

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宿屋にて(メイソン家次女 ユリア視点)

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  ふふ、これでいいわ。

  私とルーク様は2人で城下町の宿屋の一室にいる。そして私は今、ルーク様と自分用の紅茶を用意している。宿屋の部屋に合ったブルーに金縁のカップを並べて茶葉に湯を注ぐ。そして隠し味にこれを……なんてね。ふふ。

  こっそりと私は持ってきていた媚薬をたっぷりとルーク様のカップにたらす。昨日の夜こっそり抽出した濃いめのやつ。これだけ仕込んだらルーク様ったらきっとひとたまりもないわ。あの綺麗な王太子様が乱れる姿、想像するとちょっと興奮しちゃうわね。うふっ。油断したらよだれが出ちゃう。……ってもう嫌だわユリアったらはしたないわよ?

「ルーク様、紅茶をどうぞ」

  そう言って私はトレイにのせて運んできたティーカップをカフェテーブルの上に置いた。

「あ、ああ、ありがとう」

  窓際のカフェテーブルにルーク様と向かい合って座る。

  あの後、私はいなくなった私を探し回っているルーク様を見つけて、魔獣に襲われたという作り話をした。一時避難という名目でこの部屋に連れ込んで今に至るというわけだ。

「せっかく紅茶を淹れてくれたところを申し訳ないが……こんなことをしていないで早く学園へ戻った方がいいんじゃないかな?」

  ルーク様は落ち着かない様子でそう言った。はぁ。その言葉に私は心の中でため息をつく。そして苛立ちながら思う。……そんなことはいいから早く私が淹れた紅茶を飲めっつーの。

「ですが……本当にとても凶悪で恐ろしい魔獣だったのです」

  苛立ちをおさえて、私は怯えた表情を作ると言った。

「だったらなおさら学園へ戻って助けを……」

「その間にあの恐ろしい魔獣に見つかってしまったらひとたまりもありませんわ!」

  叫ぶように言って私は体を震わせて見せた。ルーク様が黙る。現状に納得していないながらも、かと言ってこうして怯えている私を引きずっていく決心もつかないように困惑した表情を浮かべていた。

「なら君はここに残って……俺だけでも学園へ助けを呼びに」

「嫌!」

  私はそう言って立ち上がろうとするルーク様に抱きついた。はぁー。……もういーからとにかく早く紅茶飲めってばぁ。

「置いて行かないでルーク様! あなたが行ってしまったら私は心細くて……!」

「ゆ、ユリア、その……お、落ち着いて!」

  私に抱きつかれたルーク様が慌てているのが声の響きからわかる。……この私が抱きついてあげているのだからもう少し嬉しそうにしたらどうなの?

  ……まぁ面倒だけどとりあえずはかよわい女を演じないとね? 

「私を一人にしないでください」

  私は怯えた声色を作って言った。
  
「ならやはり一緒に行こう? 大丈夫、途中で魔獣に襲われたとしても俺が絶対に君を守るよ」

  はーぁ。本当にしつこいなこの王太子様。とりあえず紅茶飲んでくれたらそれでいいんだってばぁ。私は観念したように言った。

「わかりました、それなら……ルーク様のおっしゃる通りにします」

  私の言葉にルーク様はほっとした表情を浮かべた。

  ……そんなに私と宿屋に避難が気に入らないってわけ? 私を襲える絶好のチャンスと思って喜んだっていいくらいなのに。なんだかんだやっぱりエマのほうが気になってるってこと? 本当にどいつもこいつも女の趣味が悪すぎるわ。

  ……まあ別にいいわ。とにかく私の計画通りに動いてくれればそれで。

「その前に、ちょっとだけ紅茶を飲んで休みませんか? 飲み終わったらすぐに出発しますから」

  そう言って私はルーク様を促した。

「ああ、わかった」

  そう言うとルーク様は再び椅子に腰を下ろし冷めかけの紅茶を一気に飲み干した。その様子を見届けた私は心の中でほくそ笑む。……ふふっ、これで万事うまくいったわね。





  ……それから数分ほどでルーク様の呼吸が荒くなり頬が赤らんできた。媚薬が効いてきたみたいね。

「ユリア……」

  熱のこもった眼差しで私を見つめるルーク様に私は心の中でガッツポーズを作る。ああ、これよこれ……! そうよ! 私をもっと求めなさい!

「どうされました? ルーク様?」

  白々しく私は尋ねる。

「いや……その……なんだかよくわからないんだが……とにかく無性に今、君に触れたくてたまらない……っ」

「ル、ルーク様?」

  私は戸惑いの表情でルーク様を見つめた。なーんて……いやまぁもちろん私が仕組んだことですけれども。

「ユリア、君が欲しい……っ」

  私に手をのばすルーク様をたくみにしりぞける。

「お、お待ちください……ルーク様!」

「駄目だ、待てない!」

  困惑と恥じらいの表情を浮かべて私は尋ねた。

「ルーク様はエマお姉さまのことが好きだったのではないのですか?」

「何を言うんだ、俺は出会った時から君を……ああ、ユリア。もう君しか見えない」

  ふふっ。あー快感だわぁ。ルーク様の呼吸がさらに荒くなる。

「はぁっ……駄目だ、君がほしい、ユリア。君に触れたくてたまらない……俺は……っ」

  媚薬が完璧に効いているみたいね。ふふっ、王太子なんて言ってもチョロいわねぇ。

「ルーク様、それは……私のことを愛しているということですか?」

「も、もちろん愛しているよ、ユリア」

「なら私を王太子妃にしてくださるということ?」

「あ、ああ……そ、そうだな……そうしよう」

  その言葉を私はあらかじめ用意していた魔道具のボイスレコーダーにしっかりと録音した。これでよし。完璧だわ。

  ルーク様は意識が朦朧としてきている様子で足元をフラつかせている。

  あら……ちょっと媚薬の量が多すぎたかしら? この調子じゃルーク様のアレがちゃんと機能してくれるかちょっと心配ですわね。まあいいわ。とりあえず言質はとったわけですし。この媚薬の効き方じゃ、たぶんルーク様の記憶もあやしいのだから既遂ってことにしてしまえばいいもの。

「きゃ、ルーク様……!」

  私は朦朧としているルーク様の手を引いてベッドへ押し倒させた。がっつくようにルーク様が私の首筋にキスをしてくる。

  チョロい。チョロすぎるわ。ふふ、……私ってばまーた勝っちゃった。

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