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危機一髪
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「これって……結構まずいんじゃ……?」
間髪入れずフェンリルから攻撃が飛んでくる。すんでのところで避けた。
けれど間を置かずに二度目の攻撃が飛んでくる。
(駄目……避けきれない……!)
フェンリルの攻撃力は恐ろしいほど高い。一発でも攻撃を食らえばひとたまりもないだろう。
覚悟をしたその瞬間、
「エマ!!!!」
名前を呼ばれると同時に体がふわりと浮く感覚があった。
目を開けるとルーク様が私を抱きかかえていた。
「ルーク様?!」
「じっとしていろ」
ルーク様は巧みにフェンリルの攻撃をかわしていく。
「どうしてここに……」
「話は後だ、隠れるぞ」
ルーク様は私を抱きかかえたまま岩の陰に隠れると結界石を置いた。
「これは貴重な結界石ではないですか?!」
「もしものために持ってきた」
結界石にはシールドと同様の効果がある。この範囲内にいれば私たちの気配はフェンリルには察知されない。まだ辺りを探しているフェンリルが諦めるまでここで隠れていたほうが良さそうだ。
周囲の様子を伺いながら私はおずおずと尋ねた。
「……どうして私の居場所が分かったのですか?」
「今まで言わずにいたが……、王家の血を継ぐ者は光魔法の保持者と波動を共有しているんだ。君の居場所を知りたいと願えば俺は君の居場所を把握できるようになっている」
「そんな力があったのですね……」
「そんなことよりもなぜ一人で来た?! あれほど待てと言っただろう?!」
ルーク様が険しい口調で言う。こんな風に怒りをあらわにするルーク様を見るのは初めてだった。
「すみません……。どうしてもフェリクスを早く助けたくて」
私の言葉にルーク様は深いため息をついた。
「どうしてそう無茶ばかりするんだ? フェリクスを心配する君の気持ちはよくわかる。だけどどうかもう少し俺のことを信頼してくれないか?」
「そんな……! ルーク様のことはいつだって頼りにしています」
「ならどうしてこんな無茶をする?」
「それは……」
言葉に詰まる。思わず私はルーク様を見上げた。
岩の陰が狭いせいで体が密着している。ルーク様の顔が驚くほど近い。月明かりに照らされたルーク様の横顔はすごく綺麗で思わず見とれしまう。
こんな時なのになんだかドキドキしてしまって落ち着かない。
ルーク様がちらと私を見る。目が合って見つめ合う形になってしまった。
「君にもしものことがあったらと思うと俺は……」
ルーク様の声の調子がなんだかいつもと違う。心臓のドキドキが止まらなくて私は思わずうつむいた。ルーク様がゆっくりと私の髪に手を伸ばした。
「あ、その! えーっと、そろそろフェンリルの気配がなくなったのではないでしょうか?!」
わざと空気をぶち壊すように私は言った。
私の発言にルーク様もはっと我に返った様子だ。
「そ、そうだな、早く森を出よう」
ルーク様の頬が心なしか赤くなっているように見える。なんだかお互いに気まずいのはなぜなのでしょう。
(い、今の空気はなんだったのかしら……? な、なんだかこうちょっと色っぽいような……)
いけないいけない、こんなことを考えている場合じゃなかった、と私は頭を振ってモヤモヤを吹き飛ばした。
・
・
・
私とルーク様は岩陰から顔を出し周囲の様子を伺った。フェンリルの姿はない。
ほっと息をついてそうっと岩陰から出る。
森の出口はもうすぐだ。様と並んで歩く。
(ルーク様が私を見つめる目ってなんていうか……)
先ほど見つめ合っていたときのルーク様の表情を思い出してしまう。
「さあエマ、森を抜けるぞ。君が無事で本当に良かった」
ルーク様の言葉に私は笑顔で頷いた。
間髪入れずフェンリルから攻撃が飛んでくる。すんでのところで避けた。
けれど間を置かずに二度目の攻撃が飛んでくる。
(駄目……避けきれない……!)
フェンリルの攻撃力は恐ろしいほど高い。一発でも攻撃を食らえばひとたまりもないだろう。
覚悟をしたその瞬間、
「エマ!!!!」
名前を呼ばれると同時に体がふわりと浮く感覚があった。
目を開けるとルーク様が私を抱きかかえていた。
「ルーク様?!」
「じっとしていろ」
ルーク様は巧みにフェンリルの攻撃をかわしていく。
「どうしてここに……」
「話は後だ、隠れるぞ」
ルーク様は私を抱きかかえたまま岩の陰に隠れると結界石を置いた。
「これは貴重な結界石ではないですか?!」
「もしものために持ってきた」
結界石にはシールドと同様の効果がある。この範囲内にいれば私たちの気配はフェンリルには察知されない。まだ辺りを探しているフェンリルが諦めるまでここで隠れていたほうが良さそうだ。
周囲の様子を伺いながら私はおずおずと尋ねた。
「……どうして私の居場所が分かったのですか?」
「今まで言わずにいたが……、王家の血を継ぐ者は光魔法の保持者と波動を共有しているんだ。君の居場所を知りたいと願えば俺は君の居場所を把握できるようになっている」
「そんな力があったのですね……」
「そんなことよりもなぜ一人で来た?! あれほど待てと言っただろう?!」
ルーク様が険しい口調で言う。こんな風に怒りをあらわにするルーク様を見るのは初めてだった。
「すみません……。どうしてもフェリクスを早く助けたくて」
私の言葉にルーク様は深いため息をついた。
「どうしてそう無茶ばかりするんだ? フェリクスを心配する君の気持ちはよくわかる。だけどどうかもう少し俺のことを信頼してくれないか?」
「そんな……! ルーク様のことはいつだって頼りにしています」
「ならどうしてこんな無茶をする?」
「それは……」
言葉に詰まる。思わず私はルーク様を見上げた。
岩の陰が狭いせいで体が密着している。ルーク様の顔が驚くほど近い。月明かりに照らされたルーク様の横顔はすごく綺麗で思わず見とれしまう。
こんな時なのになんだかドキドキしてしまって落ち着かない。
ルーク様がちらと私を見る。目が合って見つめ合う形になってしまった。
「君にもしものことがあったらと思うと俺は……」
ルーク様の声の調子がなんだかいつもと違う。心臓のドキドキが止まらなくて私は思わずうつむいた。ルーク様がゆっくりと私の髪に手を伸ばした。
「あ、その! えーっと、そろそろフェンリルの気配がなくなったのではないでしょうか?!」
わざと空気をぶち壊すように私は言った。
私の発言にルーク様もはっと我に返った様子だ。
「そ、そうだな、早く森を出よう」
ルーク様の頬が心なしか赤くなっているように見える。なんだかお互いに気まずいのはなぜなのでしょう。
(い、今の空気はなんだったのかしら……? な、なんだかこうちょっと色っぽいような……)
いけないいけない、こんなことを考えている場合じゃなかった、と私は頭を振ってモヤモヤを吹き飛ばした。
・
・
・
私とルーク様は岩陰から顔を出し周囲の様子を伺った。フェンリルの姿はない。
ほっと息をついてそうっと岩陰から出る。
森の出口はもうすぐだ。様と並んで歩く。
(ルーク様が私を見つめる目ってなんていうか……)
先ほど見つめ合っていたときのルーク様の表情を思い出してしまう。
「さあエマ、森を抜けるぞ。君が無事で本当に良かった」
ルーク様の言葉に私は笑顔で頷いた。
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