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セシルの正体
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今日も疲れましたわ……!
セシルは部屋のベッドに倒れこむ。
最近のエンジェル・リーフはとても繁盛している。とてもありがたいことだけれどなにせ人手が足りない。
レジに長蛇の列ができるとレジ打ちに呼び出されるから緊張するしよけいに疲れてしまう。
だけど自分がつくった菓子をどんな人たちがどんな顔をして買っていくのかが見られるのはとても嬉しいとセシルは思う。
今日はしろくまちゃんクッキーを大事そうに買っていってくれた人がいたな……とセシルは思い出す。淡い金髪でメガネをかけた年は20歳くらいの男の人だった。
男の人……以前のセシルなら男性を目の前にしただけで血の気が引いて固まってしまっていたものだが、エンジェル・リーフで働き始めてから男性恐怖症も少し改善に向かっているような気がする。
今までの自分にとって男の人と言えば実の父親であるダニエルその人だった。いつも不機嫌そうにしていて自分の言うことを聞かなければあたりかまわず当たり散らし時には暴力も振るう。
セシルの幼い記憶のなかの優しく美しい母も時に父から殴られて涙を流していた。
現在は再婚相手である10も年下の後妻ティアナとはそこそこ上手くやっているようだが気性の荒さは変わらない。
(男の人ってみんなお父様やエルネストのように威張っていて気性が荒いのかと思っていたけれどそうじゃない人もたくさんいるのよね……)
エンジェル・リーフで働きはじめてからメインパティシエのドミニクや店の常連のお客さんなど色んな男性と接するうちにセシルの心境も随分変化してきた。
まだまだ普通に会話できるまでにはいたらないけれど、なんとか頑張っていこうと心に決めたセシルだった。
・
・
・
「……どうやら彼女、ただの平民の娘ではないようです」
その頃、王宮のレオンの部屋ではアランがセシルの身辺調査結果の報告書を読み上げていた。
「彼女は侯爵家の娘、セシル・デュラン。侯爵ドミニク・デュランの長女です」
「な……デュラン家と言えば由緒ある貴族の名門ではないか。そのような家の娘が一体なぜ街の洋菓子屋で働いている?」
「それが詳しい事情は不明ですが、どうやら離縁が原因のようです」
「り、離縁?!」
レオンが驚きのあまり悲鳴のような声を上げる。
「あぁ、ご安心ください、レオン様。離縁と言いましてもどうやら戸籍上は籍は入れられていなかったようです。本人同志は婚姻関係を結んだものと思いこんでいたようですが両家の婚姻の条件が整わないままなあなあになっていたとこの報告書にはあります」
「そ、そうか、なんだかよくわからないが……それは……その……」
レオンが言いづらそうに口をもごもごさせる。
「殿下が心配していらっしゃるようなこともなさそうですよ。元婚約者のエルネスト・ブリュネル殿とセシル様は寝室を共にしたことは一度もないと周囲の者が証言しています」
「お、お前の報告書はずいぶんと詳細だな……」
自分が気にしていたことをさらりと言い当てられレオンは赤面した。
「しかしあれほど美しい令嬢を迎えておいて寝室を共にしないなど……その、ゴホン……信じられないというか、その……ゴホン」
「それがまさにあの鉄仮面令嬢がブリュネル家を追い出された理由のようです。彼女、どうやら相当な男性恐怖症で有名だったそうですよ」
「男性恐怖症だと?」
レオンが問い返す。
セシルは部屋のベッドに倒れこむ。
最近のエンジェル・リーフはとても繁盛している。とてもありがたいことだけれどなにせ人手が足りない。
レジに長蛇の列ができるとレジ打ちに呼び出されるから緊張するしよけいに疲れてしまう。
だけど自分がつくった菓子をどんな人たちがどんな顔をして買っていくのかが見られるのはとても嬉しいとセシルは思う。
今日はしろくまちゃんクッキーを大事そうに買っていってくれた人がいたな……とセシルは思い出す。淡い金髪でメガネをかけた年は20歳くらいの男の人だった。
男の人……以前のセシルなら男性を目の前にしただけで血の気が引いて固まってしまっていたものだが、エンジェル・リーフで働き始めてから男性恐怖症も少し改善に向かっているような気がする。
今までの自分にとって男の人と言えば実の父親であるダニエルその人だった。いつも不機嫌そうにしていて自分の言うことを聞かなければあたりかまわず当たり散らし時には暴力も振るう。
セシルの幼い記憶のなかの優しく美しい母も時に父から殴られて涙を流していた。
現在は再婚相手である10も年下の後妻ティアナとはそこそこ上手くやっているようだが気性の荒さは変わらない。
(男の人ってみんなお父様やエルネストのように威張っていて気性が荒いのかと思っていたけれどそうじゃない人もたくさんいるのよね……)
エンジェル・リーフで働きはじめてからメインパティシエのドミニクや店の常連のお客さんなど色んな男性と接するうちにセシルの心境も随分変化してきた。
まだまだ普通に会話できるまでにはいたらないけれど、なんとか頑張っていこうと心に決めたセシルだった。
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「……どうやら彼女、ただの平民の娘ではないようです」
その頃、王宮のレオンの部屋ではアランがセシルの身辺調査結果の報告書を読み上げていた。
「彼女は侯爵家の娘、セシル・デュラン。侯爵ドミニク・デュランの長女です」
「な……デュラン家と言えば由緒ある貴族の名門ではないか。そのような家の娘が一体なぜ街の洋菓子屋で働いている?」
「それが詳しい事情は不明ですが、どうやら離縁が原因のようです」
「り、離縁?!」
レオンが驚きのあまり悲鳴のような声を上げる。
「あぁ、ご安心ください、レオン様。離縁と言いましてもどうやら戸籍上は籍は入れられていなかったようです。本人同志は婚姻関係を結んだものと思いこんでいたようですが両家の婚姻の条件が整わないままなあなあになっていたとこの報告書にはあります」
「そ、そうか、なんだかよくわからないが……それは……その……」
レオンが言いづらそうに口をもごもごさせる。
「殿下が心配していらっしゃるようなこともなさそうですよ。元婚約者のエルネスト・ブリュネル殿とセシル様は寝室を共にしたことは一度もないと周囲の者が証言しています」
「お、お前の報告書はずいぶんと詳細だな……」
自分が気にしていたことをさらりと言い当てられレオンは赤面した。
「しかしあれほど美しい令嬢を迎えておいて寝室を共にしないなど……その、ゴホン……信じられないというか、その……ゴホン」
「それがまさにあの鉄仮面令嬢がブリュネル家を追い出された理由のようです。彼女、どうやら相当な男性恐怖症で有名だったそうですよ」
「男性恐怖症だと?」
レオンが問い返す。
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