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Episode ― Ⅱ ― 【満月の下の決闘】
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死すべき運命の者たちの島――……
氷島本土から北東約4㎞ほど離れたところにある。
島の大きさは約1500㎢のほぼ円形状の島。
島の中央には中世からある宮殿、グラズヘイム宮殿がある。
かつては豪勢で煌びやかな宮殿だったのだろうが、今は誰も手入れをする者がいないため、壁面には罅が入り、草木が生い茂り宮殿は荒れ放題になっていた。
グラズヘイム宮殿に入ると、宮殿内は外見とは違い所々欠損している所があるが、それなりにきれいな状態だ。
クロがエントランスホールを見回していると、
「久しぶりだな、クロ」
銀髪に純白のロングコートを身に纏い、刀を携えた顔立ちがクロと瓜二つな青年がクロを出迎えた。
銀髪の青年を見るや否や、クロは凄まじい剣幕で懐から双銃を取り出すと、一息で青年が立っている踊り場まで跳び上がり、斬りかかる。
銀髪の青年はそれを漆黒の刃で易々と受け止める。
「どうしたんだ怖い顔をして、何か気に障ることでもあったのか?」
青年はなんの気もなしにクロに訪ねる。
「ふざけるなッ!! なぜだ……、なぜ母さんを殺した! 答えろヴァイス!!」
ヴァイスと呼ばれた青年は呆れた顔でクロを見ると、
「随分とくだらない質問だな」
その答えにクロは一瞬呆然とする。
「なんだと……!?」
そして、ヴァイスは口元をニヤリと歪ませ答える。
「悪いが、忘れた」
「貴様!!」
渾身の力を込めてクロは、刀ごとヴァイスを後ろに吹き飛ばす。
そして、相手に向かって引き金を引く。
ヴァイスは跳躍して銃弾を躱し、踊り場から二階へと飛び移る。
クロもヴァイスを追って踊り場から二階へと飛び移り、着地すると同時にヴァイスに斬りかかる。
ヴァイスはそれを刀で迎え撃つ。
交差する二つの剣戟。
クロは渾身の一撃を炸裂させる。
しかし、ヴァイスはクロの放った一撃を今度は一歩も引かずに刀で弾く。
クロは二度、三度と攻めたてるが、総て刀で弾かれる。
そして、攻めていた筈のクロが後退し始める。
繰り出されるヴァイスの剣戟をクロは防ぐことしかできない。
やがて、ヴァイスの攻撃に耐えきれずクロは片膝をつく。
そこへ、ヴァイスは止めとばかりに漆黒の刃を断頭台の刃の如く振り下ろす。
その一撃をクロは双銃を交差させて受け止める。
「どうした? 先程までの威勢はどこへいった?」
ヴァイスは涼し気な顔でクロに問う。
「くっ……」
力を緩めればヴァイスの刃がクロの頭を両断する。
ヴァイスの刀を食い止めるクロ。
その額には汗が滲み出て、呼吸は乱れている。
対して、ヴァイスは汗どころか呼吸さえ乱れてはいない。
「拍子抜けだな、お前の力がこの程度とはな」
そう言うと、ヴァイスはクロに肉薄し、回し蹴りを放つ。
それをクロは咄嗟に両腕で防ぐが、後ろへ大きく蹴り飛ばされる。
そして、扉を破壊し、背中を激しく壁に打ち付ける。
「がはッ――!?」
背中を激しく打ち付けたことにより、クロの呼吸が一瞬止まる。
崩れ落ちそうになる身体を膝に力を込めてなんとか支える。
そして、顔を上げたとき。
眼前にはヴァイスが放った剣先が迫っていた。
「――ッ!?」
それをクロは咄嗟に横に転がり躱し、すぐさま立ち上がり双銃を構える。
「ハァ――、ハァ――、ッ!?」
左肩に焼けるような激しい痛みが走る。
見るとコートには血が滲んでいた。
「この刀“冥月”は特別製でな。魔を持って魔を断ち切る刀だ。悪魔は勿論のこと俺たち半端者も斬られればただ痛いだけじゃ済まない筈だ」
そう言うと、ヴァイスは再び刀を構え直し、一息でクロに肉薄して斬りかかる。
クロもそれを双銃で迎え撃つが、数回打ち合っただけで弾き飛ばされ、窓を突き破り、土埃を立てて中庭へと激突する。
ヴァイスはクロの後を追って中庭に降りる。
すると、土埃の中から弾丸のごとき勢いでクロが飛び出し双銃を振りかぶる。
ヴァイスはそれを白き疾風となりて迎え撃つ。
ガキンという鈍い音を立てて互いの武器が激しく激突する。
キリキリと悲鳴を上げる互いの武器を間にして、二人は暫し睨み合うが、刹那の隙をつき双銃を跳ね上げる。
そして、無防備になったクロの腹部に刀を突き刺した。
片方は荒い息を吐き睨み、もう一方は静かに視線を交えた。
漆黒の瞳は激しい憎悪と苦痛で歪み、もう一方の真紅の瞳は相手をただ冷たく見下ろしていた。
「愚かな弟よ。力がなければ何も守れない。大切なものも……自分の身すらも!!」
そして、勝者は敗者の腹部から容赦なく刃を引き抜く。
引き抜かれた方は、身体を跳ねさせて後ろへと倒れ込む。
クロが倒れる瞬間、ヴァイスはクロの首に掛かっていた指輪をもぎ取る。
クロは薄れゆく意識の中、指輪に手を伸ばすが、届かず後ろへと倒れる。
そして、クロの意識は消えた。
目的を果たし、血を拭い刀を鞘に納める。
そして、その場を立ち去ろうとするヴァイス。
しかし、背後から凄まじく迸る魔力を感じ、振り返る。
すると、驚いたことに倒れていたクロがゆらゆらと揺らめきながら立っていた。
その見開いた瞳は漆黒から燃えるような真紅に染まっていた。
「があぁああ――――ッ!!」
雄叫びと共にヴァイスに殴りかかるクロ。
ヴァイスはそれを両手で受けるが、力負けして後ろへと吹き飛ばされてしまう。
ヴァイスは再び刀を鞘から抜こうとする。
しかし、それをどこから現れたのか緑の襤褸を纏った男に止められる。
「ヴァイス殿、目的は果たしました。ここは一旦退きましょうぞ」
眉根を寄せてヴァイスは抜きかけた刀を収め、襤褸の男と共にその場を立ち去る。
ヴァイスと襤褸の男が立ち去った後、その場に残されたクロは糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。
ただ、その姿を満月が照らしていた。
氷島本土から北東約4㎞ほど離れたところにある。
島の大きさは約1500㎢のほぼ円形状の島。
島の中央には中世からある宮殿、グラズヘイム宮殿がある。
かつては豪勢で煌びやかな宮殿だったのだろうが、今は誰も手入れをする者がいないため、壁面には罅が入り、草木が生い茂り宮殿は荒れ放題になっていた。
グラズヘイム宮殿に入ると、宮殿内は外見とは違い所々欠損している所があるが、それなりにきれいな状態だ。
クロがエントランスホールを見回していると、
「久しぶりだな、クロ」
銀髪に純白のロングコートを身に纏い、刀を携えた顔立ちがクロと瓜二つな青年がクロを出迎えた。
銀髪の青年を見るや否や、クロは凄まじい剣幕で懐から双銃を取り出すと、一息で青年が立っている踊り場まで跳び上がり、斬りかかる。
銀髪の青年はそれを漆黒の刃で易々と受け止める。
「どうしたんだ怖い顔をして、何か気に障ることでもあったのか?」
青年はなんの気もなしにクロに訪ねる。
「ふざけるなッ!! なぜだ……、なぜ母さんを殺した! 答えろヴァイス!!」
ヴァイスと呼ばれた青年は呆れた顔でクロを見ると、
「随分とくだらない質問だな」
その答えにクロは一瞬呆然とする。
「なんだと……!?」
そして、ヴァイスは口元をニヤリと歪ませ答える。
「悪いが、忘れた」
「貴様!!」
渾身の力を込めてクロは、刀ごとヴァイスを後ろに吹き飛ばす。
そして、相手に向かって引き金を引く。
ヴァイスは跳躍して銃弾を躱し、踊り場から二階へと飛び移る。
クロもヴァイスを追って踊り場から二階へと飛び移り、着地すると同時にヴァイスに斬りかかる。
ヴァイスはそれを刀で迎え撃つ。
交差する二つの剣戟。
クロは渾身の一撃を炸裂させる。
しかし、ヴァイスはクロの放った一撃を今度は一歩も引かずに刀で弾く。
クロは二度、三度と攻めたてるが、総て刀で弾かれる。
そして、攻めていた筈のクロが後退し始める。
繰り出されるヴァイスの剣戟をクロは防ぐことしかできない。
やがて、ヴァイスの攻撃に耐えきれずクロは片膝をつく。
そこへ、ヴァイスは止めとばかりに漆黒の刃を断頭台の刃の如く振り下ろす。
その一撃をクロは双銃を交差させて受け止める。
「どうした? 先程までの威勢はどこへいった?」
ヴァイスは涼し気な顔でクロに問う。
「くっ……」
力を緩めればヴァイスの刃がクロの頭を両断する。
ヴァイスの刀を食い止めるクロ。
その額には汗が滲み出て、呼吸は乱れている。
対して、ヴァイスは汗どころか呼吸さえ乱れてはいない。
「拍子抜けだな、お前の力がこの程度とはな」
そう言うと、ヴァイスはクロに肉薄し、回し蹴りを放つ。
それをクロは咄嗟に両腕で防ぐが、後ろへ大きく蹴り飛ばされる。
そして、扉を破壊し、背中を激しく壁に打ち付ける。
「がはッ――!?」
背中を激しく打ち付けたことにより、クロの呼吸が一瞬止まる。
崩れ落ちそうになる身体を膝に力を込めてなんとか支える。
そして、顔を上げたとき。
眼前にはヴァイスが放った剣先が迫っていた。
「――ッ!?」
それをクロは咄嗟に横に転がり躱し、すぐさま立ち上がり双銃を構える。
「ハァ――、ハァ――、ッ!?」
左肩に焼けるような激しい痛みが走る。
見るとコートには血が滲んでいた。
「この刀“冥月”は特別製でな。魔を持って魔を断ち切る刀だ。悪魔は勿論のこと俺たち半端者も斬られればただ痛いだけじゃ済まない筈だ」
そう言うと、ヴァイスは再び刀を構え直し、一息でクロに肉薄して斬りかかる。
クロもそれを双銃で迎え撃つが、数回打ち合っただけで弾き飛ばされ、窓を突き破り、土埃を立てて中庭へと激突する。
ヴァイスはクロの後を追って中庭に降りる。
すると、土埃の中から弾丸のごとき勢いでクロが飛び出し双銃を振りかぶる。
ヴァイスはそれを白き疾風となりて迎え撃つ。
ガキンという鈍い音を立てて互いの武器が激しく激突する。
キリキリと悲鳴を上げる互いの武器を間にして、二人は暫し睨み合うが、刹那の隙をつき双銃を跳ね上げる。
そして、無防備になったクロの腹部に刀を突き刺した。
片方は荒い息を吐き睨み、もう一方は静かに視線を交えた。
漆黒の瞳は激しい憎悪と苦痛で歪み、もう一方の真紅の瞳は相手をただ冷たく見下ろしていた。
「愚かな弟よ。力がなければ何も守れない。大切なものも……自分の身すらも!!」
そして、勝者は敗者の腹部から容赦なく刃を引き抜く。
引き抜かれた方は、身体を跳ねさせて後ろへと倒れ込む。
クロが倒れる瞬間、ヴァイスはクロの首に掛かっていた指輪をもぎ取る。
クロは薄れゆく意識の中、指輪に手を伸ばすが、届かず後ろへと倒れる。
そして、クロの意識は消えた。
目的を果たし、血を拭い刀を鞘に納める。
そして、その場を立ち去ろうとするヴァイス。
しかし、背後から凄まじく迸る魔力を感じ、振り返る。
すると、驚いたことに倒れていたクロがゆらゆらと揺らめきながら立っていた。
その見開いた瞳は漆黒から燃えるような真紅に染まっていた。
「があぁああ――――ッ!!」
雄叫びと共にヴァイスに殴りかかるクロ。
ヴァイスはそれを両手で受けるが、力負けして後ろへと吹き飛ばされてしまう。
ヴァイスは再び刀を鞘から抜こうとする。
しかし、それをどこから現れたのか緑の襤褸を纏った男に止められる。
「ヴァイス殿、目的は果たしました。ここは一旦退きましょうぞ」
眉根を寄せてヴァイスは抜きかけた刀を収め、襤褸の男と共にその場を立ち去る。
ヴァイスと襤褸の男が立ち去った後、その場に残されたクロは糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。
ただ、その姿を満月が照らしていた。
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