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⑩ 喧嘩、ならいいのだけども……

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 ――あれから一週間が経過していた。

「………………」

 私はお昼休みに、一人屋上の隅っこで膝を抱え座っていた。ここ最近ずっとこんな感じである。挨拶しても返事は返ってこないし、昼食は一人で食べているし、登下校は別々。
 勿論、クラスでは孤立していた。友達はいるのだが、グループが違うのと晴子達から明らかな仲間外れをされているせいか、誰も相手にしてくれない。
 いや……二人、相手をしてくれている人がいる。

「大丈夫? 音無さん?」
「あ……回夜さん……」

 いつの間にいたのか。視線を上げると予想通り回夜さんが微笑をたたえて此方を見ていた。

「散歩していたら貴女がいたから、驚いたわ。最近グループの子たちと一緒にいないわよね?」
「あ……ま、まあ……」

 ぎこちなく笑う。この人は、先の夜の公園同様突いて欲しくない所を突いてくる。悪意ある発言ならば無視や反発もするのだが、まったくそのそぶりが見られないのがどうにも扱いに困る。
 と、

「もしかしたら、光輝が原因?」
「っ……!」

 図星だったので思わず黙る。やはり……この人は突いて欲しくない所を突いてくる。

「ごめんなさいね。ちょっと意地悪だったかしら」
「………………」

 事実その通りなので返答に困る。

「さしずめ、光輝が貴女と会話したところを見られて、光輝に好意を寄せている柳川晴子さんが怒ってしまい、グループの子達がそれに逆らえない……そんな所かしら?」
「そこまで、分かるんですか?」

 思わず敬語で喋ってしまう。回夜さんはクスッと笑って一言。

「言ったでしょう? 私、人間観察が趣味なのよ」
「………………」

 と、返答に困る発言を放つ。それに私はどう返事をしたものか困り果て、苦笑して見つめ返すしか出来ない。光輝君が彼女を〝魔女〟と呼んだのが、少し分かった気分になる。

「お節介かもしれないけれど、私から一つアドバイスさせて貰うと――」

 回夜さんの口から放たれた言葉に私はわずかに目を見開く。

「まず、光輝に近づかないことね。あいつは自分が原因だとか全然分かっていないから」

 私には反論の言葉もなかった。実際そうだからだ。

「あいつは私を魔女と呼んでいるけど……私が魔女ならあいつは……」
「え?」
「あ、ううん。何でもないの」
 
 回夜さんは笑顔で首を左右に振る。私は何か胸騒ぎがした。

「まあ、なるようにしかならないから。じゃあね」

 そう言うと回夜さんは一つ笑って踵を返して走り去っていった。ほう、と息を吐く私。やはり、彼女は不思議で……何処か怖く、疲れる。悪い人ではないのだが……人の急所を的確に理解してくる。
 私が去っていった回夜さんに安堵していたら、



「音無」



「っ!」

 名を呼ばれ顔を上げる。と、

「こ、光輝君……!」

 今度は、先ほど忠告されたばかりの相手、回夜光輝その人が立っていた。

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