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② 私の〝絆〟達

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「ほんっと思い出したら腹立って来た! なんなの⁉ 私男運なさすぎ! 希津奈もそう思うっしょ⁉」

 私の所属する女子グループの仕切り屋、柳川晴子がそう同意を求めて来て、

「うん、男の人は見る目がなさすぎるだけだよ。晴子は可愛いもん」

 そう、晴子が求めているだろう解答を口にしてやる。案の定晴子は機嫌よく「えへへ」と笑い、

「だよね!」

 と返してくる。
 直情的な晴子の機嫌を損ねないよう、求めている答えを返してやる。処世術と言うと聞こえは悪いが、これも私にとって大事な絆を守る為に必要な行為なのだ。

「あーあ、光輝君みたいな人と付き合えたらなー」
「晴子は、光輝君が好きなの?」

 晴子の軽口に付き合う。ちなみに『光輝君』と下の名前で呼んでいるのは、親しいからではなく名前が親戚の回夜歩美さんと同じな為彼自身が『下の名前で呼んで欲しい』と自己紹介の時に言った為だ。

「ん?  うーん、好きって言うか……付き合いたいかなぁ。だってさ、カッコいいじゃん。優等生だし。それに背も高いしさ。ちょっと怖いけど、でも笑うとすっごく優しい顔になるんだよ。あんな感じの男子と付き合えたら、絶対自慢出来る!」
「ふふ、そうね」

 当たり障りなく対応する。が、内心少し苦笑する。『かっこいい彼氏と付き合いたい』のであって『好き』ではない。ある意味仕切り屋の晴子らしいと言えばらしいと思う。飽くまでも自分中心に物事を動かしたいというのが晴子の考えであり、彼氏という存在も晴子にとっては他人より優位に立つための装飾品、アクセサリーでしかないのだろう。
 ………それが良いことなのかは分からないが。

「はは……」

 愛想笑いを浮かべながら、友人に対してそんな暗い感情を抱いてしまう自分に少しばかり罪悪感が芽生える。いけないいけない、友人にこんなこと思ってはいけない。

「と、じゃあね皆。お先」
「あ、うん。じゃあね!」

 晴子が笑って手を振って来る。

「うん。じゃあね」

 おっとりと笑って手を振り返してくれるのは、ボブカットの飯塚百合いいづかゆり

「んじゃまた明日ー」

 きゃっきゃと笑って別れを言ってくれるのは、茶色に髪を染めた谷口広江たにぐちひろえ

「またねー。バイト頑張ってー」

 クスッと同じように笑って手を振り返してくれる池田千佳いけだちか
 晴子と合わせ、この四人が私の所属する女子グループだ。

「うん、それじゃ」

 私は笑い返し、自分の家への帰路に着く。
 夕焼けの中をさっきまでの喧騒とは打って変わって穏やかな雰囲気の住宅街を進んでいく。時折犬や子供、車の音が響く程度の喧騒を歩いていく自分。
 やがて自分の住んでいるアパートへとたどり着き、ドアを開ける。

「ただいま」

 すると、

「あ、お帰り」

 ドアを開けた先のリビングで椅子に座ったままこちらへ視線を向ける母と、

「おかえりなさい。お邪魔しているよ」

 にっこりと、笑い返す男性の姿があった。

「あ………どうも」

 見知った男性の姿に、とりあえず会釈する。
 この男性は、今母と付き合っている木田雄二きだゆうじさん。父と離婚した後女手一つで育ててくれた母が、最近毎日嬉しそうに話してくれる相手だ。

『お母さん、漸くまた幸せになれるの。希津奈にも祝福して欲しいな?』

 そう言って楽し気に紹介してきたお相手だ。

「やあ、希津奈ちゃん。どうだい? 三人で晩御飯でも食べに行かないかい?」

 木田さんの提案。一瞬体が強張るが、すぐに困惑した表情で申し訳ない顔を作る。

「すみません。今日これからバイトが入っていて……」
「ええ? 休んじゃいなさいよぉ」

 不服そうな母の声。ごめんなさい。

「バイトそう簡単に休んだら、更新とか色々問題が出てくるから……」

 曖昧に笑って自室へと向かい、すぐに鞄を置いて衣服を着替える。

「じゃあせめて晩御飯は何か買ってくるね、希津奈ちゃん?」
「あ……はい……ありがとうございます。行ってきます!」

  急ぎ着替えを終えてドアを開けると、椅子に座ったまま笑顔の木田さんが声をかけてくれる。それに自分でも分かる程ぎこちない笑顔を向け……しどろもどろな反応を返し、私は逃げるようにアパートを後にする。

「はあ……」

 自分でもどうしてか分からないが……溜息を吐く。
 木田さんは……いい人だ。母を大事にしてくれるだろう。母も、木田さんをいたく気に入っている。何より、三人で、仲良くしたいと母が言っているのだ。そうするのが自然だし、そうしたい。
 だけど。

『希津奈ちゃんは可愛いね』
「………………」

 嫌な予感と想像をしてしまい、無理矢理心を無にしてバイト先へと急ぐ。
 うん。きっといいことなのだ。だから私は心から祝福しないといけない。
 私はそう結論付け、バイト先へと向かった。
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