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いや本当・・・えらいことになりました ※軽いですがざまぁ注意

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 人生は分からないものだ。

 まさか漫画みたく死んで異世界に転生するなんて思わなかったし、おまけにその転生先が知っている乙女ゲームの中とも思わなかった。

 でもさ……でもさ。


「ラルフ王子! 並びにレナ様、リーゼロット様、ナレオ様、御入場!」


 こんなん、アリ?

 兵士の声と共に重厚な扉が開かれて、謁見の間へと進む俺っち達。

 玉座までに敷かれた赤いカーペット。左右に控えるはこの国の重臣やその令嬢令息達。

 ……その令息の中に本来のゲーム通りの道筋なら仲間になるはずだった眼鏡の魔術師やら戦士やらの姿も見えて、罪悪感が半端ない。


(すまねぇ……すまねぇ……! 俺っちがちょっと原作とは違うことをしたせいで、本来ならお前等がこっち側の人間だったはずなのに……!)


 ぐぉおおおおおおお! 罪悪感と胃痛がめっちゃきつい! 英雄扱いされるのは本来ならあいつらのはずなのに!

 でもそんなことは言ってられない。だって王様の前で、式典の際中だもんね! 帰ってベッドの上でゴロンゴロンしながら謝罪するよ⁉ 


「ラルフ。此度の戦、よくぞ戦い抜いた」
「仲間達の助けあってこそです」


 頭を下げる王子。ああ、もうすでに式典が始まっている⁉

 声を上げてしまいそうになる口を必死に閉じる。う、うう……つらい! なんかもう色々申し訳なさとか精神的ダメージが強すぎて叫びそうになっちゃう! でも耐える! 男の子だもん⁉(ヤケクソ)


「リーゼロット、レナ。二人もよく王子を支えてくれた」
「身に余るお言葉です、陛下」
「きょ、恐縮です……!」


 優雅にドレスの裾をつまんで一礼するリーゼロット。対してレナは緊張の色を隠せず慌てて首を垂れる。


「そして、ナレオ。逆賊の奸計を見抜き、よくぞ王子とリーゼロット嬢を守ってくれた。更には魔王討伐にまで加勢してもらった。幾万もの感謝の言葉を申し上げる」
「い、いえ! 一国民として当然の義務を果たしたまでっ……です」


 あ、あっぶな⁉ 思わず何時もの口調で『果たしまでっすよ』と言いそうになった⁉ 

 内心冷や汗をかく俺っちを置いてけぼりに、式典は続く。粛々と王の賛辞が述べられ、それに首を垂れた俺っち達と並んだ貴族達が耳を傾ける。


「さて、魔王を討伐したそなた等には、恩賞を以って報いるのが当然と心得るが……」


 王様の言葉にぴくりと身体を振るわせ……立ち上がったのは、リーゼロット様。ホワイ?


「では……私からお願いが」


 すっと手を、レナへと向ける。何々どうかしたの???

 きょとんとする俺っちを差し置いて、リーゼロットは口を開いた。




「此方におられるレナさんと……共に戦ったラルフ王子との婚約。ついては私と殿下の婚約解消を頂きたく思います」




 ふぁ⁉


「そ、それは、どういう……⁉」


 ざわめく謁見の間。俺っちも愕然として目が泳いじゃう!

 この状況の中、毅然とした態度を取り続けているのはリーゼロットとレナ、そしてラルフ王子のみ。


「言葉通りの意味です。この場にて私とラルフ王子の婚約を解消。そして此方の聖女レナさんとラルフ王子の婚約を結んで頂きたくお願い致しております」

(な、なんで⁉)


 え⁉ だって闇堕ちする位ラルフ王子のこと好きだったじゃん! 愛されたかったんじゃないの???

 ほげーっと馬鹿みたいに口を開けてリーゼロットを見ていると、ふと此方の視線に気付いたのかリーゼロットと目が合いニッコリ微笑まれる。いや、微笑んでいる場合でなく。


「私は……両親から愛されませんでした。愛されようとしたけど……愛されることはありませんでした」


 と、突然何を?


「人も、思いも、繋ぎ止めようとしても……出来ないのです。貴族同士の利害関係で婚姻を結び……私を産んで義理を果たしたとして、見てくれることなど一度としてなかった両親のように」


 すいません、リーゼロット様。今この場に貴女の両親居るんですけど。

 ちらりと横目でリーゼロットの両親を見れば、蒼白の表情でリーゼロットを見つめていた。が、リーゼロットが両親に目を合わせることは無かった。


「私は貴族と王家の利害関係から、同じようにラルフ王子と婚約を結びました。ですが、それではいけないと……この度の経験から学んだのです。
 愛されようとするのは良い。でも、相手や他人のことを考えないでただ〝愛されよう〟とするのは違う。それは……それは、ただの暴力でしかない、と」


 ふっと笑うと、リーゼロットは視線をレナへと移す。


「友に旅をした聖女レナさんは、どのような相手にも慈しむ心を持っています。
 私よりもこの国を背負って立つラルフ王子の隣には、彼女のような存在こそ必要と……はばかりながらもそう思い至り……婚約の解消及び変更を申し上げた次第にございます」


 再び一礼するリーゼロット。そ、そんなこと考えていたの⁉ げ、原作とだいぶ違うんだけど⁉ いや、そもそも俺っちリーゼロットもついでに幸せにしてあげたいなーっと思って動いていたからこれってどうなの⁉ い、いやでも本人同士がいいなら、いいのかな……?


(レナとラルフ王子はすでに相談されていた……んだよな?)

「ラルフ、それにレナ。二人はそれでいいのか?」

「「はい、陛下」」


 王様の言葉に、即座に言葉を返す二人。


「自分は、婚約者でありながら……リーゼロットのことを何も知りませんでした。知ろうともしなかった。挙句、婚約者のはずの彼女を自分の手が及ぶ範囲に居ながらも……危険にさらしてしまった。

 このような自分が、リーゼロットの婚約者には相応しくない……と。そう思い、彼女の提案を受け入れる次第です」


 ラルフ王子の言葉にうーむと唸る王様。此処でレナにも確認をするのは……野暮だよねえ。


「……分かった。三人ともに異論ないのであれば、その通りにしよう」
「へ、陛下……!」


 慌ててなんか陛下の傍に居る貴族のおっさんが言い繕うとするが、王様はこれを片手を挙げて制止する。


「魔王討伐を成し遂げた者達の願いだ。それを断るとあっては民に示しがつかん。
 それに、魔王討伐を成し遂げた聖女と王子が婚約となれば、国民も喜んで迎え入れるであろう」


 ま、まあそうだろうけども……いいの? そんな一人で決めちゃって……って王様だからいいのか。段々訳分かんなくなってきた。


「では、三人の願い……聞き届けるものとする!」


 王様の言葉が部屋に反響する。それにリーゼロット、レナ、ラルフ王子の三人は「ははっ!」と再び頭を下げたのでした。


(お、俺っち何も聞いてないんですけど……?)


 置いてけぼりの中、粛々とその後も謁見は進んでいったのでした。




   ◇   ◇   ◇




 ポカーンとしている間に謁見が終わっちまいました。


(な、何が起こったってんだ……?)


 お城の中の庭園の隅でぼへーっと空を眺める俺っち。お、おかしい。リーゼロットと王子の仲を今一度取り持つ予定だったのに。


「驚かせたかしら?」


 そこに、背後からリーゼロットが声をかけて来た。その後ろにはラルフ王子とレナも一緒だ。


「え、あ……まあ」


 曖昧な返事をしてしまう。だってだって、こんなん予想外だもん! うう、ラルフ王子のこと闇堕ちするくらい好きだったのに……。


「そ、その……婚約のことは、いいのかなー……とは、やっぱり思っちゃいますけど……」


 はは、と曖昧に笑う。上手く言えなくてごめんね⁉ でもね⁉ 予想外過ぎてストレートにしか言えないんだわ⁉


「良いのよ。前々から殿下とは話し合って決めていたことだから」


 髪をかき上げるリーゼロット。それにラルフ王子が横に立って穏やかな表情で城を見上げる。


「魔王の復活と襲来によって、この国は今ガタガタだ。リーゼロットとの婚約も、貴族と王族との利害関係でのものだから、そのままにしておくと一部の貴族だけ優遇してしまい、内政がごたついたままになってしまう。それは避けたい」


 そう言うと互いに顔を見合わせ、苦笑し合うリーゼロットとラルフ王子。

 う、うーむ……婚約をこんな風に話し合えるのは……大人になったというべきか、汚くなったと嘆くべきか。


「レナさんは貴族出身ではないので、そういった貴族のパワーバランスを抑えることが出来ます。また、聖女として国民の信頼も厚い。
 今一番ベストなのは、彼女と殿下が婚姻を果たし、この国を内政を立て直し、貴族間の力関係を今一度均衡きんこうに戻すことかと」
「それは、そうかもしれないっすけど……」


 リーゼロットの徹底的なまでの合理主義的な考え。でも、でもね?


「レナっちとかは、それでいいんっすか?」


 恐る恐るの問いに、レナはニッコリと頷く。


「はい。それに貴族との利害関係とか政治的な面だけでなく、私は殿下のことが……ね?」


 あ、はい。そっすか。い、いやでもそれなら、リーゼロットも……。


「それに、私……殿下とは別に、好きな人が出来ましたので」

「ふぁ⁉」


 え、リーゼロット様、好きな人出来たんすっか⁉


「え、え⁉ い、一体誰……⁉」


 俺っちが驚くと、何故かじーっとジト目で此方を見つめる三人。な、なんっすかその視線は⁉


「鈍すぎです、ナレオ様」
「何の為にさっき自分達がナレオに伯爵の爵位を上げたと思っているんですか」
「う、うん?」


 そういえばさっき王様から俺っちに伯爵の地位を与えるとか言ってたような??? 正直婚約破棄のことで頭がいっぱいで記憶の彼方に置いてけぼりにしてた。



「あーまったくもう! いいですわ!」


 なんか業を煮やしたリーゼロット様が俺っちの顔を両手で挟んで固定。そのまま目と目が合う。な、なんっすか⁉

 自然とリーゼロットの顔を見てしまう。頬が紅潮し、何処か緊張している様子。旅をしたから化粧などは控えめだが、そこは公爵家の令嬢。艶やかな髪と冴えわたる美貌が眼前にあり、知らず俺っちまで緊張してしまう。

 そして――




「ナレオ。わ、私と……つ、付き合いなさい!」
「ふぁ⁉」




 本日二回目の「ふぁ⁉」頂きましたー。
 って、そうじゃない⁉(セルフツッコミ)


「な、何故に⁉」

「っ好きだからに決まっているでしょう! 気付きなさいよ、馬鹿!」


 俺っちの発言に顔を真っ赤にして怒鳴るリーゼロット。ええ⁉ ぜ、全然気づかなかったっすよ⁉


「あんなに好意ダダ漏れでしたのに……」

「ザ☆DONKAN★って感じだね」


 ひそひそと此方に聞こえるように囁き合うレナとラルフ王子。そ、そんな⁉ リーゼロットの気持ちに気付いていなかったこの二人が気付くなんて⁉ 腕を上げたな、攻略対象とヒロイン⁉


「ってそうではなくて⁉」


 あわわ。どうしよう。俺っちとリーゼロットとが⁉ そ、そんなん考えたこともないよ⁉


「王子としても、この国の行く末を思うと、結婚してもらうのは良いことです。
 救国の英雄同士が婚約し、この国に仕えてもらえればこれ以上の幸いはありません。身内の方も、何処ぞへとんずらされたんでしょう?」


 ラルフ王子。とんずらって言葉使わないで。朱に染めたの確実に俺っちだから。不敬罪でばっさり斬られてもおかしくないから。


「ま、まあっすけど……」


 しどろもどろに答える俺っち。

 い、いやね? 実家を勘当されたってのは話したと思うんっすけどね? その実家がね? 俺っちの活躍を耳にしたようでね? なんか勝手に「復讐される!」とか血迷ったらしく、財産持ってどっかにとんずらしたらしいんっすわ。

 因みにこれ俺っちの実家で働いていた執事情報。いやもう本当面倒おかけしました……。


「政治的に立場を悪用して取り入ろうとする親族もいないようだし、出来ればこのままこの国で一緒に盛り上げてほしいんだけどなあ?」


 クスッと悪戯っ子のように笑う。く、中々のタヌキに進化したな、王子!


「それでそれで? ナレオさん的には、リーゼロット様のことはどうなんです?」


 わくわくとした様子なのは、レナ。爛々とした瞳で興味深そうに訊くなよぉ!


「い、いや、その、えっと……」


 しどろもどろになる俺っち。固唾を飲んで見守るリーゼロット。わくわくと見つめるラルフ王子とレナ。

 俺っち、俺っちの答えは……答えは……!


「………………




 ちょっと暫く考えさせて下さい」




 ザ☆良い子のお返事!


「……ふむ」


 怒るか残念がるかと思ったら、意外にも冷静な様子のリーゼロット。な、何故?


「……ごめんなさい、と言わないということは、脈はあると見ていいのかしら?」
「みゃ、脈って。いや、そもそもリーゼロット様と俺っちとが、なんて考えたこともないもんで……⁉」


 しどろもどろに答える俺っち。それに肩を竦めるレナとラルフ王子。


「あーもう、チキンなんだから」
「そこはもう男らしくバシッと嫁に取ってあげるか断るかしないと」


 外野うっさい! 他人事と思って好き勝手に言って!


「でも、断らないってことはそういうことですよね。脈ありますよ、リーゼロット様!」
「ええ、そうね。まあナレオが朴念仁なのは知っていますから、これからはどんどんアタックしていきますわ」
「ワッツ⁉」


 な、なんですと⁉


「私、好きな相手を追いかけるのは得意ですわよ? ええ、それこそ闇堕ちしちゃうくらい」


 クスッと笑うリーゼロット。う、か、可愛い……けど、言っていることは可愛くない!


「良いですわ。時間はありますもの。これからどんどん猛アタックして、ナレオを落として見せますわ」


 ふふんと自信満々な様子のリーゼロット。


「え、っと………………




 オ、オ手ヤワラカニオ願イシマス……」


 俺っちはギクシャクと固い動きで頭を下げるしか出来ないのだった。




   ◇   ◇   ◇


 俺っちはナレオ。転生者のナレオ。


(いやあ……本当、悪役令嬢の為に一肌脱いだら、えらいことになりました)


fin
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