魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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3章

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その後「私がやります」と、リタが丸盆を持って厨房へと下がった。

「それで、グランのせいとは何があったんですか?」

魔王様は元天帝の左隣の椅子に掛けた。
セナが、掛けているグランを睨んでから、魔王様へと向き直った。

「こいつが、レイの名前を叫びながら街中を走るから、いよいよ天界との決戦かと街の連中が魔王城へ集まろうとしている」

これはどうやらお茶を飲んでいる場合では無いようだと、魔王様は目を閉じた。

「街の魔族ならセナが何とかしたら良いでしょう?」

「誰のせいだと思っている。もちろん3層の輩まで囃し立てられて向かっている」

セナがそう言うと、グランも面白くなさそうに目を閉じた。
元天帝は、こんな魔族でも層主が務まるのなら、何もしなくていいんじゃないかとすら思った。

お茶を淹れたリタが戻ってきて、一度5人で意見をまとめる流れとなった。

「とりあえず、魔族はどれぐらい集まっているのですか?」

「分からない。辺境の地からも集まっているようだ」

魔王様の質問にセナは答えられなかった。何せ数えられる人数を超えていた。

人間界へ行くには大穴を通って行かなければならない、天界へ向かうにもそれは同様だ。必ずこの魔王城の上空を通る。

「それならば、ある程度集まったところで対処しましょう」

別段変わった事でもないかのように、魔王様はゆったりと言って、リタの淹れたお茶を飲んだ。

「陛下、それはどう対処されるのですか?」

魔王様に4人の視線が集まった。

「お祭り騒ぎがしたいなら、別のお祭りを提供しましょう」

「どのような祭りでしょうか?」

リタは続けて魔王様に訊いた。

「武闘大会とかどうでしょう?」

「……………」

一同沈黙し、元天帝だけが「レイリンらしいね」と笑った。

「いけませんか?」

魔王様は笑われた事を不満に思い、元天帝を睨んだ。

「悪くはないけれど、みんなが自分の強さを証明したり、観戦したいわけではないと思うよ」

魔王様を除く魔族3人は呆れを隠せなかった。
だが魔王様の、他の祭りを提供するという案は悪くないとは思っていた。

ただ、内容をゆっくり考えている暇は無かった。
外からは何やら大勢の声が聞こえてきた。

「レイリン、あまり時間がないみたいだよ」

「そのようですね」

魔王様は窓の外を見てから、立ち上がった。

掛けていた元天帝とグランも立ち上がり、魔王様を先頭にぞろぞろと5人は外へ出た。

「これは、想像以上でしたね」

魔王様は「うーん」と唸りながら、空に浮いている黒い雲のような人影を見上げた。

その人影でできた黒い雲は、太陽を覆ってしまうのではないかと思えるほどだった。

「この人数で天界に攻められたら、簡単に落ちてしまうね」

元天帝はどこまでも他人事で、笑いながら言った。
だが、魔王様は今回のことは魔界のことであり、元天帝に手を出してもらおうとは思っていなかった。

「ランシュエはここに残ってください。もしかしたら貴方のことを知っていて、狙われる可能性もあります」

天界を襲うと言うのならば、元天帝もその標的になってもおかしくなかった。
魔族3人がふわりと浮かび、魔王様もそれに続こうとするが、右腕を元天帝に掴まれた。

「無理だよ。私を連れて行かないのなら、この手は離さない」

黄金色の目が魔王様をじっと見つめ、いつになく真面目に言った。
グランはそのやり取りを面白くなさそうに見つめる。

「大丈夫です。魔族のことは私たちで対処できます」

魔王様は微笑んで、元天帝の腕に左手を重ねた。

「そうですよ。貴方の出る幕じゃない」

グランは魔王様の手前、少しだけ元天帝に対して丁寧な言葉を使った。

そんなグランを、元天帝は存在していないかのように扱い、魔王様を掴んでいる手とは反対の手で魔王様の髪を掴み、耳に掛けた。

「そういう問題ではないよ。私だけ残されるのが嫌なんだ」

魔王様は気にしていないようだが、元天帝は魔族のことだからと蚊帳の外にされるのが気に入らなかった。

頑固に腕を掴む元天帝に、魔王様は微笑んで折れるのとにした。

「分かりました、ランシュエに限って何もないとは思いますが、気をつけてください」

いくら元とはいえ、その力は絶大な物だ。自分ですら全く歯が立たないのだから、心配する必要はないと魔王様は自分に言い聞かせた。

結局5人でふわりと浮かび上がり、黒い雲の方へと向かった。そして、黒い雲より少し高い位置まで上がって止まった。

セナは1層の管理人として、下手をすれば魔王様よりも人望が厚かった。

「誰がお前たちを指揮をしている?」

セナが魔力を使って響き渡る声を出した。
その声には少しの怒気が含まれている。

だが、その有象無象はお互いを見合わせて騒ぎ立てるだけで、なんと纏まりがないことか。

「本当に、ただの集まりですか?」

リタの言いたいことは何となく魔王様には理解できた。これ程までに沢山の魔族が、何の指揮もなく噂だけで集まったと言うのか?

「そうですね、誰かが扇動しているはずです」

魔王様はその群団を見渡してから、瞼をそっと閉じて感覚を研ぎ澄まし、何か考えているようだった。

その時、1人の大柄な魔族が近づいてきた。

「セナ様!魔王様と各層主が今から天界へ攻め入ると聞き、僅かながら戦力になるかと、馳せ参じました!」

その魔族の声は大きく響き、話した途端に大勢の魔族から鬨の声が上がった。

「全く、何を勝手な」

セナは髪をかき上げて、大柄な魔族を睨みつけた。
ただ元天帝を除いて、今集まっている面々だけ見れば、そのように勘違いしてもおかしくはない。

そしてセナと大柄な魔族のやり取りを、集まっている魔族全てが把握できているわけではない。

「俺たちは天界を攻め入るつもりはない。分かったらとっとと魔界へ帰れ!」

セナは先程同様に魔力で拡声させるが、その言葉を信じて魔界へ戻る輩は居なかった。

「セナの信用度はそこまで高くないようですね」

とケタケタ笑いながらグランが嘲る。
セナは「お前に言われたくない」と呟き、忌々しそうにグランを睨みつけて、今にも飛びかかりそうだった。

そんな2人を諌めることもなく、魔王様は元天帝をぼんやり見つめた。元天帝は端から魔王様しか見ていないので、視線が絡むと顔を綻ばせた。

元天帝に釣られて、魔王様も微笑み返す。

「これは、沢山の参列者になりそうですね」

魔王様は、浮いているにもかかわらず歩くような素振りを見せ、元天帝へと近づくと、彼の目線よりも少しだけ高い位置に自分の目線を持ってきた。

「いっそ、ここで挙式をして披露宴も執り行いますか?」

元天帝の顎に右手を添えて、少し上を向かせると唇を合わせた。

いち早くその姿を捉えたグランは声を上げて止めようとするが、リタに後ろから両腕を掴まれた。リタの行動にセナも加わり、セナはグランの口を塞いで、身体でグランを押し返そうとする。

魔王様からの行動に邪魔をしようものなら、元天帝に殺されるとリタは理解していたため、咄嗟に行動してしまった。

2人の唇が離れた時、元天帝は惚けた顔をしており、魔王様はおかしくなってクスクスと声を出して笑ってしまった。

その2人の姿を確認したのは、何も魔族3人だけでなく、集まっていた魔族群団の一部も含まれている。

「今日、層主達が集まったのは、私たちの挙式に参列するためですよ?」

魔王様は魔族軍団の一部に向けて妖艶に笑った。魔王様は、誰が見ても見惚れてしまう程の容姿をしている。高い鼻筋、キツすぎない目と、艶のある唇、さらりと流れる長髪、微笑む姿はまさに絶世の美男子だった。

魔族軍団も、惚けてその姿を眺めてしまう。

魔王様は「ドレスもお披露目しましょうか?」と言いながら、自身の襟を少し広げてみせると、真紅の衣は真紅の華奢なドレスへと花が咲く様に変化した。

元天帝と魔族3人は、魔王様が嘘を苦手としているのを知っている。これは本気で挙式を行うつもりだと思った。

「レイ!よく考えてください!」

グランは口を抑えている手から、頭を振って逃れて叫んだ。今にも泣きそうに魔王様に詰め寄ろうとするが、リタとセナの拘束はそれ以上は弛まなかった。

「グラン、邪魔立てしない約束ですよ」

魔王様は微笑みながら、グランに近づこうとするが、元天帝に腰を抱かれて止められた。

「レイリン、今私以外にその美しい瞳を向けることは許さないよ」

元天帝は一方的にやられたままでは済ませない。
魔王様の唇を奪い、深く長く繋がった。
その静寂な場の注目を一身に集め、聞こえないはずの湿った音までが聞こえてくるようだった。

「リタ、お前よく我慢できるな」

「慣れませんが、日常的な光景です」

セナはリタに同情した。
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