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3章
36
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「レイリンの記憶が戻ったのは、私が持っている宝珠の力が原因だろうと思う」
元天帝は宝珠の力について話を続けた。
今では天帝の証の力のことであるが、元天帝が用意した似非宝珠とは力の大きさが全く異なるものだった。
世界を創世したと伝わる宝珠の力は、四神官に分けられ、神力とは異なる次元の力だった。
そして当時の四神官とは、1人は気がつけばいなくなっており、サイは魔王様に殺され、魔王様は魔界に追放された為、一度全て元天帝に集約した。
その後、四神官の補佐をしていた者の中で優秀だった者が四神官の跡を継ぎ、1人残った元天帝はその時に天帝として天界に君臨した。
そう元天帝は魔王様に説明した。
魔王様は話を静かに聞いていた。先ほどまでのように取り乱したりはせず、元天帝を見つめていた。
「だけど、実は集約していなかった。一部別のところに隠されていたんだ」
「別のところですか?」
魔王様に思い当たる節はないようだが、元天帝にはあった。
「ここだよ」
元天帝は魔王様の首に着けているチョーカーをそっとなぞった。
「私もこの間共鳴するまで、チョーカーに宝珠の力が含まれているとは思わなかった。もしかしたら、この力は元々レイリンの力なのかもしれない」
魔王様もチョーカーに触れ、元天帝の指と重なった。
「何故そう思うのですか?」
「私ならそうする」
魔王様の眉間に皺が寄った。魔王様は宝珠の力について、持っていてもほとんど使った記憶はない。だがこの元天帝は誰よりもその力について、また天界についても詳しかった。
「レイリンが罪を負った時点で、宝珠の力を持っていたのは私だけなのだから、レイリンを裁いたのは私だ。だからレイリンは大罪を犯しても、その力と記憶が奪われただけだった」
「魔力すら無くなっていないからね」と元天帝は子供っぽく笑った。
「と言う事は、私は少なくともその時レイリンのことを愛していたと思うよ。そうでなければ気分でこんなことはしない」
魔王様も、自分の罰が甘いとは思っていた。普通なら魂が消されてもおかしくない。だが、元天帝の説明は理に適っている気がした。それでもかなり横暴だが。
「そして愛していたにも関わらず、レイリンのことを忘れた。これは規則上変えられなかった事だろう」
宝珠の力で全ての記憶と記録が消されるのだから、これは元天帝にもどうしようもない事なのだろう。魔王様はどう反応して良いのかわからなかった。
「でも当時の私が、それを仕方ないで片付けるとは思えない」
魔王様は右手を顎に添えて、自身も少し考えることにした。
神官であった自分が、宝珠の力に触れて記憶を取り戻したとしたら、常に触れている元天帝の記憶の取り戻し方とはなんだろうか?
だが、魔王様は複雑な気持ちだった。自分の行った醜い出来事を思い出して欲しくなかった。
それを魔王様の表情から元天帝は読み取った。
「レイリンだけ思い出しているなんて狡いから、例え思い出せなかったとしても全てレイリンに話してもらうよ」
元天帝は笑いながら「その心配はないけど」と続けた。
「多分、それもここだろう」
元天帝は魔王様のチョーカーに指先で触れようとして、魔王様にその腕を掴まれた。
魔王様と元天帝はお互い見つめあった。
「ちょっと待ってください。本当に私を好きだったなんて確証はありません」
「まだそんなことを言っているの?」
元天帝について魔王様はよく知っているつもりだった。
確かに元天帝が言うように、自分を好きだったのかもしれない。だけど、この執着心の塊のような存在が、もし別の人を好きだったら自分はどうしたら良いのだろうか?
「心の準備が必要です……」
蚊の鳴くような声で魔王様は言葉を漏らした。
どれだけ待ったところで結果は変わらないし、開けてみなければ中身は分からない。
それでも踏みとどまってしまう魔王様に、元天帝は1つ提案をした。
「それなら賭けをしよう」
「……賭けですか?」
元天帝は魔王様の頬を撫でてから、横髪を耳にかけた。魔王様は擽ったくて少し身体を引いた。
「私は、過去もレイリンを愛していた方に賭ける。勝ったら、1日レイリンを好きにさせてもらうよ」
元天帝は微笑んでから、魔王様の頬に触れるだけのキスをした。
「いつも好きにしている自覚がないんですか?」
「あれで好きにされていると思っているの?」
魔王様は、元天帝を相手にしていては身体がいくつあっても足りないと思った。そして、自信ありげな元天帝に少しだけ腹が立った。
「どうするの?」
「良いでしょう。私は……ランシュエが愛していなかった方に賭けます」
魔王様の表情が憂鬱そうに翳った。
自分で言って傷つくぐらいなら言わなければいいのに、と元天帝は心内で思うだけにした。
だが魔王様の表情はそこで一変し、不機嫌そうに元天帝を睨みつけてから元天帝の胸元を引き寄せて唇を奪った。
「勝ったら、貴方を一生魔王城に監禁します」
その力強い言葉に元天帝は僅かに眉を上げた。だが直ぐさま口角を上げて笑った。魔王様も釣られて笑う。
「それなら負けるのも良いかもしれない」
「おや?自信があったのではありませんか?」
「もちろん自信あるよ。でも、私が1日に対してレイリンが一生なのは公平なの?」
「勝算が低い方に賭けているのですから公平でしょう?」
元天帝は「低い方ね」と呟いた。魔王様から向けられる狂気じみた感情が嬉しくて、勝ったとしても監禁して欲しいと思ってしまった。
「分かったよ。それじゃあ、覚悟はいい?」
魔王様が小さく頷いて、元天帝は魔王様のチョーカーに指先で触れた。
僅か1秒の光だったが、元天帝は瞼を閉じて何か考えているようだった。
魔王様の心臓の鼓動が速くなる。過去の元天帝が自分を憎んでいたら、この人はどうするだろう。実際、元天帝の力があれば監禁したところで意味はない。
一抹の不安が過るが、勝負事で負けない元天帝が自信満々に言うのだからと、魔王様は心を落ち着かせた。
元天帝はゆっくりと瞼を上げて笑顔で短い言葉を言った。
「ごめんね」
元天帝は宝珠の力について話を続けた。
今では天帝の証の力のことであるが、元天帝が用意した似非宝珠とは力の大きさが全く異なるものだった。
世界を創世したと伝わる宝珠の力は、四神官に分けられ、神力とは異なる次元の力だった。
そして当時の四神官とは、1人は気がつけばいなくなっており、サイは魔王様に殺され、魔王様は魔界に追放された為、一度全て元天帝に集約した。
その後、四神官の補佐をしていた者の中で優秀だった者が四神官の跡を継ぎ、1人残った元天帝はその時に天帝として天界に君臨した。
そう元天帝は魔王様に説明した。
魔王様は話を静かに聞いていた。先ほどまでのように取り乱したりはせず、元天帝を見つめていた。
「だけど、実は集約していなかった。一部別のところに隠されていたんだ」
「別のところですか?」
魔王様に思い当たる節はないようだが、元天帝にはあった。
「ここだよ」
元天帝は魔王様の首に着けているチョーカーをそっとなぞった。
「私もこの間共鳴するまで、チョーカーに宝珠の力が含まれているとは思わなかった。もしかしたら、この力は元々レイリンの力なのかもしれない」
魔王様もチョーカーに触れ、元天帝の指と重なった。
「何故そう思うのですか?」
「私ならそうする」
魔王様の眉間に皺が寄った。魔王様は宝珠の力について、持っていてもほとんど使った記憶はない。だがこの元天帝は誰よりもその力について、また天界についても詳しかった。
「レイリンが罪を負った時点で、宝珠の力を持っていたのは私だけなのだから、レイリンを裁いたのは私だ。だからレイリンは大罪を犯しても、その力と記憶が奪われただけだった」
「魔力すら無くなっていないからね」と元天帝は子供っぽく笑った。
「と言う事は、私は少なくともその時レイリンのことを愛していたと思うよ。そうでなければ気分でこんなことはしない」
魔王様も、自分の罰が甘いとは思っていた。普通なら魂が消されてもおかしくない。だが、元天帝の説明は理に適っている気がした。それでもかなり横暴だが。
「そして愛していたにも関わらず、レイリンのことを忘れた。これは規則上変えられなかった事だろう」
宝珠の力で全ての記憶と記録が消されるのだから、これは元天帝にもどうしようもない事なのだろう。魔王様はどう反応して良いのかわからなかった。
「でも当時の私が、それを仕方ないで片付けるとは思えない」
魔王様は右手を顎に添えて、自身も少し考えることにした。
神官であった自分が、宝珠の力に触れて記憶を取り戻したとしたら、常に触れている元天帝の記憶の取り戻し方とはなんだろうか?
だが、魔王様は複雑な気持ちだった。自分の行った醜い出来事を思い出して欲しくなかった。
それを魔王様の表情から元天帝は読み取った。
「レイリンだけ思い出しているなんて狡いから、例え思い出せなかったとしても全てレイリンに話してもらうよ」
元天帝は笑いながら「その心配はないけど」と続けた。
「多分、それもここだろう」
元天帝は魔王様のチョーカーに指先で触れようとして、魔王様にその腕を掴まれた。
魔王様と元天帝はお互い見つめあった。
「ちょっと待ってください。本当に私を好きだったなんて確証はありません」
「まだそんなことを言っているの?」
元天帝について魔王様はよく知っているつもりだった。
確かに元天帝が言うように、自分を好きだったのかもしれない。だけど、この執着心の塊のような存在が、もし別の人を好きだったら自分はどうしたら良いのだろうか?
「心の準備が必要です……」
蚊の鳴くような声で魔王様は言葉を漏らした。
どれだけ待ったところで結果は変わらないし、開けてみなければ中身は分からない。
それでも踏みとどまってしまう魔王様に、元天帝は1つ提案をした。
「それなら賭けをしよう」
「……賭けですか?」
元天帝は魔王様の頬を撫でてから、横髪を耳にかけた。魔王様は擽ったくて少し身体を引いた。
「私は、過去もレイリンを愛していた方に賭ける。勝ったら、1日レイリンを好きにさせてもらうよ」
元天帝は微笑んでから、魔王様の頬に触れるだけのキスをした。
「いつも好きにしている自覚がないんですか?」
「あれで好きにされていると思っているの?」
魔王様は、元天帝を相手にしていては身体がいくつあっても足りないと思った。そして、自信ありげな元天帝に少しだけ腹が立った。
「どうするの?」
「良いでしょう。私は……ランシュエが愛していなかった方に賭けます」
魔王様の表情が憂鬱そうに翳った。
自分で言って傷つくぐらいなら言わなければいいのに、と元天帝は心内で思うだけにした。
だが魔王様の表情はそこで一変し、不機嫌そうに元天帝を睨みつけてから元天帝の胸元を引き寄せて唇を奪った。
「勝ったら、貴方を一生魔王城に監禁します」
その力強い言葉に元天帝は僅かに眉を上げた。だが直ぐさま口角を上げて笑った。魔王様も釣られて笑う。
「それなら負けるのも良いかもしれない」
「おや?自信があったのではありませんか?」
「もちろん自信あるよ。でも、私が1日に対してレイリンが一生なのは公平なの?」
「勝算が低い方に賭けているのですから公平でしょう?」
元天帝は「低い方ね」と呟いた。魔王様から向けられる狂気じみた感情が嬉しくて、勝ったとしても監禁して欲しいと思ってしまった。
「分かったよ。それじゃあ、覚悟はいい?」
魔王様が小さく頷いて、元天帝は魔王様のチョーカーに指先で触れた。
僅か1秒の光だったが、元天帝は瞼を閉じて何か考えているようだった。
魔王様の心臓の鼓動が速くなる。過去の元天帝が自分を憎んでいたら、この人はどうするだろう。実際、元天帝の力があれば監禁したところで意味はない。
一抹の不安が過るが、勝負事で負けない元天帝が自信満々に言うのだからと、魔王様は心を落ち着かせた。
元天帝はゆっくりと瞼を上げて笑顔で短い言葉を言った。
「ごめんね」
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