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2章
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いつもの魔王様なら、先ずは行動する性格だが、今回ばかりは用心深くなる必要があった。
サイが天帝に命令したら、自分は天帝と戦わなければならない。そもそも、何をしたら天帝の薬の効果が消えるのかも分からない。
ただ分かっていたのは、自分は天帝には負けるが、他の神官がいくら束になってかかってこようとも、負けることはないという事だけだった。
これもただの自信でしかないが、それでも負けないと思っていた。
ジオレライという神官の話から、天帝の座は宝珠という物に関わりが深いようだ。
宝物庫のような所か、または天帝にしか開けられないような所に存在するのだろうか?
魔王様はとにかくバレないように、天界へと入った。
この天界の結界は天帝が張っているはずだった。魔王様が素通り出来るのならば、まだ天帝は交代していない事になる。
前回の反省を活かし、赤い衣から白い神官達と同じ衣に着替える。
1つの大きな建物の陰に潜み、周りの状況を確かめた。もし天帝が交代するのならば、次席の神官がいるはずだ。1番疑わしいのはその神官だ。慎重に行動しようと心に決めた。
宝珠があるなら、おそらく天帝の宮殿だろう。
魔王様はそこまで誰にも感づかれないように移動した。
宮殿の前には、いつになく神官が大勢集まっていた。
四神官と思われる、周りよりも装飾が施された白い衣を着ている神官が3人と、それぞれの部下10人ずつ。
それに天帝とサイだった。
彼ら2人が隣に立っているだけで、悲しいような苛立ちのような感情が湧き上がってくる。
「では、どこに宝珠があるのか尋ねてもらってもよろしいですか?」
「主がこのような状態のまま宝珠を奪い、その座から降ろすなど許される行為ではない!」
「このような状況だからこそだろ?」
四神官の3人が言い争っているのが見えた。1人だけ反対しているのは、魔王様にも見覚えがあった。以前、宮殿に入る際に利用したジークサイスだ。
「ジオレライ!お前までこんなことが正しいと思っているのか?」
ジオレライに詰め寄るが、彼は少し笑顔を見せた。
「ひとまず今は、天帝としての力を人間個人に利用されるわけにはいきません。少しだけその座をお借りすると思えば良いでしょう」
そう言われてしまえばジークサイスも何も言えずに、俯くしかなかった。
「宝珠は一旦誰が預かることにしますか?」
3人は一瞬お互いを見つめ合った。
最初に声を上げたのは、魔王様も名前を知らないもう1人の神官だった。
「今は直ぐにで預かるべきだろう。私に任せてくれ」
「分かりました。ナンタラードに任せましょう」
ナンタラードと呼ばれた神官は、黒色短髪で朱色の眼をしていた。
誰か略称で呼んでくれ、名前も顔も覚えられない、と魔王様は心の中で毒を吐いた。
だが四神官というのに1人いないのは何故か、魔王様は少し気掛かりではあった。
3人のうち誰が預かるかはっきりしたところで、ジオレライがまたサイに声をかけた。
「宝珠の場所ですね。シュエイシカ様、天帝の証となる宝珠はどこにありますか?」
そう天帝に声をかけると、天帝は1人で歩き始めゆっくりと宮殿の中へと入っていった。
それをゾロゾロと大勢で追う神官に紛れて、魔王様も宮殿の中へ入っていく。
広い廊下を大勢が歩いて行き、行き止まりで天帝は止まった。この壁の向こうに用があると言いたげだった。魔王様は確認したくて、少しだけ前の方に出た。
「主の力で何かが隠れているのでしょう」
ジオレライはサイに再度頼むことになった。
サイが「開けてください」と天帝に頼むと、天帝の掌に黄金色の玉が浮かび上がった。そしてその玉が光ると、共鳴したかのように壁が光り、そこには下へ続く階段が現れた。
だが、共鳴したものは壁だけでなく、魔王様のつけていたチョーカーからも光が輝いてしまった。
前方の神官たちはは気づかなかったが、魔王様の周りの神官たちは当然気づいた。
魔王様も、ただの首飾り程度にしか思っていなかった為、まさか天帝の力が含まれているなんて思いもしなかった。
ざわざわと神官達が魔王様から離れて行き、その騒ぎに前方の四神官の3人、天帝、サイも気づいて振り返った。
「魔王?!」
彼らの中の数人が声を上げながら剣を抜き、周りにいた神官達も同じように剣を抜いた。
「どうして動ける?」
サイは叫ぶと忌々しそうに、すぐにでも斬りかかりそうだった。それを手で制しながらジークサイスも叫んだ。
「貴殿とは関わりがないはずだ!」
叫んだ途端、2人の間の道を開けるように神官が避けた。
「ここは私が処理する。ナンタラードとジオレライは主達を地下へ」
そう言うと、4人は地下へ降りて行ってしまった。
魔王様は何故来たかと言われると、どう答えていいのか分からなかった。魔王様と天帝の関係を話すのか?そんな馬鹿な話を今するべきではない。
「天帝の世代交代に興味があって付いてきただけです」
これぐらいしか理由は思い浮かばなかった。魔王様は眉尻を下げて答えた。
「それで、主の不調のタイミングを狙って天界を侵略しに来たのか。下衆め!」
ジークサイスの顔に怒りが浮かび、構えていた剣を前に出して魔王様に突進してきた。
これは話し合いは無理だと、魔王様は諦めた。
右手で髪を耳にかけ、その手で拳を握った。
サイが天帝に命令したら、自分は天帝と戦わなければならない。そもそも、何をしたら天帝の薬の効果が消えるのかも分からない。
ただ分かっていたのは、自分は天帝には負けるが、他の神官がいくら束になってかかってこようとも、負けることはないという事だけだった。
これもただの自信でしかないが、それでも負けないと思っていた。
ジオレライという神官の話から、天帝の座は宝珠という物に関わりが深いようだ。
宝物庫のような所か、または天帝にしか開けられないような所に存在するのだろうか?
魔王様はとにかくバレないように、天界へと入った。
この天界の結界は天帝が張っているはずだった。魔王様が素通り出来るのならば、まだ天帝は交代していない事になる。
前回の反省を活かし、赤い衣から白い神官達と同じ衣に着替える。
1つの大きな建物の陰に潜み、周りの状況を確かめた。もし天帝が交代するのならば、次席の神官がいるはずだ。1番疑わしいのはその神官だ。慎重に行動しようと心に決めた。
宝珠があるなら、おそらく天帝の宮殿だろう。
魔王様はそこまで誰にも感づかれないように移動した。
宮殿の前には、いつになく神官が大勢集まっていた。
四神官と思われる、周りよりも装飾が施された白い衣を着ている神官が3人と、それぞれの部下10人ずつ。
それに天帝とサイだった。
彼ら2人が隣に立っているだけで、悲しいような苛立ちのような感情が湧き上がってくる。
「では、どこに宝珠があるのか尋ねてもらってもよろしいですか?」
「主がこのような状態のまま宝珠を奪い、その座から降ろすなど許される行為ではない!」
「このような状況だからこそだろ?」
四神官の3人が言い争っているのが見えた。1人だけ反対しているのは、魔王様にも見覚えがあった。以前、宮殿に入る際に利用したジークサイスだ。
「ジオレライ!お前までこんなことが正しいと思っているのか?」
ジオレライに詰め寄るが、彼は少し笑顔を見せた。
「ひとまず今は、天帝としての力を人間個人に利用されるわけにはいきません。少しだけその座をお借りすると思えば良いでしょう」
そう言われてしまえばジークサイスも何も言えずに、俯くしかなかった。
「宝珠は一旦誰が預かることにしますか?」
3人は一瞬お互いを見つめ合った。
最初に声を上げたのは、魔王様も名前を知らないもう1人の神官だった。
「今は直ぐにで預かるべきだろう。私に任せてくれ」
「分かりました。ナンタラードに任せましょう」
ナンタラードと呼ばれた神官は、黒色短髪で朱色の眼をしていた。
誰か略称で呼んでくれ、名前も顔も覚えられない、と魔王様は心の中で毒を吐いた。
だが四神官というのに1人いないのは何故か、魔王様は少し気掛かりではあった。
3人のうち誰が預かるかはっきりしたところで、ジオレライがまたサイに声をかけた。
「宝珠の場所ですね。シュエイシカ様、天帝の証となる宝珠はどこにありますか?」
そう天帝に声をかけると、天帝は1人で歩き始めゆっくりと宮殿の中へと入っていった。
それをゾロゾロと大勢で追う神官に紛れて、魔王様も宮殿の中へ入っていく。
広い廊下を大勢が歩いて行き、行き止まりで天帝は止まった。この壁の向こうに用があると言いたげだった。魔王様は確認したくて、少しだけ前の方に出た。
「主の力で何かが隠れているのでしょう」
ジオレライはサイに再度頼むことになった。
サイが「開けてください」と天帝に頼むと、天帝の掌に黄金色の玉が浮かび上がった。そしてその玉が光ると、共鳴したかのように壁が光り、そこには下へ続く階段が現れた。
だが、共鳴したものは壁だけでなく、魔王様のつけていたチョーカーからも光が輝いてしまった。
前方の神官たちはは気づかなかったが、魔王様の周りの神官たちは当然気づいた。
魔王様も、ただの首飾り程度にしか思っていなかった為、まさか天帝の力が含まれているなんて思いもしなかった。
ざわざわと神官達が魔王様から離れて行き、その騒ぎに前方の四神官の3人、天帝、サイも気づいて振り返った。
「魔王?!」
彼らの中の数人が声を上げながら剣を抜き、周りにいた神官達も同じように剣を抜いた。
「どうして動ける?」
サイは叫ぶと忌々しそうに、すぐにでも斬りかかりそうだった。それを手で制しながらジークサイスも叫んだ。
「貴殿とは関わりがないはずだ!」
叫んだ途端、2人の間の道を開けるように神官が避けた。
「ここは私が処理する。ナンタラードとジオレライは主達を地下へ」
そう言うと、4人は地下へ降りて行ってしまった。
魔王様は何故来たかと言われると、どう答えていいのか分からなかった。魔王様と天帝の関係を話すのか?そんな馬鹿な話を今するべきではない。
「天帝の世代交代に興味があって付いてきただけです」
これぐらいしか理由は思い浮かばなかった。魔王様は眉尻を下げて答えた。
「それで、主の不調のタイミングを狙って天界を侵略しに来たのか。下衆め!」
ジークサイスの顔に怒りが浮かび、構えていた剣を前に出して魔王様に突進してきた。
これは話し合いは無理だと、魔王様は諦めた。
右手で髪を耳にかけ、その手で拳を握った。
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