26 / 64
2章
20
しおりを挟む
「今はそう呼ばないでください」
いつの間にか影と共に現れた天帝に、魔王様は眉を寄せて苦言を呈した。仲が良いと知られてはまた厄介なことになる。
だが、ここにいる人たちのどれだけが、天帝の素顔を見たことあるのだろうか?
「大丈夫だよ、魔王様」
それでも呼び方を変えて、笑顔で天帝は魔王様に近づいてきた。
「貴方は?今、どこから現れましたか?魔族の同志ですか?」
警戒心を隠すことなく、反天界軍のリーダーであるサイは剣を抜いた。その挙動に、両団体の間に緊張の糸が張った。
「私は……」
天帝はどう言ったらいいのか逡巡し、口を開いた。
「魔王様の良いお友達」
張っていた糸がプツンと切れた音がした。
魔王様を黄玉が見つめ、柔らかい声が響くと、天帝の周りの雰囲気が暖かいものとなり、周りも毒気が抜けてしまったのだ。
「ね?」とでも言いたげに、天帝は魔王様の顔を覗き込んだ
魔王様もこれには少し照れてしまい、咳き込んで誤魔化した。
「何か用事がありましたか?」
このタイミングで現れるのだから、何か理由があると魔王様は思った。
「何だか楽しそうだと思って」
天帝は人間の一団を見て言うが、そんな理由なはずがあるかと魔王様は疑う目線を向けた。
だが、天帝は話すつもりが無いようなので、放っておくことしか魔王様にはできない。
そうしているうちに、反天界軍と狂信者集団の熱は戻ってきていた。
「天雷による被害を受けて、それでも天界を盲信している連中と、最早話すことなどない!」
「あれ程までの力を見て、何故感銘を受けないのか!天界が必要だと思ったから我々に裁きの雷が降り注いだのだ!」
この双方の意見に関して、魔王様は自分も無関係ではなく頭を悩ませ、要らぬ質問を投げかけてしまった。
「反天界軍の最終目的は何ですか?」
「人間界への不干渉です!」
それならもう達成できたのでは無いかと、当事者なので知っている。
「では魔族が人間界を襲って来る時に、助けは要らないというのか?」
「人間が対処したらいい!」
魔族に襲われる心配をしている者が、何故魔王を目の前に威勢を張れるのかと魔王様は思ったが、人間全てがそうでは無いのだから仕方がない。
「だったら、やはりこの問題は魔族も関係してくる!魔王はどう考えているのか?」
何としてでも魔王様を巻き込みたいらしい。2つのグループのリーダーが、魔王様を見つめ、それが周りに伝播していく。
「私は魔族全てを従えているわけではありません。魔族が人を襲う事を止めはしても、行動を縛るような事は極力したくありません」
魔族は誰かの言う事を聞く連中ではない。むしろ、魔王様が特別な方だ。
リタなら痺れを切らして、全てを吹っ飛ばして魔王城から排除しているところだろう。
天帝はどうでもよさそうに、魔王様をただ見ていた。頭の中は本当に何も考えずに、魔王様の髪を綺麗だと思いながら本数でも数えているのだろう。
「レイリン、そろそろ2人きりになりたい」
そっと耳元で囁くこの男のせいで、こうなっているんだと魔王様は睨みつけた。
だが、騒ぎの収まらない魔王城にもっとややこしい存在が介入してしまった。
「まさか、こんなところにおいでだとは……」
その人達は魔王城の扉を開けて、1人が先頭を歩き、後ろに10人程を引き連れて入って来た。
服装からしても神官だった。
何故魔王城で勢揃いしなければならないのかと、魔王様の頭痛はまた一段階強くなった。
天帝狂信者集団は目を見張り、道を開けて跪き、反天界軍も同じように驚いていたが、1歩も動かずに神官を睨みつけていた。
神官達は、天帝の目の前まで来ると狂信者集団のように跪いた。それを見て、人間達は全員目が飛び出る程に驚いた。魔王様の良い友達が天帝だとは思わなかったのだろう。
「不躾ながら、主は何故このような場所におられるのですか?」
先頭を歩いていた金髪碧眼の神官が、天帝に訪ねるが、天帝は至って何でもないことのように答えた。
「私が来たいから来ている」
その表情には何も浮かんでいない。何故邪魔をするのかと言いたげだ。
「先ほど四神官による評決を採り、後は主に一任されました」
何かの裁判でもしていたのか、それでも天帝の表情は動かず、ゆっくりと1度瞬きをして魔王様を見た。
何のことが理解できていない魔王様に説明するかのように、天帝は至って冷静に口を開いた。
「私の解任要求だね?」
「はい」
今回の荒ぶる天帝の雷は、流石に天界的にも処罰が必要な程だったのだろう。だが、まさか天帝に解任要求が出されていたとは、しかもそれを放置してここにいるとは、彼が理解できない存在である事を魔王様は思い出した。
「ランシュエ?どういうことですか?」
「言葉の通り」
それでも笑顔で魔王様を見る天帝に、大したことではないのかと錯覚してしまう。だが、そんな事はない。
「神官としての力を奪われたら、貴方の……」
「大丈夫だよ。誰が、今の私に逆らえるの?」
不敵な笑みを浮かべた時、その場の空気が凍りついた。確かに彼は天帝であり、一任という事は彼の勅裁によって決まるという事だった。
それはあまりにも暴君じゃないか?と魔王様は少しだけ呆れてしまった。
その時、光る剣筋が魔王様に向かって走ってきた。
魔王様は咄嗟に右手を握って剣筋に向かって拳を叩きつけた。
「一体何故このタイミングで私が狙われるのですか?!」
剣を抜いたのは、サイ・ヒストラーニと名乗った反天界軍のリーダーだった。
いつの間にか影と共に現れた天帝に、魔王様は眉を寄せて苦言を呈した。仲が良いと知られてはまた厄介なことになる。
だが、ここにいる人たちのどれだけが、天帝の素顔を見たことあるのだろうか?
「大丈夫だよ、魔王様」
それでも呼び方を変えて、笑顔で天帝は魔王様に近づいてきた。
「貴方は?今、どこから現れましたか?魔族の同志ですか?」
警戒心を隠すことなく、反天界軍のリーダーであるサイは剣を抜いた。その挙動に、両団体の間に緊張の糸が張った。
「私は……」
天帝はどう言ったらいいのか逡巡し、口を開いた。
「魔王様の良いお友達」
張っていた糸がプツンと切れた音がした。
魔王様を黄玉が見つめ、柔らかい声が響くと、天帝の周りの雰囲気が暖かいものとなり、周りも毒気が抜けてしまったのだ。
「ね?」とでも言いたげに、天帝は魔王様の顔を覗き込んだ
魔王様もこれには少し照れてしまい、咳き込んで誤魔化した。
「何か用事がありましたか?」
このタイミングで現れるのだから、何か理由があると魔王様は思った。
「何だか楽しそうだと思って」
天帝は人間の一団を見て言うが、そんな理由なはずがあるかと魔王様は疑う目線を向けた。
だが、天帝は話すつもりが無いようなので、放っておくことしか魔王様にはできない。
そうしているうちに、反天界軍と狂信者集団の熱は戻ってきていた。
「天雷による被害を受けて、それでも天界を盲信している連中と、最早話すことなどない!」
「あれ程までの力を見て、何故感銘を受けないのか!天界が必要だと思ったから我々に裁きの雷が降り注いだのだ!」
この双方の意見に関して、魔王様は自分も無関係ではなく頭を悩ませ、要らぬ質問を投げかけてしまった。
「反天界軍の最終目的は何ですか?」
「人間界への不干渉です!」
それならもう達成できたのでは無いかと、当事者なので知っている。
「では魔族が人間界を襲って来る時に、助けは要らないというのか?」
「人間が対処したらいい!」
魔族に襲われる心配をしている者が、何故魔王を目の前に威勢を張れるのかと魔王様は思ったが、人間全てがそうでは無いのだから仕方がない。
「だったら、やはりこの問題は魔族も関係してくる!魔王はどう考えているのか?」
何としてでも魔王様を巻き込みたいらしい。2つのグループのリーダーが、魔王様を見つめ、それが周りに伝播していく。
「私は魔族全てを従えているわけではありません。魔族が人を襲う事を止めはしても、行動を縛るような事は極力したくありません」
魔族は誰かの言う事を聞く連中ではない。むしろ、魔王様が特別な方だ。
リタなら痺れを切らして、全てを吹っ飛ばして魔王城から排除しているところだろう。
天帝はどうでもよさそうに、魔王様をただ見ていた。頭の中は本当に何も考えずに、魔王様の髪を綺麗だと思いながら本数でも数えているのだろう。
「レイリン、そろそろ2人きりになりたい」
そっと耳元で囁くこの男のせいで、こうなっているんだと魔王様は睨みつけた。
だが、騒ぎの収まらない魔王城にもっとややこしい存在が介入してしまった。
「まさか、こんなところにおいでだとは……」
その人達は魔王城の扉を開けて、1人が先頭を歩き、後ろに10人程を引き連れて入って来た。
服装からしても神官だった。
何故魔王城で勢揃いしなければならないのかと、魔王様の頭痛はまた一段階強くなった。
天帝狂信者集団は目を見張り、道を開けて跪き、反天界軍も同じように驚いていたが、1歩も動かずに神官を睨みつけていた。
神官達は、天帝の目の前まで来ると狂信者集団のように跪いた。それを見て、人間達は全員目が飛び出る程に驚いた。魔王様の良い友達が天帝だとは思わなかったのだろう。
「不躾ながら、主は何故このような場所におられるのですか?」
先頭を歩いていた金髪碧眼の神官が、天帝に訪ねるが、天帝は至って何でもないことのように答えた。
「私が来たいから来ている」
その表情には何も浮かんでいない。何故邪魔をするのかと言いたげだ。
「先ほど四神官による評決を採り、後は主に一任されました」
何かの裁判でもしていたのか、それでも天帝の表情は動かず、ゆっくりと1度瞬きをして魔王様を見た。
何のことが理解できていない魔王様に説明するかのように、天帝は至って冷静に口を開いた。
「私の解任要求だね?」
「はい」
今回の荒ぶる天帝の雷は、流石に天界的にも処罰が必要な程だったのだろう。だが、まさか天帝に解任要求が出されていたとは、しかもそれを放置してここにいるとは、彼が理解できない存在である事を魔王様は思い出した。
「ランシュエ?どういうことですか?」
「言葉の通り」
それでも笑顔で魔王様を見る天帝に、大したことではないのかと錯覚してしまう。だが、そんな事はない。
「神官としての力を奪われたら、貴方の……」
「大丈夫だよ。誰が、今の私に逆らえるの?」
不敵な笑みを浮かべた時、その場の空気が凍りついた。確かに彼は天帝であり、一任という事は彼の勅裁によって決まるという事だった。
それはあまりにも暴君じゃないか?と魔王様は少しだけ呆れてしまった。
その時、光る剣筋が魔王様に向かって走ってきた。
魔王様は咄嗟に右手を握って剣筋に向かって拳を叩きつけた。
「一体何故このタイミングで私が狙われるのですか?!」
剣を抜いたのは、サイ・ヒストラーニと名乗った反天界軍のリーダーだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。
幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。
人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。
彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。
しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。
命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。
一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。
拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。
王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる