魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

文字の大きさ
上 下
25 / 64
2章

19

しおりを挟む
翌日昼過ぎに魔王様が目を覚ました時には、天帝の姿はどこにもなかった。
自分の身も整えられており、ただ僅かな目眩と頭痛がしたぐらいで他には何もなかった。

上半身を起こし、呆けた頭を起こそうと昨日の話を思い出そうとした。

「西方都市でしたか……」

天帝狂信者集団の本拠地があるとされている場所を思い出した。
魔王様がゆっくりベッドから立ち上がったところで、ノックの音がする。

返事をすると、リタが扉を開けて入ってきた。

「陛下、おはようございます。お食事はいかがなさいますか」

「……今は結構です」

逡巡したが、やはり気分が乗らなかった。
そんな魔王様を不安そうに見つめるリタだったが、昨日の天帝との事で、訊くのは野暮であると思い止めておいた。

「それより、昨日の話を聞いてください」

魔王様は昨日聞いた、天帝狂信者集団と反天界軍の話、西方都市に近日中に行くつもりである事を話した。

リタは特に驚いた様子を見せなかった。

「今日ではないのですか?」

いつもの魔王様ならすぐにでも向かうとリタは思っていた。

「今日は……湯浴みをしてから、寝ます」

起きたばかりだが、昨日のこともありもう少し休息が必要だった。

「分かりました。用意します」

リタはそれだけ答えると、すぐに湯の支度に取りかかった。魔王様はその後ろをゆっくりと着いて行った。





翌日、魔王様は昨日の話通りに西方都市へ赴こうとしていたが、思わぬ訪問者が訪れた。

「陛下、また人間たちが来ていますが、どう対処致しますか?」

「それは挑戦者ですか?」

「言い方を変えればそうとも捉えられます」

ため息をつきながら、魔王様は向かうことにした。
広間には30人近くの人間がおり、どうやら言い争いをしていた。

「ここは酒場でしたか?」

と魔王様は皮肉を言うことしかできなかった。

「魔王は天帝と組んでいるんだ!お前たちはそんなことも知らずにここへ来ていたのか?」

剣を携え、鎧を着た若い青年が声を荒らげていた。組んでいるとはどう言うことか、魔王様には話の筋が一切見えていなかった。

「何を言っている⁉︎天帝と魔王は犬猿の仲!そんな事実、今更言うまでもない!」

魔王様はこの人に見覚えがあった。天帝狂信者集団の1人で、最近何度も魔王城に訪れている。その人が言い争うということは、若い青年は反天界軍なのだろうと、予想した。

一団は魔王様の訪れに気づいていないらしく、双方騒がしく今にも剣で斬り合いが始まるのではないかと、魔王様は少しだけ楽しそうに眺めていた。
だが、残念ながら数人は宥める人がいる為それは起こらずに終わった。

「陛下、彼らは誤解をしています。その誤解を解くよりも、ほとぼりが冷めるまで魔界へ行きませんか?」

リタは彼らが魔王様の話を素直に聞かないことを知っていた。また、この話からするとどちらも魔王様を憎んでいるようだった。

だが、ここは魔王城で主は魔王様だ。何故自分が身を引かねばならないのか、魔王様は眉を寄せ、頭を抱えた。

その時、魔王様とリタに気づいた青年が大きな声を上げた。

「私はサイ・ヒストラーニ!反天界軍のリーダーをしている者だ!貴殿の身の振り方についてお伺いしたい」

サイ・ヒストラーニと名乗った青年を魔王様は上から下まで見遣った。肩より少し長いであろう黒髪を一つに纏めて、茶よりも橙色に近い目の色をしており見目の良い青年だった。

だがこの問いにはどう答えるべきか悩んだ。天帝と仲が悪いと言えば狂信者集団が、良いと言えば反天界軍が敵に回る。いや、魔王様にとって敵ではないが邪魔な人間が増えるのは避けたかった。

「私は、あなた方が天帝をどうしようと関係ありません」

「では、魔族は天界と戦わないと?」

何故自分が魔族の代表として表明を出さなければならないのか、魔王様は呆れてしまったが、全てはこの肩書きのせいであることも理解していた。

「魔族が天界と戦うことはありません。それに、私は誰かの手助けをするつもりもありません」

これでどちらの敵にも回らず、人間たちが出て行ってくれるだろうと思ったが、まだ彼らは引かなかった。

「ですが、魔王が天帝と一緒にいる姿を見たと言う者がいますよ!」

一体誰がそんな話を流したのか、火のないところに煙は立たないのではなかったのか?そう思った時、自分が数日前に彼らの拠点のある北方都市で、天帝と一緒にいたことを思い出した。

「私の仲の良し悪しに関係なく、好きに反天界運動してください」

魔王様はどんどん頭を痛くした。
魔王様の言葉に、反天界軍は顔を見合わせ、天帝狂信者集団は何やら反天界軍に言いたいことがあるようだ。

「お前らがどうやって天帝に勝てると言うんだ!」

「勝てるか勝てないかではない!意思表示だ!」

魔王様は「いいから他所でやってください」と肩を落とした。

「陛下が来るもの拒まずだからでしょうか」

リタは関わりたくないと、少し後ろに退いて言った。

「だからって集まらなくても良いではありませんか」

魔王様は騒いでいる人間達を眺めて、力尽くで追い出そうか迷っていた。

そんな時に、話を掻き回す人物が現れた。

「レイリン、今日はなんだか賑やかだね?」

魔王様の頭痛はひどくなる一方だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...