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1章
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天雷の後、魔王様は直ぐに30回通った天帝の宮殿へ向かった。
宮殿の厳かな、物寂しい雰囲気は好きになれなかったが、魔王城も自分が主だからそう感じないだけで、周りから見れば変わらないのかもしれない。
森閑とした宮殿の扉の前に辿り着き、魔王様は大きく息を吐くいた。
重苦しい扉の擦れる音がし、魔王様は宮殿の中へと踏み入れる。
「早かったね」
大それた椅子に座り、少し微笑んでいる天帝はやはり楽しそうだった。
魔王様の顔にはなんの表情もなく、コツコツと音を立てて天帝へと近づいて行く。
いつもと様子の違う魔王様に天帝は違和感を覚えた。
コツコツ
天帝との間隔が2mになろうという所まで近づいて、魔王様は足を止めた。
2組の目が長い時間絡み合い、魔王様がため息と同時に小さく溢した。
「貴方のモノになります。その代わりに天雷を止めてください」
変わらず魔王様に表情はなかったが、天帝は満悦の表情を隠せなかった。ただし、次の言葉でその表情も一転した。
「ですが忘れないでください。私は貴方の事は大嫌いですし、一生恨み続けます」
「……」
魔王様は軽く俯き、天帝と目を合わせもしなかった。
怒気を含んだ魔王様のその一言に、一瞬だけ天帝は沈痛な表情を見せた。だが、天帝は静かに目を伏せて軽く微笑みながら言った。
「そう、構わない。それでも私のモノだから」
天帝は立ち上がり2mの隔たりを埋め、金色に光る双眸は魔王様の紅玉を捕らえて離さなかった。
天帝の右手は魔王様の髪束を掴み、露わになった耳元に口を寄せた。
「そうでしょう?レイリン」
「その名前で呼ばないでください!」
魔王様にとってその恥ずかしい呼ばれ方は、初めて会ったあの青年との思い出でもあった。宮殿に来てから落ち着いていたが、この時魔王様は我慢ができなかった。
いつものように拳を握り魔力を込めるが、魔王様の怒りが具現化したかのように赤い靄が浮かんでいる。
「私と一戦交えてくれませんか?」
その拳の様子から、魔王様の本気度合いが伺える。この勝負に命を賭けているかのようだ。
「魔王様の要求は何?」
「私が勝ったら、ランシュエを転生させて普通に天寿を全うさせてください」
この要求に天帝の顔が歪み、また笑い始めた。
「魔王様は本当に優しい」
何とでも言えばいい。魔王様は振り返って天帝との距離を開ける。
「じゃあ私が勝ったら、鈴の付いた首輪でもしてもらおうか」
クスクスと笑いながら馬鹿にしてくる天帝に、魔王様も不快感を隠しきれない。
自分との戦いなんてどうでもいいかのような、絶対強者の余裕。その表情を歪ませて泣かせてやりたい。
魔王様は赤を纏った拳を前に構えた。
天帝は剣を抜くと、うっすらと金色の光が浮かびあがり、その剣を前に構えた。
赤い光線と共に魔王様は天帝へと詰め寄り、その光線は天帝の剣を狙っていた。
天帝は体の正中で拳を受け、直ぐに弾き切り返すが魔王様の髪と赤い衣がふわりと舞い、少し掠めただけだった。
すぐに天帝は数歩退いた魔王様へと接近し突きを繰り出す。魔王様は身を屈めて避けると剣を狙って拳を振り上げる。
一進一退の攻防を繰り広げていたが、一度魔王様は距離を取った。
天帝は剣鋒を魔王様へ向けると、魔王様の周りに十数本の剣が浮かび上がり、一斉に魔王様へと襲いかかった。
魔王様はすぐさま飛び退きながら拳と結界で防いだが、その影から殺気と金光を纏った天帝の剣が襲いかかってきた。
そして、その剣を防ぐものは何もなく、無情にも魔王様の腹部に風穴を開けた。
衣の赤さとは別の赤みが滲んでくる。
「レイリン……?」
天帝は予想だにしなかったのか一瞬呆然としたが、顔を歪めてすぐに剣を抜いて魔王様を抱き留めた。
「何を、しているの?」
天帝の掠れた声が宮殿に響いた。
魔王様の腹部からは血が流れ、すぐに白い床を赤く染めた。
空間に血の匂いが充満していく。唇からも滴り、白い首に一線の赤い筋を書いていく。
天帝は魔王様を床に寝かせて腹部に右手を当てて傷を塞ごうとするが、魔王様の左手に止められた。
「離して、早く傷を癒さないと」
天帝の顔には焦りが見え、魔王様よりも息が荒くなっている。
「私のモノになると言ったのに、約束を違えるつもり?」
魔王様は虚脱感から左手に力が入らなくなり、天帝は魔王様の腹部に手を当てて金色の光が魔王様を癒した。
だが、魔王様の意識は薄くなっていくばかりで青白い顔がさらに生気を失っていく。
表情は何も浮かんでおらず、ただ天帝の黄金色の眼を眺めていた。
「それとも、私のモノになるぐらいなら死んだほうがマシだと?」
天帝は自嘲したように笑い、魔王様の身体を抱き寄せると、魔王様の胸元を少しだけ濡らした。
「絶対にそんなことは許さない。レイリンの魂は転生させて、もう一度私のモノにする。だから……」
その声が、魔王様の聞いた最後の言葉だった。
宮殿の厳かな、物寂しい雰囲気は好きになれなかったが、魔王城も自分が主だからそう感じないだけで、周りから見れば変わらないのかもしれない。
森閑とした宮殿の扉の前に辿り着き、魔王様は大きく息を吐くいた。
重苦しい扉の擦れる音がし、魔王様は宮殿の中へと踏み入れる。
「早かったね」
大それた椅子に座り、少し微笑んでいる天帝はやはり楽しそうだった。
魔王様の顔にはなんの表情もなく、コツコツと音を立てて天帝へと近づいて行く。
いつもと様子の違う魔王様に天帝は違和感を覚えた。
コツコツ
天帝との間隔が2mになろうという所まで近づいて、魔王様は足を止めた。
2組の目が長い時間絡み合い、魔王様がため息と同時に小さく溢した。
「貴方のモノになります。その代わりに天雷を止めてください」
変わらず魔王様に表情はなかったが、天帝は満悦の表情を隠せなかった。ただし、次の言葉でその表情も一転した。
「ですが忘れないでください。私は貴方の事は大嫌いですし、一生恨み続けます」
「……」
魔王様は軽く俯き、天帝と目を合わせもしなかった。
怒気を含んだ魔王様のその一言に、一瞬だけ天帝は沈痛な表情を見せた。だが、天帝は静かに目を伏せて軽く微笑みながら言った。
「そう、構わない。それでも私のモノだから」
天帝は立ち上がり2mの隔たりを埋め、金色に光る双眸は魔王様の紅玉を捕らえて離さなかった。
天帝の右手は魔王様の髪束を掴み、露わになった耳元に口を寄せた。
「そうでしょう?レイリン」
「その名前で呼ばないでください!」
魔王様にとってその恥ずかしい呼ばれ方は、初めて会ったあの青年との思い出でもあった。宮殿に来てから落ち着いていたが、この時魔王様は我慢ができなかった。
いつものように拳を握り魔力を込めるが、魔王様の怒りが具現化したかのように赤い靄が浮かんでいる。
「私と一戦交えてくれませんか?」
その拳の様子から、魔王様の本気度合いが伺える。この勝負に命を賭けているかのようだ。
「魔王様の要求は何?」
「私が勝ったら、ランシュエを転生させて普通に天寿を全うさせてください」
この要求に天帝の顔が歪み、また笑い始めた。
「魔王様は本当に優しい」
何とでも言えばいい。魔王様は振り返って天帝との距離を開ける。
「じゃあ私が勝ったら、鈴の付いた首輪でもしてもらおうか」
クスクスと笑いながら馬鹿にしてくる天帝に、魔王様も不快感を隠しきれない。
自分との戦いなんてどうでもいいかのような、絶対強者の余裕。その表情を歪ませて泣かせてやりたい。
魔王様は赤を纏った拳を前に構えた。
天帝は剣を抜くと、うっすらと金色の光が浮かびあがり、その剣を前に構えた。
赤い光線と共に魔王様は天帝へと詰め寄り、その光線は天帝の剣を狙っていた。
天帝は体の正中で拳を受け、直ぐに弾き切り返すが魔王様の髪と赤い衣がふわりと舞い、少し掠めただけだった。
すぐに天帝は数歩退いた魔王様へと接近し突きを繰り出す。魔王様は身を屈めて避けると剣を狙って拳を振り上げる。
一進一退の攻防を繰り広げていたが、一度魔王様は距離を取った。
天帝は剣鋒を魔王様へ向けると、魔王様の周りに十数本の剣が浮かび上がり、一斉に魔王様へと襲いかかった。
魔王様はすぐさま飛び退きながら拳と結界で防いだが、その影から殺気と金光を纏った天帝の剣が襲いかかってきた。
そして、その剣を防ぐものは何もなく、無情にも魔王様の腹部に風穴を開けた。
衣の赤さとは別の赤みが滲んでくる。
「レイリン……?」
天帝は予想だにしなかったのか一瞬呆然としたが、顔を歪めてすぐに剣を抜いて魔王様を抱き留めた。
「何を、しているの?」
天帝の掠れた声が宮殿に響いた。
魔王様の腹部からは血が流れ、すぐに白い床を赤く染めた。
空間に血の匂いが充満していく。唇からも滴り、白い首に一線の赤い筋を書いていく。
天帝は魔王様を床に寝かせて腹部に右手を当てて傷を塞ごうとするが、魔王様の左手に止められた。
「離して、早く傷を癒さないと」
天帝の顔には焦りが見え、魔王様よりも息が荒くなっている。
「私のモノになると言ったのに、約束を違えるつもり?」
魔王様は虚脱感から左手に力が入らなくなり、天帝は魔王様の腹部に手を当てて金色の光が魔王様を癒した。
だが、魔王様の意識は薄くなっていくばかりで青白い顔がさらに生気を失っていく。
表情は何も浮かんでおらず、ただ天帝の黄金色の眼を眺めていた。
「それとも、私のモノになるぐらいなら死んだほうがマシだと?」
天帝は自嘲したように笑い、魔王様の身体を抱き寄せると、魔王様の胸元を少しだけ濡らした。
「絶対にそんなことは許さない。レイリンの魂は転生させて、もう一度私のモノにする。だから……」
その声が、魔王様の聞いた最後の言葉だった。
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