魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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1章

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リタの言葉に、勇者の無い表情がより一層強張った。

「30回目?」

「はい。100年に1度の天雷が落ち、勇者様は死にます。天帝は勇者様の魂を現世へと返し転生させ、また陛下と出会い、そして死にます。これを既に29回繰り返しています」

そうリタに告げられた勇者は何と言えばいいのか分からず、俯いてしまった。
このリタという魔王様に従順な僕が、くだらない嘘をつかない事は勇者も知っていたのだろう。

「今までも様々な対処してきました。遠くへ避難したり、魔王様が赴いたり、それこそ初めから勇者様と会わないようにしたり……ですが、どれもダメでした。必ず勇者様と魔王様は出会い、そして最後は天雷によって死にます」

自分の寿命があと1週間だと知ったからといって、直ぐに何をしたらいいか分かる人なんていないだろう。だがこの勇者はそれを聞いて俯いたまま、すぐにリタに問いかけた。

「他に、私がやっていないことは?何か対処する必要は?」

だけどその質問にリタは答えられなかった。

「魔王様は、もう諦めてしまいました。私は何か手はないかと考えを巡らせましたが、特にもうできる事はありません。ただ、最後に勇者様にこのことを伝えたかっただけです」

リタとしてもこれまで散々試したつもりだった。魔王様の苦しむ姿を見たくないが為に、自分に出来る手は尽くした。
だが何も功は得られなかった。

「天帝は魔王様でも倒せませんでした。それに……」

「約束は約束?」

魔王様が約束を大事にしている事は勇者にも分かっていた。嘘も付かなければ約束は必ず守る、それが魔王様という魔族の魅力だった。天帝とどのような約束をしたのかをリタは知っていたが、この勇者には伝えなかった。

「自分のせいで天雷が落ち、人が犠牲になることも魔王様は良しとしません。本当はもう早く終わらせたいのです」

そう掠れそうな声でリタが呟いた瞬間、扉がバンっと開け放たれた。

「2人で何を話しているんですか?」

「魔王様?起きていたのですか?」

リタはバッと振り返り表情がないまま、勇者も顔を上げて、4つの目が魔王様を見つめた。

「リタ、その話をランシュエにして何か変わりますか?」

「申し訳ありません」

魔王様は長年勤めている僕には甘かった為、特に何のお咎めも無しで勇者へと身体を向けた。

「ランシュエ、もうここへは来ないでください。誰もいないところへ行ってください。何をしても、何も変わりません」

努めて冷静に魔王様は言った。

「何をしても同じなら、ここにいてもいい?」

勇者は立ち上がり魔王様の前まで近づくと、懇願するように少し屈んで魔王様を見つめた。

「いけません。出て行かないというのなら、私が出て行きます」

目を伏せて苦しそうに魔王様は言葉を漏らした。あと1週間で死ぬと聞いたのに、どうしてここに居ると言うのか?

「リタ、行きますよ」

声をかけ、魔王様とリタは本当に魔王城から出て行ってしまった。
静かになった魔王城に残された勇者は、またソファに座り、俯いてじっと時が経つのを待った。





1週間が経ち、魔界の1層目にある都市に魔王様とリタの姿があった。人間ではない者たちで活気に溢れ、すれ違う人たちの殆どが魔王様の美しさに目を留めるが、半数は魔王であるということに気づきそそくさと去っていく。魔王様はそれなりに有名人だった。

食事処へ入り窓側の席へ座ると、適当なご飯を魔王様は頼み、最後に酒を追加した。

「陛下、今回もこれで良かったのですか?」

リタが言いたいのは、今回も天雷に対して何もしないのかという話だった。
魔王様はしばらく何も話さず片肘をついて窓の外を眺めていた。

料理と酒が運ばれて、リタは魔王様のグラスに酒を注いだ。魔王様はそのグラスを手に取り一気に#呷_あお__#った。

「もう私は疲れたんです。終わりにしましょう」

この言葉は30回目が始まり、#頻_しき__#りに呟いていたセリフだった。空になったグラスにリタはまた酒を注ぐ。

「私もお供しますか?」

無表情に淡々とリタは言葉を出し、魔王様はまた酒を呷り、リタを見つめた。

「いいえ」

2人の間に長い沈黙が続いた。魔王様の僕になって、リタは数千年経つ。何があっても魔王様に付き添い、今回もそうするべきだとリタは思っていた。

だが魔王様はそう思ってはいなかった。

そろそろ天雷の落ちる時だ。
天雷は30回目となり、魔王様は勇者の死に目に会う気はさらさらなかった。

暗い雲が空を覆い、重い空気が身体中に纏わりつく。
この天雷の落ちる場所に勇者がいる。
空を眺め、突如眩い光が視界を遮った。同時に鋭く鈍い音が耳を突き抜ける。

今回落ちた場所は魔王城だった。

「陛下」

「大丈夫です。私にはリタがいます」
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