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1章
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その日、魔王様の寝室では甘ったるい声が響いていた。
「私はやめろと言いませんでしたか?」
「悪かったよ」
「もうランシュエとは会いません」
「ふふっ……」
魔王様のくぐもった声と、勇者の楽しそうな声である。
魔王様の顔も体も布団に隠れているが、露わになっている白い足を見れば、中は何も身につけていないことがわかる。
勇者はとりわけ気にもせずベッドに座って、片足を立てて左肘を乗せ、右手は魔王様の髪の毛で遊んでいた。たまに匂いを嗅いだりクルクルと指に巻いたりしている。
「信じていませんね?」
少しだけ布団から顔を出して魔王様は勇者を睨んだ。その紅玉の眼が僅かに潤んでいた為、勇者は吸い寄せられてしまい反応が一瞬遅れた。
「いつだって会いに来るのは私だ」
視線をじっと合わせて、寂しそうに勇者は言った。
「今までが緩かったんです。次からはしっかりと結界を張っておきます」
魔王様は手を前に出して結界を張るフリをして見せた。
その姿を見た勇者は少しだけ寂しさが和らいだのか、笑みを浮かべた。
「そしたら私は全力で結界を破らなければならない。それなら、挑戦者として昼に来ることにしよう」
これだと魔王様も断れない。魔王様もそれがわかっている為、口を窄めて頬を膨らませた。
「ダメ?」
今度は勇者が頬を膨らませて、それを見て魔王様もふふっと笑みがこぼれてしまい、2人で笑い合ってしまった。
「どうしても来るつもりですか?」
自分を諦めない勇者に魔王様の心持ちも良くなり、上半身を起こして勇者の顔を覗き込んだ。
「また来るよ」
その姿に辛抱できなくなり軽く額に唇を当てて、勇者は身なりを正した。魔王様はぼんやりと眺めているだけだった。
魔王様の寝室から勇者との話し声がして、リタは顔には出さないが憂鬱な気分になった。
近ごろの魔王様は非常に良くない。とても精神が不安定で見ていられない。
自分にできる事なんて些細な事でしかないが、魔王様の精神が好転するかもしれない。
この勇者はとても用心深く、自分が嫌われていることは知っていた。
そして魔王様でも負かすことが出来ない腕の持ち主だ。自分がどう話し、相手の機嫌を損ねず、信頼してもらうかはとても重要だった。
だが、リタは自分ならできることが分かっていた。
廊下へと出てくる勇者をじっと見据えて、リタは今回の事について話し始めた。
「勇者様にお話があります」
「何?」
勇者は特に気にも止めず興味もなさそうに、しかし魔王様の話であることは分かっていた為、聞くことにしたようだ。
「勇者様は、1週間後に死にます」
リタの言葉に流石の勇者も目線をリタへと合わせた。
「何を言っている?」と返されるかと思ったが、この勇者は柔順にリタの話を聞くようだった。
「それは誰かに殺されるって事?それとも君が私を殺すの?」
勇者はクスッとリタに笑いかけ、魔王様に聞かれないよう移動するようにと手を振って指示した。
リタは黙ってついて行き、普段はほとんど使われない茶室へ入るようにドアを開けた。
1つの机の前に置かれたソファに勇者が座ると、リタは立ったまま話し始めた。
「1週間後に天雷が落ちます」
「100年に1度落ちると言われている天雷?話では聞いているが、それで私が死ぬと何故分かる?」
「天雷は最も繁栄している都市に落ちるとされています」
今最も繁栄していると言われている街は北方の都市であり、現在勇者が身を寄せている都市でもあった。
「そこに天雷が落ちるとしても、魔王城から遠い。最近は一番近い村に泊まることもある」
「はい、話ではそう伝わっていますが、実際には天雷は勇者様へと落ちます」
「私に?」
流石の勇者もこの言葉には動揺したようだった。
「何故1週間後だと分かる?」
「それは……魔王様と天帝の間に因縁があるからです」
天帝が出てくるとは思わなかったのか、勇者は眉を寄せリタに早く話せと促すような鋭い視線を送る。
リタは淡々と続けた。
「勇者様が死ぬのは、これで30回目となります」
「私はやめろと言いませんでしたか?」
「悪かったよ」
「もうランシュエとは会いません」
「ふふっ……」
魔王様のくぐもった声と、勇者の楽しそうな声である。
魔王様の顔も体も布団に隠れているが、露わになっている白い足を見れば、中は何も身につけていないことがわかる。
勇者はとりわけ気にもせずベッドに座って、片足を立てて左肘を乗せ、右手は魔王様の髪の毛で遊んでいた。たまに匂いを嗅いだりクルクルと指に巻いたりしている。
「信じていませんね?」
少しだけ布団から顔を出して魔王様は勇者を睨んだ。その紅玉の眼が僅かに潤んでいた為、勇者は吸い寄せられてしまい反応が一瞬遅れた。
「いつだって会いに来るのは私だ」
視線をじっと合わせて、寂しそうに勇者は言った。
「今までが緩かったんです。次からはしっかりと結界を張っておきます」
魔王様は手を前に出して結界を張るフリをして見せた。
その姿を見た勇者は少しだけ寂しさが和らいだのか、笑みを浮かべた。
「そしたら私は全力で結界を破らなければならない。それなら、挑戦者として昼に来ることにしよう」
これだと魔王様も断れない。魔王様もそれがわかっている為、口を窄めて頬を膨らませた。
「ダメ?」
今度は勇者が頬を膨らませて、それを見て魔王様もふふっと笑みがこぼれてしまい、2人で笑い合ってしまった。
「どうしても来るつもりですか?」
自分を諦めない勇者に魔王様の心持ちも良くなり、上半身を起こして勇者の顔を覗き込んだ。
「また来るよ」
その姿に辛抱できなくなり軽く額に唇を当てて、勇者は身なりを正した。魔王様はぼんやりと眺めているだけだった。
魔王様の寝室から勇者との話し声がして、リタは顔には出さないが憂鬱な気分になった。
近ごろの魔王様は非常に良くない。とても精神が不安定で見ていられない。
自分にできる事なんて些細な事でしかないが、魔王様の精神が好転するかもしれない。
この勇者はとても用心深く、自分が嫌われていることは知っていた。
そして魔王様でも負かすことが出来ない腕の持ち主だ。自分がどう話し、相手の機嫌を損ねず、信頼してもらうかはとても重要だった。
だが、リタは自分ならできることが分かっていた。
廊下へと出てくる勇者をじっと見据えて、リタは今回の事について話し始めた。
「勇者様にお話があります」
「何?」
勇者は特に気にも止めず興味もなさそうに、しかし魔王様の話であることは分かっていた為、聞くことにしたようだ。
「勇者様は、1週間後に死にます」
リタの言葉に流石の勇者も目線をリタへと合わせた。
「何を言っている?」と返されるかと思ったが、この勇者は柔順にリタの話を聞くようだった。
「それは誰かに殺されるって事?それとも君が私を殺すの?」
勇者はクスッとリタに笑いかけ、魔王様に聞かれないよう移動するようにと手を振って指示した。
リタは黙ってついて行き、普段はほとんど使われない茶室へ入るようにドアを開けた。
1つの机の前に置かれたソファに勇者が座ると、リタは立ったまま話し始めた。
「1週間後に天雷が落ちます」
「100年に1度落ちると言われている天雷?話では聞いているが、それで私が死ぬと何故分かる?」
「天雷は最も繁栄している都市に落ちるとされています」
今最も繁栄していると言われている街は北方の都市であり、現在勇者が身を寄せている都市でもあった。
「そこに天雷が落ちるとしても、魔王城から遠い。最近は一番近い村に泊まることもある」
「はい、話ではそう伝わっていますが、実際には天雷は勇者様へと落ちます」
「私に?」
流石の勇者もこの言葉には動揺したようだった。
「何故1週間後だと分かる?」
「それは……魔王様と天帝の間に因縁があるからです」
天帝が出てくるとは思わなかったのか、勇者は眉を寄せリタに早く話せと促すような鋭い視線を送る。
リタは淡々と続けた。
「勇者様が死ぬのは、これで30回目となります」
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