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ルートは自分で作るもの4
しおりを挟む__ここでこの方の手を取れば、もう極貧男爵家に戻らなくても済む。そんなこと、わかりきっていたし、今この場面で求められているのはそれのはずなのに。
(なのになぜジーナ様の顔が浮かぶのだろう)
ジーナのくしゃりとした笑い顔。
頭を撫でてくれた細くて長い指。
思い出されるのは、婚約者に捨てられ、心身ともに追い詰められてボロボロになっていたノーチェを、いつも優しく励ましてくれたジーナの姿ばかりだった。
ノーチェは目を瞑って考えてみる。
(本当に後悔しない選択肢はないの?)
多くの人がいるなかで決定された事項はそう簡単には覆らないだろう。これは最後の審判に等しい。
ゆっくりと目を見開き、王子の顔を見据える。
何度考えても、自分が選びたい選択肢は一つしかなかった。
この選択は自分を不幸にするだろう。
それでもよかった。ノーチェは世界に祝福をされるであろう、輝かしい未来を持つ主人公になるよりも、自分の意思のままに選択し、ままならない運命に身を沈める、不幸な女になりたかった。
ノーチェは目を開き、覚悟を決めた。
「あなたの妻にはなりません。……私が本当に愛しているのは、あなたではないからです」
ざわり、と会場が揺れたのがわかった。ここの会場で求められていたのは感動的な婚約シーンだったんだろうと、ノーチェは自重する。断るだなんて、求められている展開とは全く違う。
王子も予定とは違うシナリオに、微かに困惑した表情を見せていた。
きっと自分は今後、社交界から追放されてしまうだろう。実家だって取り潰しに会うだろうし、恐ろしいことがたくさん起こるはずだ。
でも考えてみれば、ノーチェは最初から、その運命を辿るはずだったのだ。親切なジーナという後援者の後押しで、今卒業パーティーという華やかな場に立っていられるが、本当はそれも許されない立場だったのだ。
(私はどうなっても良い。でも、最後に許されるなら……。自分の気持ちに嘘をつきたくない)
ノーチェはゆっくりと口を開き、床に膝をつくジーナの顔を見つめた。
「ジーナ様、私が心から愛しているのはあなたです。私はあなたのことをお慕いしております」
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