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テンプレ物語にも終わりはくる3

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「あーあ。君に言うつもりはなかったんだけどなあ」

 ジーナは珍しく、項垂れたような表情を見せた。

「私のことを知っていた……ということは以前教えていただきましたが……。え? 私に憧れる要素……が、どこにあるのかわからないのですが……」
「あるよ。君にだって素敵なところはたくさんある」
「どこ……?」

 本気でわからなそうな表情を見せると、ジーナは観念したように語り始める。

「……君はいつも上級貴族に紛れて成績優秀者に混ざっていただろう?」
「それは……はい」

 お金をかけずに、学園に通うために必死だっただけであるが、ノーチェは勉学に誰よりも励んでいた。

「私はこんななりだから、どうしても他の級友たちのような職務には当たれずに、女装までしなければ王子に使えることもできなかった身だ。どうして自分は出来損ないなんだろう……そんなふうに思ったことだって何回もある」

 ぽつりぽつりと溢れる言葉は、自信に満ち溢れたジーナ嬢を演じている姿からは想像もできない苦悩だった。

「そんな時、君の頑張りを知った」

 ジーナは当時のことを思い出し、俯く。

「そんな君を見て私はいつも勇気をもらっていたんだ。いつか話してみたい憧れの女性だったからこんなふうに、一緒に暮らせるなんて夢みたいだった。ノーチェはやっぱり想像している以上の努力家で、魅力的な女の子で……前よりも君のことを好きになった。王子に渡すのが惜しくなってしまう程度には」

 ジーナは自虐的な笑みを浮かべていた。

 自分の良さを初めて見つけてくれたのはジーナだった。

 婚約者であったゼダウスでも、これから婚約することになるであろう王子でもない。

 ノーチェの心中はいつの間にか、ジーナで埋め尽くされていた。

「そんな……」

 溢れるように、口から発せられたのは絶望だった。
 どうして、私を見つけたのに、この人は手放そうとするのだろう。そんな、駄々をこねた子供みたいな考えが溢れ出してくる。

 本当はわかっている。ジーナは職務を全うしただけだ。

「君は以前、自分には魅力がないからゼダウスを自分に惹きつけておくことができなかったといっていたけれど……私のことはずっと前から、惹きつけられていたよ?」

 あんなふうに自分もなりたいな。
 あの人が頑張っているから、私も頑張らなくちゃ。

 そんなふうに知らず知らずの間にお互いを支え合っていたなんて。
 思いは、交差していたとしたら、恋になり得ていたのではないか。

(どうして私の相手はこの人じゃないんだろう)

 もう全てが遅い。遅いのは分かりきっているのに。

 ノーチェは自分の思いを言葉にしたくてたまらなかった。

「私も、ジーナ様のことが……っ」
「それ以上のことは言ってはいけないよ?」

 多分、ジーナはノーチェが言いたいことは全て把握していただろう。

 ノーチェが持つ尊敬が、果てしなく異性へ対しての好意だと言うことにも。

 それでも、彼は王子への忠臣を曲げようとはしなかった。

「明日は早いよ。もう寝ないとね」

 そう言ってジーナは自室へと逃げるように帰ってしまった。取り残されたノーチェの目からは涙が溢れる。

(自分は言い逃げするなんて酷い)

 明日にはジーナを解任するために計画された、断罪イベントがやってきてしまう。
 

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