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テンプレ物語にも終わりはくる2

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「打ち合わせ?」
「ああ。どういった流れで、王子の婚約者が変更になるのか、プランが練り上がったから、君にも共有しておかないとね」

(そうか……。私、王子様と結婚するためにジーナ様から教育を受けていたんだっけ……)

 貧乏貴族だった自分がひょんなことから、王子の婚約者になる……なんて、あまりに突飛な展開すぎて、今でも自分事に思えない、と言うのがノーチェの本音だった。

 しかし、これは夢物語ではなく、王子の近侍が企てた計画の一部なのである。

 聞かされた内容は、なんだかどこかで聞いた物語のような流れだった。

 王子はジーナという婚約者がありながら、ノーチェに恋をする。
 そんなノーチェのことを目障りに思ったジーナはノーチェに陰湿ないじめをしていた、ということにする。

 王子は卒業パーティーでその罪を断罪し、ノーチェを影でいじめていたジーナは国を追われる……。というシナリオらしい。

 内容は理解できた。だが、ノーチェには気になる点があった。

「王子の婚約者役を解任されたらどうなるのですか……?」
「さあ。名をジーナから本来のものに戻して、王子の近侍に戻るんじゃないかな。まあ、学校を追われても、ただの見せかけなだけだから、卒業資格はもらえるみたいだし、心配はしていないんだ」
「ジーナ様は偽名だったのですか?」

 意外な事実に目を見開く。

「“ジーナ”なんて女性名をつける親は貴族にはいないだろう。一応戸籍上、私は双子だということになっていて、役目が終わったら前の名前に戻ることになっているからね。……本物の私は病弱で家にこもっていると言う設定らしい」

 であれば、ジーナの本当の名前はなんと言うのだろう。本当は無邪気なふりをして聞いてしまいたい。しかし、明日は王子の婚約者となる自分が、病弱設定で屋敷にこもっているはずの本物のジーナと面識があるのはおかしい。
 ジーナは王子の近侍で居続けるのであれば、ノーチェが名を知っていることは不都合になる。

「それならいいの……ですかね……でも」

 ノーチェは複雑な気持ちになる。この計画では全ての悪印象を“ジーナ”が背負うことになってしまうではないか。
 きっと学園内にはジーナの凛々しい姿を見て、密かに憧れていた生徒も多いだろう。

 しかし、この計画が実行されたとしたら、そんな生徒たちの記憶さえ塗り替えられてしまう。
 王子の怒りを買った愚かな婚約者として、問答無用で裁かれてしまうのだから。

 それはジーナが過ごした学園での日々を全て帳消しにしてしまう暴挙だと思った。

「どうしてジーナ様ばかりが汚れ役を引き受けねばならないのでしょう……」
「まあ、王子の近侍を務める身としてはある程度仕方がないことだと思ってるよ。……それでも、ノーチェを巻き込んでしまったことは申し訳ないと思っているけど」
「いえ、私は……」

 ノーチェは口ごもる。

「この三ヶ月弱、ノーチェと過ごすことができて、私は本当に楽しかったんだ。それだけでいい思い出だよ。本当にありがとう」

(ああ、この日々は本当に終わってしまうんだ……。こんな生活が永遠に続けばいいのに……)

 この卒業前の三ヶ月という短い間。ジーナと過ごした日々はノーチェにとって宝物みたいな日々だった。

 自分に自信が持てた。自分はこう生きていいんだ、と思えるような日々だった。

 終わりが来るということを感じてしまった瞬間、とてつもない寂しさがノーチェを襲った。

「私……寂しいです。ジーナ様とこうしてお話できなくなってしまうなんて考えられません」

 しょんぼり顔で素直な気持ちを伝えると、ジーナは顔をくしゃりと歪めて笑った。

「大丈夫だって。その寂しさはきっと伴侶となる、王子が埋めてくれるはずさ。彼は私から見てもいい男だと思うよ。彼なら、大事なノーチェを守ってくれるはずだ」

 何気ない一言だった。だがその一言にノーチェは息もできないほどの苦しみを覚えた。

「ジーナ様は私のことを大切だと思ってくださっていたのですか……?」
「それはそうでしょう。私にとっても君は大切な女の子だよ。実を言うと、私は君に密かに憧れていたんだ」
「え?」

 突然の告白にノーチェは目を丸くした。

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