悪役令嬢が男だった場合のハッピーエンドルート

菜っぱ

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いらないものは捨てましょう2

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 婚約者だったゼダウス。
 婚約が決まってすぐ、父親に連れられて初めて顔合わせをした時は彼の目尻が下がった優しげな瞳にノーチェは好印象を持った。
 しかし今ゼダウスと対峙すると、垂れた目尻はノーチェを値踏みする下卑た目に見え、嫌悪感しか湧いてこない。

(こんな人と話したくない)

 ノーチェは背中にじわりと嫌な汗をかいた。嫌悪感で歪んだ表情が見えないのか、ニタリと笑いながらゼダウスは話しかけてくる。

「最近、なんだかかわいくなったね」
「はい?」

 どの口がそれを言うのか。自分を卒業前という取り返しのつかない時期に、こっ酷く振ったくせに近づいてくるゼダウスの行動が理解できない。普通優しさがあれば、迷惑をかけた相手には近づかないのが礼儀なのではないか。

 全く、どういう神経をしているのだろう。


 確かに最近のノーチェは以前とは違う。
 王子に釣り合うよう、ジーナに詰め込み教育を受けているため、もともとそれなりだった所作はさらにキワのキワまで磨き上げられ、信じられないくらい綺麗になっている。

 見た目だって改善しただろう。

 資金が不足していたせいで美容にお金を使えなかったので、手が回らなかっただけで、手入れをすれば、ノーチェはそれなりの見た目をしているのだ。

 今はジーナが「これを使え」と山ほど化粧品をくれるのでお金の心配がない。

 それは全てジーナのおかげであって、ゼダウスのおかげではない。

 絶対にない。


「ノーラも可愛いところがあるんだな。ふられた男にもう一度振り向いて欲しくて自分を磨き直すなんて」

 その言葉を聞いた時、ブルリと一気に鳥肌が立った。

(なんでこの人そんな考えができるの?)

 まさか自分への想いがまだ残っているとでも思っているのだろうか。ノーチェの記憶の中には想いが残るほど、よくしてもらった覚えもない。

「私は……。あなたのために自分を磨いたわけではありませんっ!」

 ノーチェが切り捨てるように言った言葉に対して、ゼダウスはふっとぎざったらしい笑みをこぼした。

「ノーチェは意外と奥ゆかしい女だったんだな」

(だめだわ、この人! 全然言葉が通じない! 自分が得た都合の良い情報だけを切り取ってストーリーを作り上げるタイプなんだわ!)

 ワタワタとしていると腕を掴まれてしまった。

「なあ、ノーチェ。今のお前が可愛らしく懇願してくれるのならば、愛妾くらいにだったらしてやろうか」

(き、気持ち悪いーー!)

 逃げたいのに、ゼダウスの掴んだ手は力強く、ノーチェの腕を離さない。きっと指の形に青あざができているだろう。
 男女の力の差は努力では超えられない。


 絶体絶命のピンチ、と思った時に声が降ってきた。

「あら、わたくしのお友達に何か用でもおありでしょうか?」

 凛と響く、気高い声。それはノーチェの心をいつも柔らかく解いてくれる。

 ジーナは悪役令嬢にふさわしい、悪辣な顔でこちらを見ていた。後ろには禍々しい黒い霧が見えるような気がする。

 ノーチェは一粒、ぽろりと涙を流した。
 ジーナはいつだって、ノーチェを助けてくれるのだ。
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