21 / 31
いらないものは捨てましょう2
しおりを挟む婚約者だったゼダウス。
婚約が決まってすぐ、父親に連れられて初めて顔合わせをした時は彼の目尻が下がった優しげな瞳にノーチェは好印象を持った。
しかし今ゼダウスと対峙すると、垂れた目尻はノーチェを値踏みする下卑た目に見え、嫌悪感しか湧いてこない。
(こんな人と話したくない)
ノーチェは背中にじわりと嫌な汗をかいた。嫌悪感で歪んだ表情が見えないのか、ニタリと笑いながらゼダウスは話しかけてくる。
「最近、なんだかかわいくなったね」
「はい?」
どの口がそれを言うのか。自分を卒業前という取り返しのつかない時期に、こっ酷く振ったくせに近づいてくるゼダウスの行動が理解できない。普通優しさがあれば、迷惑をかけた相手には近づかないのが礼儀なのではないか。
全く、どういう神経をしているのだろう。
確かに最近のノーチェは以前とは違う。
王子に釣り合うよう、ジーナに詰め込み教育を受けているため、もともとそれなりだった所作はさらにキワのキワまで磨き上げられ、信じられないくらい綺麗になっている。
見た目だって改善しただろう。
資金が不足していたせいで美容にお金を使えなかったので、手が回らなかっただけで、手入れをすれば、ノーチェはそれなりの見た目をしているのだ。
今はジーナが「これを使え」と山ほど化粧品をくれるのでお金の心配がない。
それは全てジーナのおかげであって、ゼダウスのおかげではない。
絶対にない。
「ノーラも可愛いところがあるんだな。ふられた男にもう一度振り向いて欲しくて自分を磨き直すなんて」
その言葉を聞いた時、ブルリと一気に鳥肌が立った。
(なんでこの人そんな考えができるの?)
まさか自分への想いがまだ残っているとでも思っているのだろうか。ノーチェの記憶の中には想いが残るほど、よくしてもらった覚えもない。
「私は……。あなたのために自分を磨いたわけではありませんっ!」
ノーチェが切り捨てるように言った言葉に対して、ゼダウスはふっとぎざったらしい笑みをこぼした。
「ノーチェは意外と奥ゆかしい女だったんだな」
(だめだわ、この人! 全然言葉が通じない! 自分が得た都合の良い情報だけを切り取ってストーリーを作り上げるタイプなんだわ!)
ワタワタとしていると腕を掴まれてしまった。
「なあ、ノーチェ。今のお前が可愛らしく懇願してくれるのならば、愛妾くらいにだったらしてやろうか」
(き、気持ち悪いーー!)
逃げたいのに、ゼダウスの掴んだ手は力強く、ノーチェの腕を離さない。きっと指の形に青あざができているだろう。
男女の力の差は努力では超えられない。
絶体絶命のピンチ、と思った時に声が降ってきた。
「あら、わたくしのお友達に何か用でもおありでしょうか?」
凛と響く、気高い声。それはノーチェの心をいつも柔らかく解いてくれる。
ジーナは悪役令嬢にふさわしい、悪辣な顔でこちらを見ていた。後ろには禍々しい黒い霧が見えるような気がする。
ノーチェは一粒、ぽろりと涙を流した。
ジーナはいつだって、ノーチェを助けてくれるのだ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ダブル・シャッフル~跳ね馬隊長の入れ替わり事件~
篠原 皐月
ファンタジー
建国以来の名門、グリーバス公爵家のアルティナは、生家が保持する権益と名誉を守る為、実在しない双子の兄を名乗り国王直属の近衛騎士団に入団。順調に功績を立てて緑騎士隊隊長に昇進するも、実父の思惑により表向き死亡した事に。更に本来の名前に戻った途端、厄介払いの縁談を強制され、彼女の怒りが振り切れる。自分を都合の良い駒扱いしてきた両親に、盛大に蹴りを入れてから出奔しようと、策を巡らせ始めたアルティナだったが、事態は思わぬ方向に。飲み仲間の同僚と形ばかりの結婚、しかも王太子妃排除を目論む一派の陰謀に巻き込まれて……。稀代の名軍師の異名が霞む、アルティナの迷走っぷりをお楽しみ下さい。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる