上 下
19 / 31

これは得意なやつかもしれない3

しおりを挟む

 ジーナは出来る限りをノーチェに教え込んでいく。
 ノーチェもジーナの教えを貪欲に吸い込んでいく。

 二人は性別は違っていたが理想の子弟関係を築けるようになっていた。

「ジーナ様は私が覚えが良いと言ってくださいますがジーナ様の教え方がわたくしを素敵なレディに仕立ててしまうくらい素晴らしいのですよ」
「え?」

 目を見開いた時ジーナにノーチェは微笑みながら告げた。

「ジーナ様は私をたくさん褒めてくださいますもの。私……ここにくるまで、あまり褒められたりしてなかったんだな……と今になって気づいたのです」

 ノーチェの父は男爵家を共に支えてくれたノーチェに感謝はしていたが、それが当たり前になっていくうちに、親子間の関係は、父と娘ではなく、共に家を支える戦友に成り代わっていた。
 父に頼られている……。それを嬉しく思うのと同時にノーチェは寂しさを覚えていた。周りのご令嬢は学校でいい成績を取るだけで褒めてもらえていた。しかし、自分は特待生になれる成績を修めて、かつ家業も手伝っても、それがスタンダードで誰にも褒めてもらえない。

 多分、みんな麻痺してしまったのだろう。

 ノーチェが努力して、努力してなんとか功績を積み上げていることを忘れて、それが当たり前になってしまった。

 そんなノーチェにとって、姿勢をよく保っただけで褒めてくれる、ジーナは神様のような存在だった。

「誰かが、自分を褒めてくれるってすごく、尊いことですよね。当たり前ではないのです」

 ジーナの口が、ああ君もか、と動いた気がした。

「私も同じように褒められることなんてなかったからね。自分がやって欲しかったことを人に積極的にやるようにしてるんだよ」

(ああ。ジーナ様も同じように努力をしてきた方だもの……)

 きっと、悪役に徹するということ……しかも性別偽ってまでそれを完遂させるためには並大抵の努力ではなし得ないだろう。

 それを息を吸うように、いとも簡単になし得ているように見せかけているのだ。

「ジーナ様、日々いろんなことを教えてくださってありがとうございます」
「唐突だね」

 ジーナは困ったように顔をクシャリとさせた。
 どうしてか瞳の奥が泣きそうに見える。

「私、何もできませんから、人に感謝することはとっても得意なんですよ」

 ジーナはその言葉に息を飲む。

 王族という立場は、国民への感謝がなければ、成り立たない。権力を振りかざすような人間には務まらないのだ。

 それが、自然にできているノーチェは……。信じられないくらい王妃向きの性格なのだ。

 やはり……。自分の人選に間違いはなかった。

「それは王妃になるに当たって一番大事な心構えかもしれないね」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

処理中です...