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美しいには理由がある2

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「それにうちから通ってもらった方が、生活習慣の指導もできるからね」
「生活習慣……?」

 ノーチェはその不穏な言葉に首を傾げた。
 まさか……これから鬼の指導が始まるのではないか……と身を固くする。

「そう。普段の生活から体の歪みは生まれたりするからね。……あなた、食事中は気をつけてるみたいだけど、それ以外の立ち姿が少し猫背気味なの、自覚してた?」
「え! そうですか⁉︎」

 ノーチェは慌てて背筋を伸ばす。
 どうしても勉強をするために前屈みの体制になることが多いのでクセがついてしまったらしい。姿勢というものは他人に指摘されないとあまり気がつけない。

「そうそう。そのくらいいつも気をつけてないとね。……次から、猫背になってたら、注意するから」
「はい……気をつけます」

 注意はされたが、不思議に思ってしまうくらい優しいアドバイスだ。身構えていたノーチェは変に力が抜けてしまった。

(この方は……。本当にあの、悪役令嬢と言われているジーナ様なのでしょうか)

 もしかしたら本当は優しい気質なのに、無理に悪役を演じていたのだろうか。そうだとしたら相当な苦労だろう。
 ジーナはノーチェの顔を見ながら優しく微笑んでいた。そこには弟子を見守るような師匠のような優しさが垣間見れた。一切の意地悪さは感じられず、これが本来のジーナの笑顔なのだとノーチェは思う。

 その微笑みを一度見ると、目を離すことができない。吸い込まれるような引力を感じ、まずいと思ったノーチェは慌てて視線を外し、話題を変える。

「あ、私。このお皿……片付けるお手伝いをしますね」

 ノーチェはいつも自分がやっているように、自然な流れで皿を重ねて運ぼうとした。

 ジーナとその周りにいた使用人たちはその様子を見て、ぎょっと目を大きく見開いた。慌ててノーチェを静止させる。

「それじゃあ、彼らの仕事がなくなってしまうよ。使用人たちには相応の対価を渡しているんだから、彼らの仕事を取らないでやって欲しい」
「そ、そうですよね。申し訳ありません。ここではそれが当たり前なんですよね」

 ノーチェの家では使用人を何人も雇う余裕がなかったのでできることは自分自身でやっていた。もちろん寮にも使用人を連れてくる余裕がなかったので皿洗いだって自分でしていた。しかし、ジーナはそんなことはやらなくとも良いという。

(やっぱり貧乏貴族の自分とは暮らしぶりが違う……)

 こんな庶民感覚が抜けない、自分が王子に嫁入りだなんて無理があるんじゃないか。そんな思いがノーチェの頭をよぎって離れなかった。
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