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猫なので綺麗好きです9

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「そう思って切り捨ててしまえたら、きっと楽なんでしょうけれど」

 問われたミラジェは眉を八の字に下げる。
 
「最近、旦那様と関わる時間が増えて……。なぜ、聡明なジャンさんとアレナさんが旦那様に仕え続けるのかがやっとわかった気がするのです」

 アレナはおや、という顔で目を見開く。

「若奥様にもわかってしまいましたか……」
「うーん……。なんとなく旦那様って……危なっかしくて守ってあげたくなるなるところがありますよね……」

 アレナは十五歳の少女にそれを言われる三十代はどうなのだ、と多少慄きながらも、自分も同じような理由でこの家に残ってしまったのだからミラジェの意見を否定することはできなかった。

「まあ、愚かしさは愛おしさに通じますからねえ」
「……旦那様も、私の愚かしい部分をかわいいと思ってくださればいいのですが」

 ジャンはふうと息つくミラジェの様子を見て、おやと片眉をあげる。

「旦那様はミラジェ様に猫のようにあって欲しいとおっしゃったのでしょう? その言葉もきっと、ぼっちゃまのわかりにくすぎる優しさがねじ込まれた結果のような気がしてならないのですよ」
「そうでしょうか?」
「そうですよ。シャルル様は一度内側に入れた方にはとても優しいお方ですから。家族を見捨てるような真似は致しません」

 優しさよりも、確実な対価がほしいと思ってしまう自分は非常なのか。
 ミラジェは自分の欲望まみれの醜さを感じ取り、苦笑した。

「どうせわたくしは逃げ帰る家もありません。前公爵夫人と同じ轍を踏みたくない公爵家にとって、こんなに都合のいい人材はいませんのに」
「若奥様……」

 表情を曇らせたジャンを気遣うように、ミラジェは朗らかな微笑みをつくり浮かべる。

「ええい! 何事においても、この調子じゃいけませんね。もう少し泳がせておこうかと思いましたが、旦那様のお仕事にこうも差し支えるといけません。とっととお掃除を完了させて、旦那様を問い詰めなければいけませんね!」
「お掃除……? 若奥様……?」

 一体何をするつもりなのだろう。ジャンは少し心配になりながらも、アレナと同じく、なんだか面白そうなのでとりあえず放置してみることにした。
 アレナとジャンは似たもの夫婦なのである。
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