40 / 69
家主の心中は察せず、猫道まっしぐら1
しおりを挟むその日の夜、ミラジェは昨日と同じくシャルルのベッドにいた。
「ミラジェ……。ここで寝なくともいいと言っただろう? ジャンとアレナにも俺たちが何も関係がないことは知られている。もう君が気を使う必要はないよ」
妙な義務感を感じているなら申し訳ないという気持ちでシャルルが言うと、ミラジェはシラーっとした薄目で答える。
「気を使うですか? 私はそんなことはいたしませんよ。だって猫ですもの」
「へ?」
「旦那様が昨日おっしゃったのでしょう? 私は猫だと。私もそれを理解し、体現しようと思ったので、こちらに参りました。猫は自由気ままに好きな場所で寝るでしょう?」
ミラジェはコテンと首を傾げながらいう。
うーんかわいい。一瞬無意識にそう思ってしまった自分の思考にハッとしたシャルルは、ぶんぶんと頭を振り、不埒な考えを打ち消そうとする。
その様子を見たミラジェは、閃いたようにシャルルのすぐ側に忍び寄り、腰に腕をぐるりとまわした。
「な、なんで腰に手を回すんだ⁉︎」
「……だって。猫なので。人間で暖を取ることもありますでしょう?」
ミラジェは反論を挟む暇さえ与えなかった。
「ではおやすみなさーい」
そのまま、ミラジェは何食わぬ顔で眠る。
シャルルは抱きつかれた腕を払うこともできず、しばらく硬直していた。
(困れ、惑え。昨日の私の思いを思い知るがいい……)
ミラジェはシャルルの広い背中の暖かさを堪能しながらニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
ミラジェの仕返しは時始まったばかりだ。
*
(アレナがやり返す、と言っていたから、どんなことをやられるかと思ったら……。大したことではないな……)
シャルルは腰にくっつくミラジェを追い払えないまま、うんうん考え込んでいた。横になった途端、ミラジェはういしょ、と動き密着度を上げた。
……思ったより、腹黒い仕返しではなかった。これじゃあ、可愛いだけだ。と、冷静にシャルルは思う。
だが、気まずいことには変わりない。
(ああ……。こんな格好でいるのを人に見られたら、もう言い逃れはできないだろう。誰もがきっと、あの男は少女趣味だったのだと言い広げるな。だが、それだけなら私が被害を被ればいいだけだが、この子が風評被害を受けるのは……)
うじうじ虫のシャルルはせめてミラジェが大人になるまで時間を稼ぎたいと思っていた。だが、そんなシャルルの気持ちを察することもなく、ミラジェは行け行けどんどんである。
考え込んでいるシャルルの腰に抱きついたミラジェが寝ぼけているのか、頭をぐりぐりと押し付けてくる。その瞬間、髪からふわりと、せっけんの微かな香りが溢れ、鼻腔をくすぐった。寝位置を変え、柔らかな肌が触れるたび、小さな子供だと思っていたかったミラジェが女性であることを思い知らされる。
(ああ……! こういう猫いるけどっ! 彼女は人間だ)
大人になる前の少女が持つ、危うい魅力は、理性的だと自負していたシャルルを揺さぶるだけの威力を持っていた。
猫だなんて、言わなければよかった。そう思ってももう遅い。
シャルルはうーんとうなされながら、眠れぬ夜を過ごした。
0
お気に入りに追加
398
あなたにおすすめの小説
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
【完結】昨日までの愛は虚像でした
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
男装の公爵令嬢ドレスを着る
おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。
双子の兄も父親の騎士団に所属した。
そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。
男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。
けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。
「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」
「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」
父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。
すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。
※暴力的描写もたまに出ます。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる