上 下
36 / 69

私はどうやら妻ではなく猫だったらしい5

しおりを挟む

 翌朝。
 眠い目を擦りベッドから起き上がると、アレナが満面の笑みで、ミラジェの方を見ていた。

「おめでとうございます」
「へ?」

 何がおめでとうなのだろうか。自分は役目を完遂できず、不甲斐ない気持ちでいっぱいだというのに……。ミラジェは頭にはてなを大量に浮かべる。

「大丈夫ですよ。お体が辛いでしょう」

 どうやらアレナはミラジェたちがそれを完遂したと勘違いをしているらしい。

「ええっと……アレナは何を思ってそれを……?」

 そう、ミラジェが口にしようとし、みじろぎをすると真っ白なシーツの真ん中に小さな赤い染みが映る。

 なんだあれは。

 行為が行われていれば、ああいう染みがつくこともある、ということは家庭教師に教えられており、ミラジェも知っていた。
 しかし、昨夜、二人の間にそれは起こらなかった。
 もちろんミラジェはただ寝ていただけなので、どこも怪我はしていない。……ということは、シャルルが行為があったと見せかけるために自身の血液を落とし、偽装したのだろう。

 己の保身のために。

 ミラジェは怒りでワナワナと震え出す。

「あの男ぉ~! 馬鹿にした真似をっ!」

 ミラジェは怒りのままに、ボスンとベッドを殴り叩き、うううー! と獣のように唸り声を上げた。ベッドのスプリングがギシィ、キィィイと不穏な音を立てている。
 そんな主人の様子を見て、アレナは目を丸くしてギョッとさせる。

「ど、どうしたのですか! 若奥様、お加減が悪うございますか?」
「お加減も悪くなりますよ! 旦那様と私の間にそういうことは一切起こっていないんですから!」
「えっ! と、言いますと……?」
「あの人はあなたたち使用人の目を欺くために偽装をしたんですよ! くそおお! あっちがその気なら……。今にみてろ! やり返す! 絶対にやり返す!」

 昨日の儀式前、一瞬でも、かっこいい、と胸をときめかせた自分が馬鹿だった。
 彼は氷の公爵と巷では呼ばれているが、実情はただのロマンティックヘタレ野郎だったのだ。

 さすがシャルルとも付き合いの長い侍女だ。シャルルの考えそうなことはすぐにわかったようだ。
 そうして、ベッドに蹲るミラジェを見て何が起こったのかを大体察し、怒りをあらわにする。

「な、なんですって~! あんのっ! ヘタレ坊ちゃんめっ!」

 アレナは飛び出すように、部屋を出る。きっと、真っ直ぐにシャルルのところまでいき、シャルルを詰めるに違いない。

 領主と親しい侍女というのは大変頼りになるということを、ミラジェは思い知ったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】昨日までの愛は虚像でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...