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私はどうやら妻ではなく猫だったらしい5
しおりを挟む翌朝。
眠い目を擦りベッドから起き上がると、アレナが満面の笑みで、ミラジェの方を見ていた。
「おめでとうございます」
「へ?」
何がおめでとうなのだろうか。自分は役目を完遂できず、不甲斐ない気持ちでいっぱいだというのに……。ミラジェは頭にはてなを大量に浮かべる。
「大丈夫ですよ。お体が辛いでしょう」
どうやらアレナはミラジェたちがそれを完遂したと勘違いをしているらしい。
「ええっと……アレナは何を思ってそれを……?」
そう、ミラジェが口にしようとし、みじろぎをすると真っ白なシーツの真ん中に小さな赤い染みが映る。
なんだあれは。
行為が行われていれば、ああいう染みがつくこともある、ということは家庭教師に教えられており、ミラジェも知っていた。
しかし、昨夜、二人の間にそれは起こらなかった。
もちろんミラジェはただ寝ていただけなので、どこも怪我はしていない。……ということは、シャルルが行為があったと見せかけるために自身の血液を落とし、偽装したのだろう。
己の保身のために。
ミラジェは怒りでワナワナと震え出す。
「あの男ぉ~! 馬鹿にした真似をっ!」
ミラジェは怒りのままに、ボスンとベッドを殴り叩き、うううー! と獣のように唸り声を上げた。ベッドのスプリングがギシィ、キィィイと不穏な音を立てている。
そんな主人の様子を見て、アレナは目を丸くしてギョッとさせる。
「ど、どうしたのですか! 若奥様、お加減が悪うございますか?」
「お加減も悪くなりますよ! 旦那様と私の間にそういうことは一切起こっていないんですから!」
「えっ! と、言いますと……?」
「あの人はあなたたち使用人の目を欺くために偽装をしたんですよ! くそおお! あっちがその気なら……。今にみてろ! やり返す! 絶対にやり返す!」
昨日の儀式前、一瞬でも、かっこいい、と胸をときめかせた自分が馬鹿だった。
彼は氷の公爵と巷では呼ばれているが、実情はただのロマンティックヘタレ野郎だったのだ。
さすがシャルルとも付き合いの長い侍女だ。シャルルの考えそうなことはすぐにわかったようだ。
そうして、ベッドに蹲るミラジェを見て何が起こったのかを大体察し、怒りをあらわにする。
「な、なんですって~! あんのっ! ヘタレ坊ちゃんめっ!」
アレナは飛び出すように、部屋を出る。きっと、真っ直ぐにシャルルのところまでいき、シャルルを詰めるに違いない。
領主と親しい侍女というのは大変頼りになるということを、ミラジェは思い知ったのだ。
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