氷の公爵と呼ばれた旦那様はただのヘタレですし、妻の私は子猫です

菜っぱ

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おや……妻の様子がおかしい…… 4

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この無茶な結婚を押し通すために、シャルルは一ヶ月間、奔走しっぱなしだった。

 現実的に考えて、爵位の低い男爵家の娘が公爵家に嫁ぐのは、一般的な婚姻とは言えない。いくら王命だといえどあまりにも身分差が大きすぎる。

 そこでシャルルはミラジェをエイベッド家につつがなく嫁がせるために、国の西方に広い領地を持つテイラー侯爵家に協力を仰いでいた。
 一度、ミラジェを侯爵家の養子に入れ、そこから嫁入りをする__戸籍ロンダリングを依頼したのだ。

 侯爵家は、国内の中では比較的穏やかな気質を持った家だった。領主を勤める、テイラー侯爵家は堅実な領地経営を長年続けていることで有名で、まだ領主としては年若いシャルルにも敬意を示す、なかなかの人徳者であった。

 大体の人間がシャルルが領主を勤めるエイベッド家を怪獣すべく、擦り寄るような態度をとるか、若いシャルルを見くびって、自分の傀儡にしようと企む中、きちんと一線を引く態度をとるテイラー侯爵家は、貴族家の中でもまともな神経を持ち合わせていると言える。

 そして、できればシャルルは、人格者にミラジェを預けたかった。
 もともと、家族に蔑ろにされてきたミラジェは、人と関わる際、微かに怯えた様子を見せる。
 その姿を見るたびに、シャルルはミラジェの境遇を想像し胸を痛めてしまう。

 しかし、テイラー侯爵家にミラジェをお願いすることは容易ではなかった。最近、侯爵家領内に新たに建設された、工業地域から排出される汚水の被害で経済に影響が出ていたからだ。侯爵家はその対応に追われていた。

 そんな自領が大変な状況下で、ミラジェを養子に入れる余裕は侯爵家には正直なかったはずだ。しかし、侯爵は快くシャルルの申し出を受け入れてくれた。

「あなたの国内での働きぶりは私どもも存じております。私どもがお力になれることであれば引き受けましょう」

 そう言ってくれたテイラー侯爵のなんと頼もしいことか。

(この恩は決して忘れられないな。もし万が一侯爵家の汚水被害の収拾が付かなくなった場合は、負債をエイベッド家で引き受けよう)

 シャルルはいつもこうして、面倒ごとを次から次へと抱え込んでしまうのだ。
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