氷の公爵と呼ばれた旦那様はただのヘタレですし、妻の私は子猫です

菜っぱ

文字の大きさ
上 下
24 / 69

おや……妻の様子がおかしい……2

しおりを挟む

 しかし考え方を変えればそれは必然だったのかも知れない。ミラジェは特殊な環境下で生きている期間が長かったので、ある一定の条件下__ルールがある環境に適応するのが得意だったのだ。

 下町のルールは母子二人で助け合い、小さな暮らしを保つこと。
 アングロッタ男爵家のルールは義母と姉達に逆らわず、家の最下位の立場を持つ者として、相応しい態度で虐げられること。

 早く身を馴染ませなければ、命を失いかねない状況に置かれると、人は意地でも成長しようとするものだ。

 そして肝心のエイベッド公爵家ルールは、王族を除けば、王国内最高位の公爵家になる家の女主人として相応しい教養と振る舞いを身につけ、この家を継ぐ、正統な後継を生み出すことだ。

 シャルルの血を引く人間を誰もが欲していることは、幼いミラジェにも明らかな事実だった。

 使用人達は皆、ミラジェが後継を生むことを期待している。ミラジェのことを“若奥様”と呼んで、心から慕ってくれているのは、その役割を達成するための助力でもあるのだ。

 それまでの環境が劣悪すぎたミラジェにとって公爵家のルールは今までのルールの中で一番ぬるい。最低限人権が確保されているように感じるし、それほど苦ではなさそうだった。
 強いていえば、女主人として相応しい振る舞いをするために、さまざまなことを一気に学ばねばならないことは大変であったが、知識に飢えていたミラジェにとってはそれも楽しいご褒美のように思えてしまう。

 一つも弱音を吐かず、黙々と学び続けるミラジェの姿を目の当たりにした、エイベッド家の使用人たちは、感心しきりだった。

 結婚式の当日も朝早くから、来賓者の名前と顔を一致させるべく、何度も最終確認を繰り返している。
 美しいドレスに見惚れることもなく、目の前にあるやるべき課題を片付けていく姿は、若いながらも、この家での女主人そのものだった。

 その様子をみて、侍女たちは口々に語る。

「若奥様は本当に真面目な方ねえ……」
「本当に。あんな詰め込むのも無理な量のお勉強を完璧にこなしてしまうなんて」
「初めはあまりにもお若かったから、シャルル様は特殊なご趣味に目覚めてしまったのだわと、悲観的に思ってしまったけれど、あのご様子を見ると若奥様は素晴らしい素養を持った方なんじゃないかしら。どこか肝も座っているところもあって、とっても頼もしいわ」
「それに、何をしても、“ありがとう”と花が綻ぶような笑顔で言ってくださるところも、グッときますよねえ……。本当に仕えがいがある方です」

 使用人達はうんうん、と頷き合う。

「シャルル様の目は確かだったのかもしれません」

 ミラジェの頑張りは、シャルルの評判を上げるにも一役買っていた。
 しかし、当の本人は打算だらけだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...