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いらっしゃいませ! 若奥様!4
しおりを挟むパクリと小さな口が動く。
大きな手を持つシャルルが二本指で摘めるくらい小さなサンドイッチをミラジェは両手で掴んで食べていた。
一口で食べることはせず小さな口で少しずつ咀嚼をする。
シャルルはそのかわいらしい少女の様子を、じいっと見ていた。
(こういう小動物の絵を小さい頃絵本で見た気がする……なんともかわいいな)
口に食べ物が運ばれるたびに、目を微かに輝かせるミラジェのかわいさにシャルルは目元をうっすらと紅色に染めた。
ゆっくりと時間をかけて一切れサンドウィッチを食べ切ったミラジェは膝に手を置いて、固まってしまった。
「もう食べないのか?」
「食べたい気持ちはあるのですが、もうお腹がいっぱいで……」
か細く、空気に溶けてしまいそうな声だった。
ミラジェはいちごのサンドウィッチをじっと眺めながらも、首を横に振った。
本当に、もうこれ以上は食べられないらしい。あまりの少食さにシャルルは目を瞠る。
(いくらあと一月で十五になるといっても、この子はあまりにも成長が芳しくない。もしかしたら、男爵家で暮らしていた頃は満足に食べ物も与えられていなかったのかもしれない)
果たして、このか弱い子供を自分の妻としてしまうことは、ミラジェにとって幸せなのだろうか。不幸な事故と行ってもいい自体に巻き込んでしまったことを悔やみ、考え込んでしまう。
シャルルは生来優しい性格で、自分の利益よりも他人の利益を優先する気質であった
長い間独身でいたのにも理由がある。
歴史ある高貴な血筋であるエイベッド家は、他の貴族よりも王家に近い存在であった。
公務や後継問題などの問題が山盛りの書類のように積まれる、ただでさえ気苦労が多い立場だ。公爵夫人はその補助を求められる。社交界でのパワーバランスを整えることであったり、常に目新しい話題を提供し、その地位を保ち続けることであったり……求められる内容は多種多様だ。
それに加えて、公爵家は恨みを買うことが多いため、不届きものに命を狙われることも多い。もちろん、公爵夫人も狙われる立場にある。今日のミラジェの出現やホーライド家の御令嬢の登場だって、最初は刺客か、とジャンと共に身を硬くしたのだ。
シャルルも剣の腕はたつが、従者のジャンはいざという時、主人の盾となるよう訓練を受けている。
最初は見目で釣られた女性たちだって、その気苦労を知ればきっと離れていってしまうに違いないとシャルルは考えていた。
実際、シャルルの母親はその気苦労と重圧に負けて、シャルルの少年時代、父である前公爵と離縁している。
その経験が、シャルル自身の呪縛にもなっているのだ。
そんな思いを抱えるシャルルは、危うい立場にいる自分の人生に巻き込んでしまったミラジェに対して心底申し訳ないと思っていた。
どうせ巻き込んでしまうのであれば、精一杯幸せだと思ってもらえるよう、環境を整えよう。それがミラジェにできる最大の贖罪だ。
__もしかしたら自分は、この子供の療育を天から任されたのかもしれない。
シャルルはサンドウィッチも完食できぬほど胃袋が小さく、細く脆い体を持つミラジェを眺め見ながら、そんなことを考え始めていた。
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