氷の公爵と呼ばれた旦那様はただのヘタレですし、妻の私は子猫です

菜っぱ

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いらっしゃいませ! 若奥様!3

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(わあ……なんて素敵なの。まるで植物園の温室みたい)

 テラスというのだから、出窓の延長線のような空間かと思いきや、招かれたのは暖かな地方でしか咲かない花々が集められた素敵な温室だった。

 ここも先ほどまでいた舞踏会会場と同じく、ガラス張りになっていて、月や星の明かりが柔らかに差し込む。舞踏会会場の作りが好みだったミラジェはこの場所にも同じように心を奪われた。
 それと同時に高貴な人々は、こういった何気ない空間にもお金をかけるのだと、階位の違いを見せつけられたような気もしてしまう。

 中へ進むと、ソファとテーブルが現れる。ソファには可愛らしい薄緑色のタッセル付きふかふかのクッションが敷かれており、なかなかに居心地が良さそうだ。

「ミラジェ、こちらに座れるかい?」

 シャルルが優しく促す。

 ミラジェはたじろぎながら、ちょこんと置物のように座った。
 向かい合うようにシャルルが座る。目の前にいる男は、三十を超えているというのに、恐ろしいくらいに若々しく皺ひとつない。
 月明かりに照らされたシャルルは繊細な彫刻のように儚く、美しかった。

(え、冗談でもなんでもなく、私こんな綺麗な人と結婚するの?)

 その状況を認識したところで本日三回目の目眩を覚える。

 しばらくすると、先程の侍女、アレナがサービングカートを押しながら、テラスに入ってきた。

「軽く食べられるサンドウィッチと紅茶をご用意しました。もしかして若奥様は甘いものがお好きかしらと思って、しょっぱいものの他にいちごのサンドウィッチもご用意したんですよ。もし、お嫌でなければお召し上がりください」

 ミラジェはありがたい申し出に、ペコリと軽く頭を下げた。
 その様子をじろりと横目で見たシャルルは苦言を呈す。

「……アレナ。さっきからミラジェのことを若奥様と読んでいるが、まだ彼女は正式に妻となったわけではない。彼女が萎縮しては可哀想だからせめて名前で呼んではくれないか?」
「あら。おかしなことを言うのですね。坊っちゃん。いいではないですか。早いうちから若奥様と呼ばれることに慣れてしまった方が後々楽かもしれませんよ?」
「俺のことはまだ、坊っちゃん呼びなのか……」
「青臭さが抜けないうちは永遠に坊っちゃんですわ」

 アレナのつれない受け答えに、シャルルは頭を抱え、掻きむしる。
 ミラジェは氷の公爵と呼ばれ、恐れられていたシャルルがあまりにも卸やすく、使用人にまで揶揄われている様子を見て既存の印象とのギャップに困惑していた。

「はあ……。俺もまだまだ、鍛錬が足りないようだな。ミラジェ。食べられるかい?」

 シャルルの声にコクリと頷き、ミラジェは恐る恐るサンドウィッチに手を伸ばした。
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