白兎令嬢の取捨選択

菜っぱ

文字の大きさ
上 下
43 / 57
第一章 大領地の守り子

42入学試験は受けられないのですか⁉︎

しおりを挟む
 
 緑が生い茂る、陽気の良い夏の日。わたくしの十二歳の誕生日が近づいてきました。
 いよいよ騎士学校への入学試験の日が近づいてきたのです。

 騎士学校の入学試験は筆記試験と実技試験に分かれています。

 入学試験を無事にクリアするために、筆記試験は資料室にお兄様たちが保存していた過去問を繰り返し解いたり、出題が想定される歴史部分を重点的に勉強いたしました。

 わたくしは歴史を覚えるのはそこまで得意ではありませんが、根性で覚えるしかありません。騎士になるにあたって、近代の歴史は抑えておかないと対立国の内情などがわかりませんからね。

 その他にもハルツエクデンでは内乱が起こったこともありますから、どの領地がどの派閥に属しているかなども知っておかなければなりません。
 
 今だと第一王子をお産みになった王妃様の出身地であるセンドリック公爵家の派閥か、第二王子をお産みになってその後亡くなった側妃様の出身地であるクルゲンフォーシュ伯爵家の派閥が国内にありますね。あとはまだ正式には婚姻が済んでいませんが、ラザンタルクの姫が和平のために迎えられています。

 ラザンタルクの姫が王に嫁ぐにしても、王とはかなり年齢差がありますから、もしかしたらどちらかの王子と婚姻を結ぶ方向に切り替えられるかもしれません。王となるのであればは他国よりも国内の権力者との繋がりを持たねばいけませんから、その場合、きっと王位を継がない方の王子にあてがわれるのではないでしょうか。

 推測なのでどうにも予想がしにくいですが、今後の王位継承争いの動向には注意しておいた方がいいでしょう。ラザンタルクとは何度も戦ってきた歴史はございますが、隣国なので、ラザンタルクの系譜を持つ領地持ちの貴族もこの国には存在しますもの。

 まあここは問題にしにくいところなので、入学試験に出るかは謎なのですが。入隊した後は必ず必要になる知識です。
 ただ、こういった知識を学ぶと騎士になるには知識も必要なんだ、とあらためて考えさせられます。
 
 実技試験の対策ももお兄様の力を借りたり、先生の身代わり人形を使ったりして、対策を練ってきました。
 基本的な体力をつける走り込みや素振りは欠かさず行っていますし、怪我をしないように柔軟体操も寝る前に毎日行っています!
 それを見たラマに何をやっているのかとドン引きされてしまったのですがね……。わたくしはただベッドでブリッジをしただけです。

 あとは農村にこっそり行って魔獣を狩ったりもしてますからね。
 実戦形式の試験でも十分に力を発揮できるでしょう。

 完璧!とは言い切れませんが、わたくしのできる全てを注ぎ込んだつもりです。

 あとは会場で力を発揮すればいいだけ、と思っていたのですが……。

 どうして、前日に問題が発生するのでしょう。





 試験の当日王都にに向かうため、朝早くお父様に出発の挨拶をするためにに面会をいたしました。

 お父様は騎士になること自体にはやはり、反対していましたが、しばらく経つと勝手にしたらいいというようになっていました。
 わたくしはそれを了承だと捉えていました。

 お父様の従者であるベルグラードづてに面会の先触れを出し、わたくしはお父様の執務室に向かいます。






「お父様、騎士学園の入学試験を受けに王都に向かいます。その出発前のご挨拶をしに参りました」

 それを聞いたお父様はそんなんこと初めて聞いた、とでも言いたげな顔で目を見開いています。お父様だって、今日が騎士学校の入学試験だということは知っているはずです。

「お前は……。諦めたのではなかったのか?」
「わたくしがいつそんなこと言いましたか? きちんと入学試験に向けて準備を着々と進めて来ましたよ?」
「最近は大人しくしていたかと思っていたのだが……。思い違いだったか」
「お父様が、どの様にお考えかは知りませんが、わたくしは騎士学校の入学試験に行ってまいります。では……」

 挨拶をさっと終わらせ、踵を返そうとするとお父様の声に引き止められます。 

「ちょっと待ちなさい! 駄目だ。この家の当種としてお前が騎士になる、ということは許容しかねる。
 何度言ったらわかるんだ!」

 声を荒らげるお父様の言い方に、わたくしは瞠目してしまいます。

「お父様はわたくしが剣のお稽古をするのを許容してくれたじゃないですか!?」
「他の家に嫁ぐものとして自分の身は守れるように許可しただけだ。
 騎士学校に入学するためじゃない」

 てっきりもうお父様はわたくしに関わる事柄は放任しているのかと思っていました。それなのに、何も許してくれていなかったなんて……。わたくしは怒りに拳を震わせます。

「ひどいです!
 もうこうなったらお父様の許可なんて要りません!
 自分の力で会場まで行ってやります!」

 お父様が許可して下されば、馬車で試験会場の中央まで行こうと思ってましたが、この様子だとそれも難しいでしょう。
 領主の許可もなく、場所を屋敷から出すことはできないのです。

 幸い、わたくしは中央行きの魔法陣を先生の元で作成済みでした。何事にも念を入れておいた方がいい、という先生の助言の元に行動していていたことが吉と出た様です。

 それに気がついたのか、お父様は腕を掴みます。

「待て!」

 お父様は咄嗟に魔法陣を発動させ、私の腕に鞭のようなものを巻き付けました。それは先生の家に入ったあの王子が使った捕縛の魔法陣に似た、強力な魔法陣でした。

「なっ!」

 勢いよく放たれた鞭を避けることもできませんでした。その端がギュッと結ばれてしまうと、解けなくなってしまいます。

 それが攻撃だと見做されたのかわたくしに掛けてあった防衛の魔法陣が反応し、ピカリと鋭い光を放ちます。ズガンと大きな音がお父様の方から聞こえ、煙がもやもやと上がっています。

「実の親を攻撃するとは何事だ!」
「お父様が攻撃だと判断される様なことをしたのがいけないんですよ! 防衛の魔法陣とはそういうものですから!」

 あまりにも大きな音が屋敷中に響き渡ったのか、焦った顔をしたお母様が慌てて執務室に現れました。

「何事ですか!」
「お母様! お父様がひどいのですよ! わたくしを縛りつけようとして!」
「リジェットが妙なことを言い出すからだろう!」

 ぎゃあぎゃあと貴族らしくない言い合いを続けるわたくし達を、見たお母様は鋭利な視線でわたくし達を睨みつけます。

「だからって……。こんな騒ぎを起こすのではありません! 屋敷のものが驚くでしょう!」

 いつもお父様に従順な態度をとっていたお母様がこんなにスッパリお父様を叱るだなんて、思っても見なかったためわたくしは驚いてしまいます。

「お、お母様……」
「セラージュ様も! リジェットを縛るのはおやめください!」
「縛って置かんと、逃げようとするからだ!」

「資金なら、あります! わたくし自分で入学試験費も授業料だって払えますから!」

 そう言い放つと、お父様もお母様も驚いた顔をしています。

「ハーブティーの事業はそこまで短期的に資金を集められる様な事業ではないはずでしょう。どこからそんな資金を集めてきたのですか?」

 お母様はハーブティー事業の収支が騎士学校の入学金は払えても、授業料を払えるほどではないことを知っているので、どこから資金が来たのか不思議そうな顔をしています。
 大体の資金源はミームの女性達に書いていただいた魔法陣です。そちらは知っていても、ハーブティーの事業については何も聞いていないお父様は、それを聞いて、なんだそれは、と言わんばかりの表情を見せています。

「わたくしには別の事業だってあるのですから!」
「え、ハーブティーの事業じゃないの?」
「魔法陣の売買以外もやっていたのか?」
「両方やってましたよ! わたくしは手広いのです!」

 お母様とお父様、それぞれに伝わる様にわたくしは言い放ちます。
 お母様は血の気の引いた蒼白な顔でわたくしを見つめています。

「リジェット……。あなたって子は……。すごいわね」

 お母様は特に怒ったりはしていないようです。ただただ驚いている感じでした。お母様はわたくしが騎士になることにそこまで反対していませんものね。

「お母様は自分の後ろ盾になる派閥を作りなさい、とわたくしにいってくれたでしょう? わたくしそれを参考にして組織を作り上げました!」

 組織……? と消えそうな声で呟いたお母様は頭を抱えています。

「わたくしは一言も組織を作れなんて申しておりません! 派閥というのは……、嫁ぎ先でも連絡が取れるような貴族の女の子友達を増やしなさい、という意味だったのだけども……。はあ……。あなたって子は予想外で突飛なことをするね」
「突飛って……。わたくしはただお父様が領地経営上手が回っていないところを助けようと思って……」

 お父様はおばあさまが発展させた手工芸の事業をうまくうけつぐことはできていませんから、わたくしがその取りこぼしを救うのは当然のことでしょう。

 そんな顔で言うと、お父様は得体の知れないものを見る様な顔でわたくしの方を見てきます。
 呆れで何も言えなくなってしまったのか、部屋の中には先ほどの騒がしさと打って変わって、静寂が広がっていました。

 その静寂を打ち破ったのはお父様でした。
 眉間に渓谷の様に深い皺を作り、はあ……と深いため息をついたお父様はわたくしを見据えて言葉を紡ぎ出しました。

「はあ……。もういい。お前は頭を冷やして反省しろ」
「お父様⁉︎」

 お父様はわたくしに近づくと、わたくしの頭の上にパンっと手を乗せます。とっさに魔法陣を起動させようとすると、同時にお父様は魔法陣に魔力を注ぎます。すると、自分で描いたはずであるの魔法陣が全く動かなくなってしまいました。魔法陣が使えない⁉︎  

「リジェットは知らなかったのか……。複数の人間が同じタイミングで魔法陣を使おうとすると魔力量が多い人間が優先的に使用することができるからな。お前と私の魔力量は比べるまでもないからな。使用権を私が手放さない限り、お前は今持っている魔法陣を使うことはできない」

 そんなの初耳です! わたくしは今持っている魔法陣を使うことができないと言うことですか⁉︎

「魔法陣を新しく描くことがない様に見張りをつけて、自室に閉じ込めておけ!」

 お父様の指示のもと、わたくしは両肩をそれぞれ使用人に捕まれ自室に強制送還をされてしまいました。
 こうしてわたくしは入学当日に家に軟禁されてしまったのです。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。 一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。 そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。 ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!! その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。 自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。 彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう? ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。 (R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします) どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり) チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。 今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。 ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。 力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。 5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)> 5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります! 5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...