死に花バロメーター

菜っぱ

文字の大きさ
上 下
6 / 6

しおりを挟む


「ねえ、なんでいきなり同居したいなんて言い出したの?」

 真新しい、新築の匂いがする新居での荷解き中。溢れる段ボールと格闘していた私はそうちゃんに尋ねる。

「このまま、放っておいたら、絶対にきょうちゃんが先に死ぬ未来しか見えなかったから。すぐご飯抜くし、寝ないし、昼夜逆転してるし」
「うっ! なんも言い返せねえ……」
「だから、僕が見張ることにしたの」

 そうちゃんは邪悪な顔でにっこりと笑う。すごい! 闇堕ち主人公みたいなセリフだ!

「……そんなに私が先に死ぬのが嫌なの? 年齢差考えたら、順当じゃん」
「僕は女性長寿説を推す」

 私とそうちゃんは歳が四歳離れているから、きっと私の方が早くあの世にお呼ばれするに違いないのに。そうちゃんはいかにしても運命に抗いたいらしい。
 やれやれ、とも思ったが、彼に愛されてるなあとも思えたので、許容することにした。

「僕に死に花を用意させるなんて真似、絶対許さない」

 そうちゃんはポロリと一粒、涙を流した。

「あらあ」
「ごめん、人前では泣かないって決めてたのに、気持ちが昂ったら涙が………」
「いいじゃん、一緒に暮らすんだから、私の前では存分に泣いちゃって! それに男の涙って、色っぽい! 最&高!」

 そう親指をグッと立てながら、あっけらかんと言い放つと、彼は「何それ……」と、力が抜けたようにヘニョりと笑った。

「いつも泣き言言っちゃってごめんね……」
「いいや、そうちゃんが泣き言言わなくなったら、そっちの方がやばいなって思うもん」
「じゃあ反対に、いつも泣き言言わないきょうちゃんが言い始めたら、本格的にやばいってことだ。」
「それはそうかも」
「なるほど……これも一つバロメーターだね」

 そうちゃんが思案するような表情を見せる。

「ん?」
「相手が大丈夫か、すぐにわかるバロメーター」
「なるほどね!」

 はっはーん、と納得していると、そうちゃんは素敵な物憂げ顔で私の顔を見つめている。

「なるべく、負担をかけないようにするから、長生きしてね、きょうちゃん……」

 へにょへにょ顔のそうちゃんに向かって、私は力強い笑顔を向ける。

「仕方ないから、長生きしてあげるよ!」

 泣き虫そうちゃんに死に花を用意させないためにも、長生きをしなくちゃいけない。
 私は同居を機に生活を改め、人間らしい生活を手に入れた。

 朝、ちゃんと起きるようになったし、部屋も綺麗になった。それに、ご飯も抜かなくなったことで体重が安定しだした。今までは食事って面倒で、作る気にもならなかったけれど、そうちゃんにも食べてほしいなって思えるようになったから、二人で作って、二人で食べるようになった。

 そうちゃんと生活をしていく中で、誰かを大切にすることは自分を大切にすることなんだなあってことが、やっとわかった気がする。

 きっとそうちゃんがいなかったら、私は早死にしてたと思う。彼の存在に感謝しなくっちゃ。
 自分の人生が幸か不幸か。バロメーターみたいに一目瞭然だったら簡単なのにと思うけれど、そうはいかないのが人生だ。それを決めるには多角的視点が必要で、一つの面だけを見て、簡単に幸福だとか、不幸だとか、判断するのは難しいから。
 だけど大切な人と、お互いに幸せでいるための努力を怠らずにいられたら。

 きっと、いい方向に作用しあって、より複雑で味のある人生という物語を紡げると、私は信じているのだ。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

飲みに誘った後輩は、今僕のベッドの上にいる

ヘロディア
恋愛
会社の後輩の女子と飲みに行った主人公。しかし、彼女は泥酔してしまう。 頼まれて仕方なく家に連れていったのだが、後輩はベッドの上に…

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

腐女子のゼンリツセン

志野まつこ
恋愛
【NL】過去数回の性体験がイマイチでRシーンが書けず「少女漫画みたい」と人気低調なBL漫画家の文乃が「プロにお願いして勉強します」と決意するも、真面目敬語メガネから脱ぐとすごい冷徹メガネに豹変した担当編集者を相手に実地訓練するお約束なやつ。 「やぁん、前立腺ダメ、前立腺すごいぃっ」「Gスポだバカタレ」なアホエロ。品はないけど愛はある。BL漫画事情はフィクションでBLもTLもイケる方向けです。BLコミック未経験の方にはかなり意味が分からない内容となっています。すみません。他サイトでも公開中。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...