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強襲の?凸凹兄弟

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「いよっし、腹も一杯なことだし、いっちょやりますかぁ!」
――1時間ほど経った後。アサヒは件の洞窟前まで到着し、ぐるぐると腕を回して意気込むような仕草をとっていた。
そんな彼を見つめる、二つの影。

「ややや、やっぱやめようよ、兄さん」
一人は声を震わせる、小柄な弟モール。
「いや!俺たちはやるんだ!」
もう一人ははきはきと喋る、大柄な兄トール。
布を顔に巻き付けてこそいるものの、その背格好は対照的。そんな二人はいったい、何をしようというのだろうか。

「盗賊の真似事なんて、俺達には無理だよ、やっぱやめようよぉ」
「いいか?弟よ。俺達には後がない!やるしかないんだ!」
答えは単純。適当な旅人から、金品を巻き上げようというのだ。そしてその標的に選んだ相手が、アサヒだったという訳だ。

「さぁ行くぞ!俺たちの明日はすぐそこだ!」
「待ってよぉ~っ!」
トールは洞窟へと入ってゆくアサヒを追い、意気揚々と進み始める。それをつまづきながら追いかけるモール。
明日どころか、すぐそこに命の危険が迫っているということも知らずに――



(随分薄暗いんだな)
《洞窟だからな、当たり前だろう》
(まぁ、それもそうか)
薄暗い洞窟の中を歩きながら、二人は精神内で会話をかわす。
洞窟など、生まれて初めての体験だ。アサヒは内心、湧き上がるワクワクを抑えられずにいた。
そんな時。

「止まれぃっ、そこの青年!」
「と、とまれ~ぃ」
凸凹兄弟が、彼の行く手を阻むように立ちふさがった。

「何だお前ら」
呆れたように言い放つアサヒ。

「お前の持っている金目の物、全て寄越せぃっ!」
「じゃ、じゃないと刺しちゃうぞ~すっごい痛いんだぞ~あイテっ、自分の指刺しちゃった」
小さなナイフを見せびらかしながら、男たちはアサヒに金品を要求する。

《どうやら、盗賊のようだな》
(なんかマヌケっぽいけどな)
心の中で、そろって呆れる二人。

「さぁさぁ!」
「さ、さぁ~」
男たちは口々に催促するが、当然聞き入れる気はない。ならどうするか。

「へっ、付き合ってられっかよ!」
答えは一つ。振り切ってしまうに限る。アサヒは軽く助走をつけると、片足で踏み出したのちに体をひねる、所謂ロンダートの形で高く跳躍。男たちの頭上を飛び越えてしまった。
そして着地後、全力で駆け出した。

「おお、すごい」
「感心してる場合かっ!待てぇーいっ!」
しばらくしてから二人も彼を追い、走り出した――




「ぜぇっ、ぜぇっ……見つかったか?」
「はぁっ、はぁっ、何にもぉ」
数分後。アサヒに逃げられてしまった彼らは、すっかり息を切らしてしまっていた。
岩場に腰掛け、うなだれる二人。
そんな時だった。

ポタリ。
「ね、ねぇ兄さん。今、何か落ちなかったかい?」
ムアァ……
「弟よ。何か生暖かい風が吹かなかったか?」
彼らは妙な気配を感じ取り、きょろきょろと辺りを見回す。すると――
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