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03 屋敷、そして謎の石
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「今朝はどうもありがとうございました」
「私からも、お礼申し上げます」
「いえ、俺は別に……ほら、ね?」
馬車の中、丁寧に頭を下げる少女――と、その隣でやはり頭を下げる、執事服の男。
正直、ここまで丁寧に言われると落ち着かない。俺は二人に笑って見せ、それとなくやめてもらうように促した。
「私はエンデ・ルーインズと申します。こちらは執事のセバス」
「よろしくお願いいたします」
「ご丁寧にどうも、俺はアヤツジ・ケイトです。それにしても、何で俺を馬車に?」
「ちゃんとお礼がしたくって」
そう言って、彼女は微笑む。
どうやらこの馬車は彼女らの屋敷へと向かっているようだ。
そこまでしてもらうのは少し気が退けるが、厚意を無下にはできない。
ここは素直に行くことにしよう。
「……やっぱり、夢じゃないんだな」
窓から覗く景色に、ふと言葉が漏れる。
レンガや木を主とした作られた建造物が立ち並び、当然ビルなんかどこにもない。
道行く人の中には、鎧を身にまとい、武器を背負う人もいる。
煙たい排気ガスの煙や眩いネオンの光、けたたましいクラクションの音も聞こえない。
一面の青空と澄んだ空気、鳥のさえずりが広がっている。
地球に住んでいる時では考えられない光景に、ますます実感が沸く。
ああ、俺は今、異世界にいるんだな――と。
「……どうかしましたか?窓の外に何か?」
「あ、いえ。何でもないです、あはは」
そんなことを考えている俺を、少女の声が現実へと引き戻した。
見ると、エンデが不思議そうにこちらを覗き込んでいた。笑って誤魔化し、彼女の方へ向き直る。
そうこうしているうちに、遠くのほうに屋敷らしい建物が見えてきた――
※
「こちらです、ケイト様」
「ほぁ……すげ」
何とまぁマヌケ全開な声を漏らしながら、辺りを見回す。
天井高っけぇ……部屋すげぇ広い……うわ、肖像画まである……
と、庶民丸出しの貧相な感想を心の中で呟きつつも、案内されるがままに屋敷を進む。
そうしているうち、エンデが立ち止まる。どうやらここが、目的の部屋らしい。
豪華な装飾の付いた扉を開くと、そこには大広間が広がっていた。
中央には大きな円卓があり、部屋の奥には暖炉がある。天井からはより一層大きなシャンデリアがぶら下がっていて、とても綺麗だ。
俺とエンデが向かい合うようにして座ると、セバスさんが歩いてきた。その手には、これまた美麗な装飾の付いた皿を持っていた。
どうぞ、と机へ置かれた紅茶を一口飲み、緊張感で乾いていた喉を潤す。
「お口にあえばいいのですが」
「いえ、とんでもないです。おいしいですよ」
「よかった」
何気ない会話をかわした後、エンデが姿勢を正す。俺もそれにつられ、背筋を伸ばした。
「改めまして、私はルーインズ家の長女、エンデ・ルーインズと申します。この度は暴漢より助けていただき、本当にありがとうございました」
そう言い、深々と頭を下げるエンデ。幼い容姿ながら大人顔負けのふるまいを見せるその姿は、まさしく貴族と言ったところだろうか。
「いえ、俺は大したことはしてませんよ。ただ偶然、巻き込まれただけです」
「それでも、貴方があの男を抑えたのは事実です。あの時見せたあの素晴らしい身のこなし、只者ではないとお見受けします」
「いや、そんな……」
そこまで褒めちぎられると、少し、いやかなり恥ずかしい。これ以上はたまらないと、話題を変えるべく、言った。
「そ、そうだ!あの時、何故男はあのケースを狙っていたんですか?」
それはあの騒動の原因であろう謎のケース――俺がセバスさんから手渡されたあれについての話題だった。
「……そうですね、貴方にはお話ししてもいいかもしれません」
そう言うと、エンデはセバスを見て、頷く。それに彼も応え、部屋を出て行った。
そしてすぐに戻ってくると、机の真ん中へケースを置く。
どうやら、思ったより重大な話になりそうだ――俺は唾を飲む。
そして――ケースが開かれた。
「これは……石?」
その中に入っていたのは、石――そうとしか言えない物体だった。
黒く、丸いその石は艶こそあるが宝石ほどの輝きは無い。
正直、何故あの男がこれを狙っていたのか見当がつかない。
それほど、俺の眼にはただの綺麗な石ころにしか映らなかったのだ。
「これって、一体?」
「それが……」
俺の投げかけた質問にエンデは目線を下げ、悲しげに言った。「私達にもわからないんです」と――
彼女の話を要約すると、つまりこういう事らしい。
屋敷の地下室にあったこの石は、どうやら祖先が残した者らしいが文献に残っておらず調べようがなかった。
その為分析してもらうべくレイヴンズまで向かっていたところ、あの男に襲われたらしい。
その後レイヴンズに解析をかけてもらったが、結局分からず仕舞いだったようだ。
「でも、正直何でこんなものを……?」
そう俺が呟いた、次の瞬間。
『私にお任せください』
俺の懐から、機械音声が響いた。マリスだ。
「だ、誰ですか?」
突然のことに驚くエンデ。俺はスマホを取り出しながら笑って言う。
「その……これ。魔法具?ってやつです」
「ああ、そういえばあの時もそれをお持ちでしたね……ごめんなさい、つい驚いて」
「こちらこそすいません」
互いに軽く頭を下げると、視線をマリスの方へと戻し、尋ねる。
「任せろ、ったってどうするんだ?」
『解析モードを起動してください』
「解析なんてできるのか!?」
『はい』
どれだけ多機能なんだ?このスマホ……とにかく、やってみよう。
「ヘイ、マリス。解析モード起動」
『かしこまりました。解析モードを起動します』
「ちょっと失礼しますね」
そう言うと、俺はスマホを石の上へとかざした。すると画面から光が放たれ、石をスキャンし始めた。
そして、わずか数秒後――『解析完了』の音声が鳴り響いた。
続いて、マリスが解説を始める。
『名称:メタモナイト。魔力に反応して分子構造を分裂、変化させ形状を自在に変える金属質の鉱石です』
そこまで聞いて、合点がいった。
仮にこの性質を兵器に転用すれば、どれだけ有用だろうか。
あの男が欲しがるのも無理はないと、そう思った。
けれど、同時にある疑問が生まれる。
「「何故、あの男がそんなことを……?」」
どうやら、二人して同じことを考えていたようだ。呟いた言葉が一言一句違わずに重なり合う。
これは何か、不穏なものを感じるぞ――と、思っていた時。
マリスが俺に尋ねてきた。
『学習しますか?』と――
「私からも、お礼申し上げます」
「いえ、俺は別に……ほら、ね?」
馬車の中、丁寧に頭を下げる少女――と、その隣でやはり頭を下げる、執事服の男。
正直、ここまで丁寧に言われると落ち着かない。俺は二人に笑って見せ、それとなくやめてもらうように促した。
「私はエンデ・ルーインズと申します。こちらは執事のセバス」
「よろしくお願いいたします」
「ご丁寧にどうも、俺はアヤツジ・ケイトです。それにしても、何で俺を馬車に?」
「ちゃんとお礼がしたくって」
そう言って、彼女は微笑む。
どうやらこの馬車は彼女らの屋敷へと向かっているようだ。
そこまでしてもらうのは少し気が退けるが、厚意を無下にはできない。
ここは素直に行くことにしよう。
「……やっぱり、夢じゃないんだな」
窓から覗く景色に、ふと言葉が漏れる。
レンガや木を主とした作られた建造物が立ち並び、当然ビルなんかどこにもない。
道行く人の中には、鎧を身にまとい、武器を背負う人もいる。
煙たい排気ガスの煙や眩いネオンの光、けたたましいクラクションの音も聞こえない。
一面の青空と澄んだ空気、鳥のさえずりが広がっている。
地球に住んでいる時では考えられない光景に、ますます実感が沸く。
ああ、俺は今、異世界にいるんだな――と。
「……どうかしましたか?窓の外に何か?」
「あ、いえ。何でもないです、あはは」
そんなことを考えている俺を、少女の声が現実へと引き戻した。
見ると、エンデが不思議そうにこちらを覗き込んでいた。笑って誤魔化し、彼女の方へ向き直る。
そうこうしているうちに、遠くのほうに屋敷らしい建物が見えてきた――
※
「こちらです、ケイト様」
「ほぁ……すげ」
何とまぁマヌケ全開な声を漏らしながら、辺りを見回す。
天井高っけぇ……部屋すげぇ広い……うわ、肖像画まである……
と、庶民丸出しの貧相な感想を心の中で呟きつつも、案内されるがままに屋敷を進む。
そうしているうち、エンデが立ち止まる。どうやらここが、目的の部屋らしい。
豪華な装飾の付いた扉を開くと、そこには大広間が広がっていた。
中央には大きな円卓があり、部屋の奥には暖炉がある。天井からはより一層大きなシャンデリアがぶら下がっていて、とても綺麗だ。
俺とエンデが向かい合うようにして座ると、セバスさんが歩いてきた。その手には、これまた美麗な装飾の付いた皿を持っていた。
どうぞ、と机へ置かれた紅茶を一口飲み、緊張感で乾いていた喉を潤す。
「お口にあえばいいのですが」
「いえ、とんでもないです。おいしいですよ」
「よかった」
何気ない会話をかわした後、エンデが姿勢を正す。俺もそれにつられ、背筋を伸ばした。
「改めまして、私はルーインズ家の長女、エンデ・ルーインズと申します。この度は暴漢より助けていただき、本当にありがとうございました」
そう言い、深々と頭を下げるエンデ。幼い容姿ながら大人顔負けのふるまいを見せるその姿は、まさしく貴族と言ったところだろうか。
「いえ、俺は大したことはしてませんよ。ただ偶然、巻き込まれただけです」
「それでも、貴方があの男を抑えたのは事実です。あの時見せたあの素晴らしい身のこなし、只者ではないとお見受けします」
「いや、そんな……」
そこまで褒めちぎられると、少し、いやかなり恥ずかしい。これ以上はたまらないと、話題を変えるべく、言った。
「そ、そうだ!あの時、何故男はあのケースを狙っていたんですか?」
それはあの騒動の原因であろう謎のケース――俺がセバスさんから手渡されたあれについての話題だった。
「……そうですね、貴方にはお話ししてもいいかもしれません」
そう言うと、エンデはセバスを見て、頷く。それに彼も応え、部屋を出て行った。
そしてすぐに戻ってくると、机の真ん中へケースを置く。
どうやら、思ったより重大な話になりそうだ――俺は唾を飲む。
そして――ケースが開かれた。
「これは……石?」
その中に入っていたのは、石――そうとしか言えない物体だった。
黒く、丸いその石は艶こそあるが宝石ほどの輝きは無い。
正直、何故あの男がこれを狙っていたのか見当がつかない。
それほど、俺の眼にはただの綺麗な石ころにしか映らなかったのだ。
「これって、一体?」
「それが……」
俺の投げかけた質問にエンデは目線を下げ、悲しげに言った。「私達にもわからないんです」と――
彼女の話を要約すると、つまりこういう事らしい。
屋敷の地下室にあったこの石は、どうやら祖先が残した者らしいが文献に残っておらず調べようがなかった。
その為分析してもらうべくレイヴンズまで向かっていたところ、あの男に襲われたらしい。
その後レイヴンズに解析をかけてもらったが、結局分からず仕舞いだったようだ。
「でも、正直何でこんなものを……?」
そう俺が呟いた、次の瞬間。
『私にお任せください』
俺の懐から、機械音声が響いた。マリスだ。
「だ、誰ですか?」
突然のことに驚くエンデ。俺はスマホを取り出しながら笑って言う。
「その……これ。魔法具?ってやつです」
「ああ、そういえばあの時もそれをお持ちでしたね……ごめんなさい、つい驚いて」
「こちらこそすいません」
互いに軽く頭を下げると、視線をマリスの方へと戻し、尋ねる。
「任せろ、ったってどうするんだ?」
『解析モードを起動してください』
「解析なんてできるのか!?」
『はい』
どれだけ多機能なんだ?このスマホ……とにかく、やってみよう。
「ヘイ、マリス。解析モード起動」
『かしこまりました。解析モードを起動します』
「ちょっと失礼しますね」
そう言うと、俺はスマホを石の上へとかざした。すると画面から光が放たれ、石をスキャンし始めた。
そして、わずか数秒後――『解析完了』の音声が鳴り響いた。
続いて、マリスが解説を始める。
『名称:メタモナイト。魔力に反応して分子構造を分裂、変化させ形状を自在に変える金属質の鉱石です』
そこまで聞いて、合点がいった。
仮にこの性質を兵器に転用すれば、どれだけ有用だろうか。
あの男が欲しがるのも無理はないと、そう思った。
けれど、同時にある疑問が生まれる。
「「何故、あの男がそんなことを……?」」
どうやら、二人して同じことを考えていたようだ。呟いた言葉が一言一句違わずに重なり合う。
これは何か、不穏なものを感じるぞ――と、思っていた時。
マリスが俺に尋ねてきた。
『学習しますか?』と――
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