20 / 20
20 変貌 マグニス・ラース
しおりを挟む
「おやおや、意外だね。あれに惑わされないとは」虚空に浮かぶビジョンを見つめながら、私はつぶやいた。
人の心の光を信じる――何とも美しい文句だが、故に気に食わない。
君にはもっと、思い悩んでもらわなければ。
そうだ。なら、こうしよう――
私はおもむろに立ち上がり、指を鳴らす。
「フフフ……さぁ、どうする?ハジメ君」
※
「オオオッ、テアッ!」
1撃、また1撃。確実な手ごたえとともに、次々に攻撃を加えるジェネス。以前手も足も出せずにいたことが嘘のような姿だった。
「いいぞ、押してる!」
それを遠巻きに見ていたルージュらもまた、彼の勇姿に活気づいていた――
「フン……」
ただ、一人を除いては。彼は鼻を小さく鳴らし肩を剣で軽く叩くと、いかにもつまらなさそうにその光景を見つめていた。
「さ、どうしたもんかね」
いまだ残り続けるドーム状のバリアの中にいるのは、彼一人。
回りを見れば、まるで屍人のようにそれを叩き続ける村人たちの姿。
マグニスが押されていることは別に大した問題ではない。むしろ、倒してもらわねば意味はない。
ベリルにとっては彼を――ハジメを自身の下へと引きずり込めなかったこと。その一点のみが不満で仕方なかった。
そして直後、そんな彼の不満はさらに増幅することとなる――
「ぐっ!?ぐぁ……!」
突如として、村人たちがうめき声を上げた。彼らは揃って胸を抑え、地面にうずくまり始める。
(これは……どうなってやがる)
自身にとっても想定外の出来事に困惑するベリル。だが、これだけでは終わらない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁーー!」
村人のうちの一人が天を仰ぎ、声を上げた。その瞳は血の色の如く紅く、妖しく光り輝いている。
その体は数秒も経たぬうちに光の帯へと変わり、天へと昇ると――
「!?」
マグニスの胸の中心で光る発光体へと吸収された。そして次々と同じことが起こり、村人のすべてが取り込まれた時、変化が起きた。
「グルル……ギャオオォォォ――ッ!」
5本の指は鋭利な爪を備えた三本の指へと変わり、背には巨大な翼。
揺らめく炎はそのままに、流線形に伸びた頭部と発達した胴とを結ぶ、太く長い首。
そして巨大化した全身の重量を支えるべくたくましく発達した脚部――
まさしく『竜神』と呼ぶに相応しい姿と化したマグニスの姿が、そこにはあった――
その光景を見ていたハジメもまた、驚愕の色を隠せずにいた。そしてその動揺は、隙を生み――
「がっ!?」
巨大な腕が、がしりとジェネスを握りしめた。
「くそっ……!この!」
抜け出そうともがく彼の姿を、赤い瞳がのぞき込む。その視線から、増幅された怒りと憎悪の念を感じるハジメ。
「このヤロ、そいつを離しやがれ!」
彼の危機に、見ているばかりではいられなくなったルージュが飛び出し、火球を放つ。
しかし、そんな攻撃が通じるはずもなく。
歯を食いしばり、諦めることなく攻撃を加え続ける彼女。
そんな彼女を鬱陶しく感じたのか。マグニスの視線が地上を向く。そして怪物はその口を開き――
「ルージューーッ!」
刹那。彼女を放たれた火炎が襲った。それは彼女を覆って尚地を焦がして直進し、木々を焼き尽くす。
照り返した炎が昼間のように空を照らし、煙が立ち込める。
「そんな……」脱力感がハジメを襲う。
またも大事なものを守れなかった絶望に、彼の心が染まろうとした、その時。
「ヌゥアアアッ!」
ベリルの叫びが、黒煙の空に轟いた――!
炎を裂き、黒き斬撃が宙を舞う。それはまっすぐにマグニスの元へと突き進み、
「グガッ!」直撃。軽く呻きを上げ、締め付けが弱まる。すかさず脱出し、距離をとるハジメ。
彼が地上を見やると、
「ったく、俺まで巻き込みやがって」
刀を振り抜いた姿勢のベリル、そして――
「……」
その後ろに立ち尽くす、ルージュの姿。
「お前、何で」
「あ?……ああ、いたのか」
ベリルはチラリとルージュを見やると興味無さげに返し、ハジメのほうを向く。
「邪魔が入った……また会おう、じゃあな♪」
そして口の端をにやりと上げ、影のように姿を消してしまった。
「ベリル……」
ルージュの無事に安堵する思いと、ベリルの行動に疑問を覚える思い。その二つが同時に去来し、複雑に混ざり合うままにつぶやくハジメ。
しかし、今は考えている場合ではない。
今やるべきことは、目の前のあれを止めることだと首を振り、向き直った――
人の心の光を信じる――何とも美しい文句だが、故に気に食わない。
君にはもっと、思い悩んでもらわなければ。
そうだ。なら、こうしよう――
私はおもむろに立ち上がり、指を鳴らす。
「フフフ……さぁ、どうする?ハジメ君」
※
「オオオッ、テアッ!」
1撃、また1撃。確実な手ごたえとともに、次々に攻撃を加えるジェネス。以前手も足も出せずにいたことが嘘のような姿だった。
「いいぞ、押してる!」
それを遠巻きに見ていたルージュらもまた、彼の勇姿に活気づいていた――
「フン……」
ただ、一人を除いては。彼は鼻を小さく鳴らし肩を剣で軽く叩くと、いかにもつまらなさそうにその光景を見つめていた。
「さ、どうしたもんかね」
いまだ残り続けるドーム状のバリアの中にいるのは、彼一人。
回りを見れば、まるで屍人のようにそれを叩き続ける村人たちの姿。
マグニスが押されていることは別に大した問題ではない。むしろ、倒してもらわねば意味はない。
ベリルにとっては彼を――ハジメを自身の下へと引きずり込めなかったこと。その一点のみが不満で仕方なかった。
そして直後、そんな彼の不満はさらに増幅することとなる――
「ぐっ!?ぐぁ……!」
突如として、村人たちがうめき声を上げた。彼らは揃って胸を抑え、地面にうずくまり始める。
(これは……どうなってやがる)
自身にとっても想定外の出来事に困惑するベリル。だが、これだけでは終わらない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁーー!」
村人のうちの一人が天を仰ぎ、声を上げた。その瞳は血の色の如く紅く、妖しく光り輝いている。
その体は数秒も経たぬうちに光の帯へと変わり、天へと昇ると――
「!?」
マグニスの胸の中心で光る発光体へと吸収された。そして次々と同じことが起こり、村人のすべてが取り込まれた時、変化が起きた。
「グルル……ギャオオォォォ――ッ!」
5本の指は鋭利な爪を備えた三本の指へと変わり、背には巨大な翼。
揺らめく炎はそのままに、流線形に伸びた頭部と発達した胴とを結ぶ、太く長い首。
そして巨大化した全身の重量を支えるべくたくましく発達した脚部――
まさしく『竜神』と呼ぶに相応しい姿と化したマグニスの姿が、そこにはあった――
その光景を見ていたハジメもまた、驚愕の色を隠せずにいた。そしてその動揺は、隙を生み――
「がっ!?」
巨大な腕が、がしりとジェネスを握りしめた。
「くそっ……!この!」
抜け出そうともがく彼の姿を、赤い瞳がのぞき込む。その視線から、増幅された怒りと憎悪の念を感じるハジメ。
「このヤロ、そいつを離しやがれ!」
彼の危機に、見ているばかりではいられなくなったルージュが飛び出し、火球を放つ。
しかし、そんな攻撃が通じるはずもなく。
歯を食いしばり、諦めることなく攻撃を加え続ける彼女。
そんな彼女を鬱陶しく感じたのか。マグニスの視線が地上を向く。そして怪物はその口を開き――
「ルージューーッ!」
刹那。彼女を放たれた火炎が襲った。それは彼女を覆って尚地を焦がして直進し、木々を焼き尽くす。
照り返した炎が昼間のように空を照らし、煙が立ち込める。
「そんな……」脱力感がハジメを襲う。
またも大事なものを守れなかった絶望に、彼の心が染まろうとした、その時。
「ヌゥアアアッ!」
ベリルの叫びが、黒煙の空に轟いた――!
炎を裂き、黒き斬撃が宙を舞う。それはまっすぐにマグニスの元へと突き進み、
「グガッ!」直撃。軽く呻きを上げ、締め付けが弱まる。すかさず脱出し、距離をとるハジメ。
彼が地上を見やると、
「ったく、俺まで巻き込みやがって」
刀を振り抜いた姿勢のベリル、そして――
「……」
その後ろに立ち尽くす、ルージュの姿。
「お前、何で」
「あ?……ああ、いたのか」
ベリルはチラリとルージュを見やると興味無さげに返し、ハジメのほうを向く。
「邪魔が入った……また会おう、じゃあな♪」
そして口の端をにやりと上げ、影のように姿を消してしまった。
「ベリル……」
ルージュの無事に安堵する思いと、ベリルの行動に疑問を覚える思い。その二つが同時に去来し、複雑に混ざり合うままにつぶやくハジメ。
しかし、今は考えている場合ではない。
今やるべきことは、目の前のあれを止めることだと首を振り、向き直った――
0
お気に入りに追加
18
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる