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三十 再会
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「旦那が帰ってこなければ、お前もここで働くことになるんだ。しっかり仕事を見ておくんだな」
清兵衛と名乗った平政が、揚浜屋へ行ってこい、と三好屋を追い出された後、ふくは、しばらく一人で放っておかれた。見世の中は、次第にさわさわとざわめき始める。明け方、客を見送ってから二度寝した遊女たちが、昼見世に向けて準備を始めた頃合いらしかった。
通されていた小さな部屋へ顔を覗かせた楼主が、見世の中を見られるように襖を開け放つ。平政を送り出した後、すぐに戻って来なかったのは、わざとであるらしかった。確かに、よく分からない状況で一人で部屋にいると、不安な気持ちが膨れてきていた。けれど。
旦那、という言葉に、それも吹き飛んでしまった。
旦那って、遊斎さんのことよね……。
頬が熱くなってくるのが分かる。
見世へ入るための方便とはいえ、とんでもないことを言ってしまった、と、そちらの不安が湧いてきた。
うつ向いて赤くなるふくが、楼主の目にはどう見えたのか、ふん、と満足気に鼻を鳴らして、またどこかへ行ってしまう。
襖の向こうには大部屋が見えて、風呂上がりで、着物を適当に引っかけた遊女たちが化粧をする様子が伺えた。
「待て、遊斎。お前どの面下げて戻ってきた」
そんな楼主の声と、どたどたと廊下を走る足音が聞こえたのは、それからすぐのこと。
「おふくちゃん、どこ?」
遊斎の声がする。
「遊斎さん!」
ふくが声を上げると、すぐに足音は近付いてきた。気付いた遊女たちが、きゃあと声を上げる。
走ってきている、ということはご飯はちゃんと食べてるみたいだ、とふくは、ほっとした。とにかく、遊斎が食べているかどうかが心配だったのだ。
だから、遊斎と顔を会わせて、にっこり笑うことができた。
「おふくちゃん、無事か」
「それは、私の台詞。ご飯、食べた?」
「うん。はい、食べました」
「なら良かった。じゃ、私帰るね」
ふくの懸念は晴れた。ここまで来た甲斐があったというものだ。そして、遊斎がしっかりご飯を食べていると分かれば、今度は、昼時に父の店から離れた場所にいるのが申し訳なくなってきた。
早く帰って手伝いをしよう。
「あ、昼時……」
ふくの帰るの言葉に、遊斎も、はっとした顔を見せる。
「忙しい時間に、心配かけてごめん」
「無事ならいいの。今日は、うちに寄る?」
「ああ、うん。もちろん」
「じゃあ、後でね」
朗らかに言ったふくは、追い付いてきた三好屋の楼主に丁寧に頭を下げた。
「あの、お世話になりました。仕事があるので、帰ります」
「ああ、そうかい、って言うとでも思ったか。そこへ座れ!場合によっては、旦那のこさえた借金をお前の体で払ってもらうって言ってんのは、脅しでも何でもねえんだ」
額に青筋を立てた楼主が、それを許すはずもなかったが。
清兵衛と名乗った平政が、揚浜屋へ行ってこい、と三好屋を追い出された後、ふくは、しばらく一人で放っておかれた。見世の中は、次第にさわさわとざわめき始める。明け方、客を見送ってから二度寝した遊女たちが、昼見世に向けて準備を始めた頃合いらしかった。
通されていた小さな部屋へ顔を覗かせた楼主が、見世の中を見られるように襖を開け放つ。平政を送り出した後、すぐに戻って来なかったのは、わざとであるらしかった。確かに、よく分からない状況で一人で部屋にいると、不安な気持ちが膨れてきていた。けれど。
旦那、という言葉に、それも吹き飛んでしまった。
旦那って、遊斎さんのことよね……。
頬が熱くなってくるのが分かる。
見世へ入るための方便とはいえ、とんでもないことを言ってしまった、と、そちらの不安が湧いてきた。
うつ向いて赤くなるふくが、楼主の目にはどう見えたのか、ふん、と満足気に鼻を鳴らして、またどこかへ行ってしまう。
襖の向こうには大部屋が見えて、風呂上がりで、着物を適当に引っかけた遊女たちが化粧をする様子が伺えた。
「待て、遊斎。お前どの面下げて戻ってきた」
そんな楼主の声と、どたどたと廊下を走る足音が聞こえたのは、それからすぐのこと。
「おふくちゃん、どこ?」
遊斎の声がする。
「遊斎さん!」
ふくが声を上げると、すぐに足音は近付いてきた。気付いた遊女たちが、きゃあと声を上げる。
走ってきている、ということはご飯はちゃんと食べてるみたいだ、とふくは、ほっとした。とにかく、遊斎が食べているかどうかが心配だったのだ。
だから、遊斎と顔を会わせて、にっこり笑うことができた。
「おふくちゃん、無事か」
「それは、私の台詞。ご飯、食べた?」
「うん。はい、食べました」
「なら良かった。じゃ、私帰るね」
ふくの懸念は晴れた。ここまで来た甲斐があったというものだ。そして、遊斎がしっかりご飯を食べていると分かれば、今度は、昼時に父の店から離れた場所にいるのが申し訳なくなってきた。
早く帰って手伝いをしよう。
「あ、昼時……」
ふくの帰るの言葉に、遊斎も、はっとした顔を見せる。
「忙しい時間に、心配かけてごめん」
「無事ならいいの。今日は、うちに寄る?」
「ああ、うん。もちろん」
「じゃあ、後でね」
朗らかに言ったふくは、追い付いてきた三好屋の楼主に丁寧に頭を下げた。
「あの、お世話になりました。仕事があるので、帰ります」
「ああ、そうかい、って言うとでも思ったか。そこへ座れ!場合によっては、旦那のこさえた借金をお前の体で払ってもらうって言ってんのは、脅しでも何でもねえんだ」
額に青筋を立てた楼主が、それを許すはずもなかったが。
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