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二十三 迎えに行きます
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「おふくちゃん、大丈夫かい?これ、うちの味で良ければ飲んで」
ふくが、誰もいない遊斎の部屋で呆然と座っていると、おとみが味噌汁を持って顔を覗かせた。
「ありがとうございます」
良い匂いに、ほっと息を吐く。途端に、空腹を思い出した。
「いただきます」
そう言ったふくに、安心したおとみが頷く。
「ちょっと旦那のご飯も出してくるね。後で来るから」
「忙しい時間にすみません」
「いいんだよ。うちに来ててもいいんだけど、ここの方が落ち着くだろ?」
「あの、本当に、すみません……」
味噌汁をすすって人心地ついてみると、随分と早い時間に他所の家へ押し掛けてしまったものだ、と恥ずかしくなってくる。
「何言ってんだい。姿が見えないんだ。心配なのは当たり前だろ?あたしだって、遊斎さんの姿が見当たらないって聞いて驚いちまってさ。……遊斎さんのことだもの。きっと灯りをもらって夜通し絵を描いてるに違いないよ」
「ええ、はい。そうですね」
ざわざわと、たくさんの人の声がする。ああ、どこも長屋の朝は同じだな、とふくは思う。与兵衛長屋の入り口の行列には驚いたけれど、中にいれば、入ってきた棒手振り達から小鉢や野菜を買い、飯を炊き、味噌汁を煮る、というどこでも同じ生活が営まれている。
同じだ、いつもの朝だ。
遊斎がいないこと以外は。
持参した握り飯二つとおとみにもらった味噌汁をしっかり食べて、ぐっと気合いを入れる。
吉原も行ってみよう。
ここまで来たら、答えは一つだった。
「仕事に出たのは間違いない」
「じゃあ、やっぱり、仕事から帰ってきてないんだね」
ふくが、吉原に行ってきます、と言おうと思っている間に人が集まってきて、てんでに話し始めていた。侍や仕事前の男衆までいる。
「あの、私、吉原まで行ってみます」
やっと届いた声に、おかめが返事をくれた。
「おふくちゃん、一人で行っちゃ駄目だよ」
「あの、でも皆さんにご迷惑をかけるわけには」
「長屋の仲間の行方が知れないんだよ。どちらかというと、おふくちゃんに迷惑をかけちまってるね」
その言葉に、はっとした。
そうだ。自分こそが、遊斎にあまり関係もない人間だった。
「誰も、おふくちゃんのことを他所の者だとか思っちゃいないよ。ただ、皆、同じように心配してるだけなんだから」
おかめの言葉に、涙を堪える。今はもう、遊斎のことは長屋の人たちに任せて自分は父の店で待っていよう、とは思えなかった。たった一日、姿を見ないだけで心配で堪らない。
無事を確かめるなら自分の目で。本当のことを確かめるのも、自分の目と耳で。もう、他の誰かから聞かされた話で、納得ができるとは思えなかった。もし、店の客が言っていたように、遊斎が遊女と一晩過ごしたのだとしても、それは自分で知りたい。
気持ちが固まったふくは、しっかりとした声で言った。
「吉原に、遊斎さんを迎えに行きます」
ふくが、誰もいない遊斎の部屋で呆然と座っていると、おとみが味噌汁を持って顔を覗かせた。
「ありがとうございます」
良い匂いに、ほっと息を吐く。途端に、空腹を思い出した。
「いただきます」
そう言ったふくに、安心したおとみが頷く。
「ちょっと旦那のご飯も出してくるね。後で来るから」
「忙しい時間にすみません」
「いいんだよ。うちに来ててもいいんだけど、ここの方が落ち着くだろ?」
「あの、本当に、すみません……」
味噌汁をすすって人心地ついてみると、随分と早い時間に他所の家へ押し掛けてしまったものだ、と恥ずかしくなってくる。
「何言ってんだい。姿が見えないんだ。心配なのは当たり前だろ?あたしだって、遊斎さんの姿が見当たらないって聞いて驚いちまってさ。……遊斎さんのことだもの。きっと灯りをもらって夜通し絵を描いてるに違いないよ」
「ええ、はい。そうですね」
ざわざわと、たくさんの人の声がする。ああ、どこも長屋の朝は同じだな、とふくは思う。与兵衛長屋の入り口の行列には驚いたけれど、中にいれば、入ってきた棒手振り達から小鉢や野菜を買い、飯を炊き、味噌汁を煮る、というどこでも同じ生活が営まれている。
同じだ、いつもの朝だ。
遊斎がいないこと以外は。
持参した握り飯二つとおとみにもらった味噌汁をしっかり食べて、ぐっと気合いを入れる。
吉原も行ってみよう。
ここまで来たら、答えは一つだった。
「仕事に出たのは間違いない」
「じゃあ、やっぱり、仕事から帰ってきてないんだね」
ふくが、吉原に行ってきます、と言おうと思っている間に人が集まってきて、てんでに話し始めていた。侍や仕事前の男衆までいる。
「あの、私、吉原まで行ってみます」
やっと届いた声に、おかめが返事をくれた。
「おふくちゃん、一人で行っちゃ駄目だよ」
「あの、でも皆さんにご迷惑をかけるわけには」
「長屋の仲間の行方が知れないんだよ。どちらかというと、おふくちゃんに迷惑をかけちまってるね」
その言葉に、はっとした。
そうだ。自分こそが、遊斎にあまり関係もない人間だった。
「誰も、おふくちゃんのことを他所の者だとか思っちゃいないよ。ただ、皆、同じように心配してるだけなんだから」
おかめの言葉に、涙を堪える。今はもう、遊斎のことは長屋の人たちに任せて自分は父の店で待っていよう、とは思えなかった。たった一日、姿を見ないだけで心配で堪らない。
無事を確かめるなら自分の目で。本当のことを確かめるのも、自分の目と耳で。もう、他の誰かから聞かされた話で、納得ができるとは思えなかった。もし、店の客が言っていたように、遊斎が遊女と一晩過ごしたのだとしても、それは自分で知りたい。
気持ちが固まったふくは、しっかりとした声で言った。
「吉原に、遊斎さんを迎えに行きます」
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