【完結】絵師の嫁取り

かずえ

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四 誰か遊斎を見たか

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 またしても、何か警戒しているようなおかめの物言いに、緊張が走る。どうにもこの長屋は、入るのが難しい所らしい。いや、見も知らない者が訪ねてきたら、どこもこういうものなのかも。確かに、よく知らない者に、長屋の中をうろつかれたら嫌かもしれない。物騒だし。ふくは、他所の長屋を訪ねたことがないので分からなかったが、そう考えて納得した。
 それなら、食べ物だけを届けてもらい、遊斎さんの様子を教えてもらおう、とふくは考えた。よし、とおかめに向き合う。

「実は、遊斎さんは前に、食事はうちでしか食べていないと言ってたことがあるんです。言葉通り、昼も夜もうちの店にいて食べてました。けど、今日まで三日、姿を見ていないんです。前にも、二日ほど姿を見なかった時がありました。ふらふらでやって来て、何も食べてなかったと言ったんです。うっかり忘れてたって」
「はあ?」

 おかめの大きな声が響き渡った。

「うっかり?食事を?二日も三日も忘れるってのかい、あの馬鹿は!」
「あの。他の食事処を見つけたってんなら、それでもいいんです。今、うちから食べ物を持ってきたんですけど、結構な距離があって。もともとうちは、遊斎さんの仕事場の近くだったらしいから。でも、もしかして、万が一、うっかりしてるのだとしたら、そろそろ動けなくなっているんじゃないかと、心配で」

 おかめは、ふくの言葉を聞きながら真っ青になった。

「松木様。最近、熊吉が出かけるとこを見ましたかい?」
「熊吉?」
「ああ、いや遊斎だよ。まったく、大層な名前を付けて、呼びにくいったらないね」
「遊斎……。いや、拙者は見ておらんようだ」
「あたしもですよ。おふくちゃんの勘が当たってるかもしれない。急いで、熊吉のとこに行くよ」

 おかめは、わたわたと裏木戸をくぐった。ふくが、どうしたものかと躊躇っていると、早くおいで、と言う。松木を見上げると、頷いている。この人は、此処に残るらしい。
 ぺこりと頭を下げると、ふくは桶をしっかりと持ち直して与兵衛長屋の裏木戸をくぐった。
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